「お兄ちゃん!これを、星馬先輩に渡して!!!!」

 何時ものようにのんびりとしていた俺は、突然部屋に飛び込んできた妹が、その勢いのままに差し出したモノを前に意味が分からずに首を傾げてしまった。

「これは?」

 バレンタインも終ったし、ホワイトデーも先月無事に終ったのは、記憶に新しい。
 星馬には、しっかりと、生徒会室で、全ての真相を話したのを思い出して、思わずため息をつきそうになってしまう。

「烈先輩への誕生日プレゼント!!!」

 俺の質問に、キッパリと返された言葉に、思わず椅子から落ちそうになる。
 そんなに、勢いを付けなくっても、いいと思うぞ、妹よ。

「星馬くんの誕生日って、何時?」

「明日よ、明日!お兄ちゃん、私に内緒で、星馬先輩と一緒の生徒会メンバーなんでしょう!だから、これ、プレゼントを直接渡して欲しいの」

 『だから』って言う言葉は、こう言うときに使うものじゃないぞ。
 大体、内緒でって言うのは、どう言う意味だ。
 お前に許可を貰わないといけない決まりはない!
 しかも、生徒会のメンバーになったのだって、俺の意思じゃ無いんだからな。
 目立つのは、嫌いなんだよ、俺は!!

「……悪いけど、そう言うのは、同じ学校行き始めたんだから、自分で渡した方がいいと思うよ。星馬くんに、顔覚えてもらいたいんだったら、尚更ね」

「そ、そんなの出来ないから、お兄ちゃんにお願いしてるんじゃない!」

 そんな事も出来ないようじゃ、お前は一生、星馬に話し掛ける事は出来ないぞ。
 自分でアタックできないで、何がファンだ。
 悪いけど、同じ学校行っているのに、態々届けてやるなんて、俺はそこまで優しくないからな。

「自分で渡せないんなら、諦めるんだね。そんないい加減な気持ちは、星馬くんにとっても、迷惑だと思うよ」

 キッパリと言えば、落ち込んだように俯いてしまう。

 ちょっと、久し振りにきつく言い過ぎたか?
 でも、間違った事は言ってはいないし、配達屋も廃業しないと、そろそろ本気で切れるぞ、俺は。

「……お兄ちゃん、変わった」

 これで、大人しくなるだろうと、安心して机に向き直った俺の耳に、ポツリと小さく呟かれた言葉が聞えてくる。
 『変わった』と言われて、思わず首を傾げてしまっても、許されるだろうか。

「変わった?僕が??」

 言われた事が理解できないで、思わず聞き返してしまうのは、仕方ないだろう。

「その、変な猫を拾ってきてから、お兄ちゃん冷たくなった!」

「はぁ??」

 そして、俺の言葉に返されたそれに、ますます『?』マークが、頭を支配する。

 いや、変わったって言われてもなぁ、お前の前じゃ、何時も猫被ってるんだから、統一されてない筈だぞ。
 その時の気分で、応対変えてんだからな。
 しかも、『昼』が来てから、冷たくなったって?
 いやその前から、本当の俺は、もっと冷たくって容赦なかったぞ。

「『昼』の所為じゃないし、僕は、何も変わってないよ。そう思うのは、お前の気の所為だ」

「嘘だ!だって、前は、ちゃんと星馬先輩に届けてくれたじゃない」

「それは、お前が中学生だったからだよ。今は、同じ学校に通っているんだから、僕が届なくっても、自分で持っていけるだろう?だから、届けないって、言っているんだよ」

 盛大なため息をつきながら、もう一度説明する。

 まったく、何でこんな事2回も言わなきゃいけないんだ。
 それぐらい、分かれよ。
 お前、そんなんでも、一応俺の妹なんだぞ。

「もういい!お兄ちゃんになんて、頼まない!!」

 いや、だから、あれでも理解できないのか!?
 言い逃げ状態で、俺の部屋から飛び出していくその後姿を見送って、再度盛大なため息をついてしまうのを、止められない。

『災難だな、

 妹が出て行った瞬間、俺のベッドで気持ち良さそうに寝たフリをしていた『昼』が、起き上がって、声を掛けてくる。

「まぁ、あんなんでも、妹だからな。それにしても、何で、あんなに理解力がないんだ?」

 そんな『昼』にもう一度ため息をつきながら返答して、思わず愚痴を零してしまう。

『お前が、冷たいからじゃないのか?』

「………それは、違うと思うぞ」

 俺の問い掛けに、さらりと返された言葉に、疲れたようにため息をつく。

 我妹ながら、本当に情けない奴だ。
 猫被ってない状態だったら、完膚なきまでに、言い尽くしてやれるのに……。

、お前、妹相手に、呪いなんてかけるなよ……』

「そんな事、する訳ないだろう?呪いなんて、まどろっこしい事しないで、直接手を下すに決まっている」

『……そっちの方が、問題あるんじゃないのか?』

 ニッコリと笑顔で返した言葉に、複雑な表情を浮かべて聞き返してくる『昼』の言葉を完全に笑みだけで返し、俺は妹の事を頭から追いやった。
 実際に、妹をどうこうしようなんて、全然考えていないか、考えるだけ時間の無駄と言うものだ。

 それにしても、明日は、星馬の誕生日なのかぁ……。
 俺の本性も知られて、改めて、友達になったんだから、お祝いでもしてやるかな。

「んじゃ、あいつの事は綺麗さっぱりと忘れて、ケーキでも焼くか。明日、生徒会室で、お祝いしてやろう」

『……そんな処が、冷たいんじゃないのか?』

 俺が決めた事を口に出したそれに、『昼』が、ポツリと呟いた言葉は、そのまま完全に無視する。
 終った事を考えるのは、俺の趣味じゃないんだよ。

 さて、何を作るかな?抹茶のシフォンに、フルーツ。チーズケーキもいいかも……あっ!久し振りに、シュークリームも作るか。
 頭の中で、何を作るかを考えながら、部屋を出る。
 そんな俺を、『昼』が、少しだけ呆れたような表情で送り出してくれた。



 大荷物を抱えて、朝も早くから学校へと向う。
 新入生達と違って、既に新学期を迎えたばかりだと言うのに、何時も通りの授業がある今日に、手作りの菓子が入っている幾つかの箱を持って歩きながら小さくため息をつく。

「今日は、生徒会メンバーで集まる事はなかったな。星馬を、呼び出ししねぇと、この折角の菓子が台無しになるな」

 持っている亜子を見詰めて思わず苦笑を零してしまう。

 ちょっと、作りすぎたかもしれない……。
 いや、楽しくってつい、作っちまったんだよなぁ。

 抹茶のシフォンは、俺が食べたかったからで、イチゴが大量にあったから、ストロベリータルト作って、んでもって、久し振りにシュークリームも作りたくなって、作ったんだよな。
 中も、同じじゃ面白くねぇって事で、カスタードに生クリームチョコレートとバニラアイス等などと、豊富な種類で作ってみた。
 お陰で、最近のストレスの発散にはなったが、やっぱり、作りすぎだよなぁ……。
 まぁ、確か、星馬には弟が居るし、大丈夫だろう。余ったら土産として、星馬に持って帰らせよう。

「生徒会室に、冷蔵庫があって良かったな……」

 そして、まだ人も殆ど居ない学校へ着くなり、俺は直行で、生徒会室に、自分が作った菓子を入れた。
 後は、放課後に、星馬を呼び出せば、大丈夫だな。
 『昼』が好きな紅茶の葉もあるから、文句も言われないだろう。うん。