今年も何が悲しくって、ここに呼び出しされているのだろうか。
 仕事とこの呼び出しのどちらを取るかを聞かれれば、喜んでこの呼び出しを選択するが、今は接点のなくなった人物の家にこうも堂々とお邪魔してもいいものなのだろうか??

『入らないのか?』

 俺の肩に乗っかっている『昼』が、不思議そうに訪ねてくるが、今はそれに答えてやる余裕はない。
 確かに、あいつの誕生日にはケーキをプレゼントしたのは否定しないが、それでも、あっちは大学生になり、一緒の大学を行ってる訳じゃねぇ、あいつと俺の接点って言ったら、この肩に乗っかっている猫ぐらいか?

 っても、それも誕生日を祝ってもらうような理由にはなってない筈だ。
 なのに、しっかりと俺のばーちゃんから休みをもぎ取って、しっかりとお誘いのされたのは、昨日の夜の話。

 俺が星馬の誕生日を祝うのは、なんて言うかまぁ、納得できなくもねぇんだけど、なんであいつまで俺の誕生日を祝うんだ??
 普通、こんな日は、大学生って忙しいはずじゃねぇの??

 いや、大学行ってない俺が言うのもなんだけど、多分合コンとか合コンとかで、俺なんかの誕生日を祝う暇なんてねぇ筈だ。
 そう思うのは俺の偏見かもしれねぇけど、学生ならそれが普通だろう。

 っても、星馬と合コン……想像がつかねぇかも……。

「そんな所に突っ立てないで、いい加減中に入ったらどう?」

 自分で考えた事に頭を抱え込んだ俺の耳に、呆れたような声が掛けられる。

「全く、毎年毎年、人が出迎えないと素直に家にも入れないのか、君は!」

「悪かったな。なんて言うか、世の中には不思議な事があるよなぁって、考えてたんだよ」

「何を今更、そもそも君の肩に乗っかっているモノからして普通ではありえないんだから、そんな事考えても無駄ってもんでしょう」

 呆れたような星馬の言葉に、俺は世の無常と言うか不思議さを考えたと言えば、もっと呆れたように盛大なため息と共にもっともな事を返された。
 うん、まぁ、否定は出来ねぇし、こんな家業している俺が、不思議について考えてもなぁ……そりゃ、説得力はねぇよ。

「そんな訳だから、早く入る。心配しなくっても、今年も母さん達は二人揃って出掛けているから安心してくれていいよ」

 星馬に言われて、納得してしまった俺にサラリと言われた言葉。
 まぁ、親と一緒にクリスマスって年じゃねぇのは分かるけど、毎年毎年こいつ等の親って居たためしねぇんだけど……って、こいつが何か仕掛けてんのか??

『『昼』、いらっしゃい。で、入らないの?』

 疑問に思った所に、スッと姿を現したのは、『昼』の弟と言う存在である黒猫。
 明るい声で挨拶をして、不思議そうに首を傾げるその姿は、猫好きが見れば騙されるだろう程可愛いかも……。

『……いや、が……』

「入るよ。邪魔するな」

 弟に促されて『昼』が困ったように見上げてくるその視線に、俺は観念して門を潜る。

「いらっしゃい。中に豪も居るから遠慮せずどうぞ」

 観念した俺に、ニッコリ笑顔で星馬が中へと勧めてくれた。

「……兄弟揃って暇人だな……」

 笑顔で勧められたその言葉に、ボソリと小さく呟く。
 モテる筈なのに、兄弟揃って俺の誕生日祝ってる場合なのか?

「失礼だね。これでもお誘いだけは困った事はないんだけどね。それにね、毎年ボクと豪の誕生日にケーキをプレゼントしてくれる友人に感謝の気持ちを返すのは当然の事だと思うんだけど」

「あ〜っ、まぁ、俺も友人が生まれた記念に祝ってやろうかと……」

「それと同じだよ。君に出会ってボクは初めて本当の自分で話を出来る友人が出来たんだからね。だから、たった一人の大切な友人が生まれた日を感謝するのは当然の事だよ」

 呟いた俺の言葉に、星馬が反論の言葉を返してくる。

 まぁ、それは否定しねぇんだけど、俺が返した言葉にしっかりと同じように返されては反論する事も出来ねぇ……。
 お互い、初めて本当の姿で接する事が出来る友人と言うのは、嘘偽りのない真実。
 俺に至っては、本当に初めて出来た友人と呼べる相手。

「あっ、そうだった」

「何だよ」

 家に入って直ぐに、星馬が思い出したと言うように手を叩く。
 そんな相手に俺は、意味が分からず立ち止まって相手を見た。

、誕生日おめでとう」

 そして言われた言葉に、一瞬絶句。
 何度言われても、その言葉になれる事は出来ない。
 聞き慣れていない言葉に、自然と顔が赤くなるのが分かる。

「………サンキュ…」

 赤くなる顔を星馬から逸らして、それだけを返すのが精一杯。

『オレからも言ってもいいか?』

「『昼』のは、何度も聞いたから、もう十分だ!『夜』も言わなくっていいからな!!」

 そんな俺に、『昼』が上目使いで俺を見てきて訪ねられたその言葉に、慌てて否定の言葉と星馬の肩に乗っかっている『夜』には、しっかりと釘を刺す。

「いい加減、慣れればいいのに……」

 慌てている俺に、星馬が呆れたようにため息をつく。

 そうは言われても、俺はずっと親からは、誕生日を祝ってもらった事なんてない。
 小さい頃から、自分の誕生日だとしても、払い屋になるためにばーちゃんから修行受けてたり、仕事できるようになってからは当たり前のように仕事をしていたんだから、今日と言う日は、何時もと変わらない普通の日と同じだったのだ。

 なのに、初めて出来た友人が、自分が生まれてきた事を祝ってくれる。
 初めての事に、戸惑ったのが本音。

 それに、『昼』からは、自分が生まれてきた事に感謝までされる始末。
 ハッキリ言って照れるなという方が無理な話だ。

「おせぇぞ!折角の料理が冷めちまうじゃんかよ……って、何してんだ?」

 余りにも遅い自分達に、星馬弟が痺れを切らして出迎えに来る。
 そして、不思議そうに俺達を見た。

 まぁ、疑問に思っても仕方ないだろう。
 その場所では、真っ赤になっている俺と、楽しそうに笑っている星馬と『夜』の姿。
 『昼』は、呆れたようにため息とついているのだから


 今年も、自分を祝ってくれる人が居る。
 初めて出来た友人と呼べる相手。

 そして、自分を信じて傍に居てくれる唯一の存在。
 お前達に出会って、俺は初めて生まれてきた事を祝ってもらえた。

 照れくさいから、絶対に言えねぇけど、本当は感謝しているのだと、その内本人達に言えるだろうか?

 まぁ、俺の性格考えれば、無理な話だろうけどな……。