|
何時ものように、呼び出しをされた。
別に、それが嫌だと思う訳じゃない。
どちらかと言えば、ストレス解消になって、自分的には楽しませてもらっていた事は、否定しないけど……。
「お前は、目立ち過ぎなんだよ!」
目の前の相手が、訳の分からない事を言う。それに、僕は、盛大なため息をついて見せた。
「生意気なんだよ、入学当時から!」
『目立つ』や『生意気』そんな言葉、聞き飽きた。
もっと僕が、凄いと思えるような事、言えないのかなぁ……。
昔はあんなにも、楽しんでいた『呼び出し』も、今では退屈なモノになってしまった。
大体どうしてこう、呼び出す奴一人一人が同じ事を言うんだろう。
こんな状態で、飽きるなと言う方が、無理な話だと思うんだよね。
何も言わずに、ただため息をつく僕に焦れて、一人が何か文句を言いながら殴り掛かってきた。
それも、何時もの事なので、軽く交わして懐にはいると、その勢いを利用して、相手を投げ飛ばす。
一人が殴り掛かってきたことで、他の奴らも動き出した。
全く、理解不明と言うか、毎回毎回、行動パターンが同じ過ぎるよ。偶には、こう驚くような行動を見せてもらいたいよね。
彼らの攻撃を交しながら、思わず盛大なため息をついてしまう。そして、もう一度人を投げ飛ばした瞬間、誰かの視線を感じて、顔を上げた。
はっきりと感じた視線に、校舎を見上げる。その瞬間、その場に立っている人影が目に付き、僕は驚いて瞳を見開いた。
この離れた場所からでも分かった相手に、思わず舌打ちする。まさか、こんな所を見られるなんて考えてもいなかった相手だけに、複雑な気持ちは隠せない。
そう、窓から見ていたのは、最近生徒会で一緒になった相手。
僕にとっては、クラスメイトであり、生徒会のメンバーでもある相手が、僕を見ていた。
驚いて僕が見ている中、相手の姿が奥へと見えなくなる。
「……本当、に見られたのも、君達の所為だからね。覚悟していてよ」
そして、その後、彼等が、僕に八当りされたのは、自業自得だと思う。
どうやって、あの時の事を誤魔化すかと考えながら教室に戻って扉を開いた瞬間、当然のように自分の席に座っているその姿を見つけた。
見られたものは、仕方が無い。
それに、喧嘩をしていた訳じゃないし、僕としての言い分も言い訳も、十分にあるはずだ。
「くん」
ここは、直球で相手を丸め込もうと、その名前を呼ぶ。
「……何かな、星馬くん」
僕の呼び掛けに数秒の時間を置いて、が振り返る。
返事が遅かったのは、先の事を誤魔化そうとしている所為かもしれない。
「話があるんだけど、ちょっといいかな?」
何処か複雑な表情が伺えるに、ニッコリと笑顔で、問い掛ける。
勿論、拒否権なんて、絶対に認めないけどね。
「生徒会の事で、何か問題があったかなぁ?」
ニッコリと質問した僕に、が不思議そうに問い掛けて来た。
ああ、本当に先の事、誤魔化したいのかも……。
でも、ここで流されたら、僕としても後が困るんだよね。
「ううん、個人的な事で悪いんだけど、付き合って欲しいんだ」
当り障りの無い言葉を口にして、相手の反応を伺い見る。
は、一瞬考えるような素振りを見せてから、小さく頷いた。
「うん、ボクなんかで良ければ………」
考えるような素振りが気になるけど、相手が頷いた事に、少しだけホッとする。
「それじゃ、放課後」
の言葉に、もう一度笑顔を見せて、僕は自分の席へと着いた。
授業中は上の空状態で、放課後のことを考えていた僕に、最後のチャイムが聞こえて、顔を上げる。
ホームルームも終わった教室内は、開放感が感じられるこの時間に、賑やかな状態。
そんな中、自分の鞄を持ってそのまま椅子を立ちあがろうとしている人物に気が付いて、僕は慌てて相手の席へと移動した
「それじゃ、くん、付き合ってもらえるかな?」
の前に立った僕に、ゆっくりと視線が向けられる。
それを感じて、僕は、ニッコリと笑顔を見せた。
勿論、忘れていたなんて、絶対に許さないからね。
「えっと、生徒会室でいいかな………」
僕の内心なんて、気付かない状態で、が恐る恐る質問してくる。
「勿論、生徒会室でいいよ。ごめんね、無理に付き合わせて」
質問された内容に、僕はニッコリと頷いて、形式上の謝罪を述べた。
勿論、悪いなんて、これっぽちも思ってはいけどね。
今、頭の中にあるのは、どうやってあの事をに口止めするかって事だし……。
頭の中ではそんな事を考えながら、生徒会室へと急いだ。
「気にしなくって大丈夫だよ。それで、話って?」
僕の謝罪に、が小さく首を振って、それから急かした様に質問してくる。
質問しながらも、本当は僕が何を話したいかって事を、こいつはきっと分かっているに違いない。
髪と眼鏡で隠されている為殆ど見ることは出来ない瞳が、真っ直ぐに僕を見ているのが分かるから……。
「……今日の昼間、、見ていたよね?」
質問された事を封切りに、僕は真剣に見詰めてくる瞳を真っ向から受け止めた。
そして、僕の口から出てきたのは、何時もの猫を被ったものなんかじゃなく、嘘偽りのない僕の言葉。
何時もは、『君』付けしているのに、今だけは、それを付けずに相手の苗字を呼ぶ。
「昼間?お昼休みの事?」
何時もとは全く違う雰囲気を纏って、何時もは呼ばない呼び方をする。
そんな僕に驚く事もなく、が不思議そうに問い掛けてくる。
一瞬その雰囲気に驚きはしたものの、気をとり直して、口を開いた。
「そう、僕が呼び出した相手を投げ飛ばしていた所」
見ていた事は、ちゃんと知っている。だから、質問と言うよりも、確認。
ジッとを真っ直ぐに見詰めて、その答えを待つ。
勿論、『見ていない』なんて、そんな嘘は、言えないだろう。
「うん。見たよ」
僕が真っ直ぐに見詰める中、あっさりとが肯定の言葉を口にした。
そう、それは本当にあっさりと、思わず拍子抜けしてしまうほどすんなり。
思わず僕は、反応に困ってしまった。こんなにすんなり認めるなんて思ってもいなかったから……。
は僕から見るとガリ勉タイプで、気が弱そうに見える。
なのに、今、彼は僕に怯える事は全くしていない。
あんな風に、誰かと喧嘩していた姿を見ていたと言うのに……。
「それで、どうしたの星馬くん?」
返答に困っている僕に、が問い掛けてくる。
「えっと、僕があんな事してたのに、先生とかに話したりしないの?」
その質問に、何とか質問で返す。
情けない事に、僕にはそれが精一杯の対応だったんだけどね。
「どうして、話さなきゃいけないの?別に、ボクには関係のない事だからね。星馬くんが、『呼び出し』されて、いやだと思うんなら、自分で話した方がいいと思うよ」
そんな僕の質問に、があっさりと言葉を返してきた。
それは、本当に『自分には関係無い』と断言している。
そして、闇に、誰にも話すつもりが無いという事も……。
「あの、?」
そんなの反応が余りにも意外過ぎて、思わずその名前を呼んでしまった。
「話は、それだけ?」
探るように名前を呼んだ僕に、が問い掛けてくる。
それに、僕は大きく頷いた。
「えっと、うん………、実は、変わっているって言われない?」
だって、優等生である彼は、ライバルと言われている僕を普通は先生に売るもんだと思っていたのだ。
なのに、彼は、僕の事など全く興味無いと言うように、言い切った。
思わず呟いてしまったのは、僕の本心。
普通は、僕が考えていたように、先生に告げ口して、僕の事を蹴落とすくらいするのが、ガリ勉タイプの人間。
それなのに、それを言うのなら、自分で言えと言われたのだ。
普通では、絶対に考えられない。
「……ボク、変わっているかな?」
僕に『変わっている』と言われも、怒りもせずに、ただ不思議そうに問い掛けてくる。
うん、やっぱり十分変わっていると思うけど……。
だから、思わず素直に頷いてしまった。そんな僕に、は、複雑な表情を見せる。
「そっか、言われなれてはいるけど、自分では、普通だと思うんだけどね………」
「ううん、十分変わっているよ。でも、有り難う」
……言われ慣れている時点で、『変わっている』と思うんだけどね……。
だけど、が変わっているって事で、僕が救われたのは、本当。
だから、彼の言葉を否定してから、素直に、お礼の言葉を述べた。
「えっと……お礼言われるような事、ボクはしてないと思うんだけど…………」
突然の僕のお礼に、が不思議そうに首を傾げる。
それは、本当に意味が分からないと言う表情で問い掛けてくるに、僕は漸く安心して何時もの笑みを浮かべた。
「ううん、ボクにとっては、とっても助かったからね。だから、有り難う」
そして、素直に感謝の気持ちを伝える。
嘘偽りの無い、本当の僕で、素直に彼に言葉を伝えた。
そんな僕に、は一瞬驚いたような表情を見せたけど、その後、フワリと笑顔を見せる。
何処か心が和むような、暖かな笑顔。
以前にも、何処かで見た事が、あるような笑顔で……。
「………それじゃ、どういたしまして。星馬くん、何時もそうやって話している方が、君らしいと思うよ」
「そう言ってくれたのは、君と、あの馬鹿くらいなもんだよ」
その笑顔と共に言われた言葉に、僕は嬉しくなる。
こんな風に感じたのは、家族以外ではきっと初めての事。
だから、すんなりと返す事が出きる。
自分で感じているこの気持ちが余りにも意外過ぎて、思わず考えてしまう程だ。
どうしてこんなに、普通で居られるのか、家族以外には本当の姿を見せた事など、一度もないと言うのに……。
「せっかく、生徒会室にいるんだから、紅茶でも入れようか」
「突然だね、………」
考え込んでいる僕の耳に、の言葉が聞こえてきて、我に返る。
突然の事なのに、もう既にお茶の準備を始めているに、思わず感心してしまった。
「もう一人、お客さんも来るみたいだしね」
「えっ?」
僕の言葉に、意味深な笑みを浮かべて、訳の分からない事を言うに、問い掛けようとした瞬間、バタバタと慌しい足音が聞こえて来た。
この足音は、誰かなんて確認しなくっても分かる。僕のたった一人の弟だろう。
「兄貴!また『呼び出し』受けたんだって!!」
そう思った瞬間、勢いよくドアが開いて、予想通りの奴が部屋に入ってきた。
「豪!」
入ってきた瞬間に言われた言葉に、咎めるようにその名前を呼ぶ。
には、バレているけど、そんな大声で言って、もしこの場所に他の役員が居たらどうするつもりだったんだ、こいつ。
「あっ!副会長……」
僕に名前を呼ばれて、の存在に気が付いた豪が慌てて口を押さえる。
けど、もう遅いと思うんだけどね、普通。
「こんにちは、星馬弟くん。今からお茶入れるから、ソファに座って大丈夫だよ」
そんな豪に、が楽しそうに笑いながら、ソファに座るように促す。
に言われて、豪が複雑な表情で頷くと、僕に近付いて来た。
「なぁ、副会長って、もしかして知っているのか?」
どうやら、自分の言葉で、驚かなかった事に、疑問に思ったのだろう。
不思議そうに小声で僕に問い掛けてきた。
「……今日、その呼び出されている現場を見られた」
豪の疑問に、僕は正直にあった事を話す。
それに、豪が驚いたように僕を見てくる。
まぁ、普通はそんな事信じられないだろうね。
だって、の態度は、全く変わっていないんだから……。
「はい、どうぞ」
複雑なまま座っている僕達に、がカップを差し出してくる。
「あっ、すんません」
それに、豪が慌てて頭を下げてそれを受け取った。
「有り難う、」
豪に続いて、僕も素直にが渡してくれたカップを受け取る。
だって、もう既に何度か頂いているけど、の紅茶は、僕のお気に入りの味だから…。
「どういたしまして……ところで、星馬弟くんの言葉を考えると、『呼び出し』は、今回が初めてじゃないみたいだね。モテるのも大変って所かな?もうすぐ、バレンタインだしね」
僕達が素直に受け取った事に、笑顔を見せて、が『お気の毒』とでも言いたそうに、そう言った。
確かに、何かの行事があるたびに、呼び出しは多くなる。
そして、今度の呼び出しの理由は、バレンタインだと言う事も、否定できない。
だけど、そんな仕組みなんて、普通は『呼び出し』には縁の無い人には、分からない事だと思うんだけど……。
「良く、分かったね」
「まぁ、呼び出しなんてする人達って、単純みたいだからね」
だから、素直に感心したように呟けば、苦笑交じりに言葉が返ってくる。
だけど、『呼び出し』をする相手の気持ちが理解できるなんて、それって、もしかしても、経験者。
「何にしても、ご苦労様」
「……本当に、変わっているよね、………」
疑問に思った事を遮るように、労いの言葉が掛けられる。
その態度を見ると、経験があるようには、見えなくって、だから、また同じ言葉を返してしまった。
だって、普通は『呼び出す』奴の考えなんて、当事者じゃなきゃ分からないと思うんだけど……それを、あっさりと言葉にできるなんて、『変わっている』以外にどう言えば良い訳?
「そうかな?普通だと思うよ、ねぇ、星馬弟くん」
「…………いや、俺に聞かれても……まぁ、一つ言えるのは、兄貴が普通に話せる相手なんて、今まで存在してなかったよなぁ……」
僕の言葉に、一瞬考えるような間を持ってから、が今度は豪に問い掛ける。
まぁ、豪はの事をあんまり知らないし、問い掛けられても、困るだけだろう。
だけど、豪は、少しだけ考えながら、そう呟いた。
それって、闇に僕も変わっているって言われたように思うんだけど……。
だけど、確かに普通に話していると、僕とまともに話せる人は、殆ど居なかった。
ギャップの差。
そして、はっきりとした物言いは、余り受け入れられるものじゃなかったから……。
「星馬くんは、そんなに普通に話せる相手、居なかったの?」
「まぁ、兄貴の性格が性格だからなぁ……その点では、副会長も同類そうだけどな」
豪の言葉に、が不思議そうに問い掛けてくる。
その質問には、僕ではなく、豪が言葉を返した。
確かに、も独特の雰囲気がある。
なんて言うのか、クラスの中に居る時と、こうして話しをすると、その違いは大きくなる。
見た目とのギャップは、もしかしたら僕よりも上かもしれない。
「嫌、かも………」
「何が嫌なの、?」
考えるような表情を見せていたが、ポツリと呟いた言葉を聞き入れて、思わず笑顔で問い掛けてしまう。
「えっ?何でもないよ。あっ!僕、用事があるんで、そろそろ帰らなきゃいけないんだけど、話し終わったんだよね?」
そんな僕に、は慌てて自分の腕時計を確認すると椅子から立ちあがった。
「、用事あったの?どうして、先に言わなかったんだい」
突然慌て出したに、僕は彼が用事があった事を初めて知る。
逃がすつもりは全然無かったけど、本当に用事がある人を、捕まえて置く気は、流石の僕も無いのに、きっと僕の迫力に押されて、言い出せなかったのだろうと理解して、小さくため息をつく。
「ごめん、どうしても外せない用事だから、ここの片付け任せてもいいかな?」
「勿論だよ。もう、そんな大事な用事があるなら、なおさら先に行って欲しいんだけど………」
僕の言葉に謝罪しながら、そうお願いしてくるに、僕は呆れたように言葉を返す。
僕が悪としても、やっぱりちゃんと言って欲しいよね。
こんなに慌てさせる事無かったのに……。
それに、僕達に、お茶なんて入れている場合じゃないと思うんだけど……。
「それじゃ、後はお願い!さようなら、星馬くん」
「気をつけて!」
本当に急いで出ていくその後姿を見送りながら、思わず苦笑を零してしまう。
バレてしまったのに、こんなに穏やかで居られるのは、知られた相手がだからだ。
あいつなら、誰にも話さないと言う安心感。
勿論、どうしてそう思うのかなんて、自分でも分からないけど……。
「なぁ、兄貴」
「ん?」
「副会長って、誰かに似てないか?」
が出ていったドアを見詰めている僕に、紅茶を飲みながら、豪が僕を呼ぶ。
それに、短く返事を返せば、問い掛けられた言葉。それは、前に僕も感じた事。
そう、は、誰かに似ているのだ。
だけど、その誰かが分からない。
「何にしても、これからとは、否応無しでも付き合わないと行けないんだから、その内分かるよ」
「ああ、確かに……兄貴、頼むから、俺にこれ以上心配掛けるのだけは、止めてくれ」
「それは、難しいお願いだね。大体、僕が自分から呼び出しているわけじゃないんだから、それを僕に言うのは間違いだと思うよ、豪」
「兄貴!」
「ほら、片付けて帰るぞ」
僕に文句を言おうとする豪を無視して、片づけを始める。
まだ、始まったばっかりの関係。
これからどうなるかなんて、僕にも分からないけど、これだけは言える。
とは、これからも、付き合っていけるんじゃないかって。そう、裏表なんてない状態でね。
|