「賭けは、ボクの勝ちみたいだね」

 ニッコリと笑顔で言われた言葉に、絶句してしまう。
 こんな事、初めてだから……。


 そもそも、こんな事になったのは、生徒会を巡る一件。
 この学校は、生徒会のメンバーを教師が決めると言う何とも迷惑な決まり事がある。
 最悪な事に、ボクはそのメンバーに入れられてしまった。
 そこで問題になるのが、その中で役職を決めると言う事。
 本当なら、そこまで教師が決める事になっているのに、今回ボクと目の前に居ると言う人物とでどちらかが会長になって欲しいと言ってきた。
 はっきり言えば、会長なんて面倒な雑用係だ。だからこそ、ニッコリ笑顔でに押し付けるつもりだった。

 このと言う相手は、名前だけなら、ボクと学年のテスト順位を競っていると言う事で嫌と言うほど知っている相手。
 だけどその人物自体は、メガネをかけ、前髪でほとんど目が隠されてる状態の、多分クラスの中で一番目立たない人物だ。

 時々、本当に存在を忘れてしまうぐらい、存在感の無い相手。
 だから、揉め事は嫌うだろうと思って、何も言わずに会長をしてくれるだろうと思っていたのに、しっかりと賭け事を申し出されたのには、はっきり言って驚いた。

「ボクは、会長って言う器じゃないから、星馬くんの方が向いていると思うんだけど……もしそれが嫌だと言うのなら、ボクと賭けをしようよ」

 見えない瞳がボクを真っ直ぐに見詰めているのが分かる。

「賭け?」

 言われた言葉に、ボクはその言葉を聞き返した。

「うん、明日のテストで、点数を高く取った方が副会長」

「それって、逆じゃないの?」

 ボクの問い掛けに、がニッコリと賭けの内容を口にする。
 それに、ボクは思わず聞き返してしまった。

 だって、普通なら点数の高い方が会長になるべきだと思うんだけど……。

「これで問題ないよ。だって、低い点数を採る事は簡単だからね。この場合、二人ともが嫌なんだから、勝った方が好きな役職でいいと思うよ」

 もう一度ニッコリと笑ったに、ボクは複雑な表情を見せた。
 だって、今まで話した事無いけど、ってこんなにしゃべる奴だったんだ。
 そして、ニッコリ笑顔は、有無を言わせない迫力がある。

 どうしてこんな奴が、今まで目立たなかったんだろう?

「分かった、それじゃ、その結果で役職を決めるんだね」

 だけど、申し出された内容は、ボクにとっては不利じゃない。
 そう思って、素直にその賭けに乗る事にした。

「そうだね、それじゃ、お互い頑張ろうね」

 返事を返したボクに、がニッコリと頷いて言われた言葉に、ボクは曖昧に返事を返す。
 本当に、このと言う人物は、不思議だ。



 そして、冒頭の台詞になる。
 見事にボクが賭けに負けてしまった。

 だって、の点数は、満点。
 小テストだと言っても、100点満点のもの。

 ボクだって、そんなに悪い点数を取った訳じゃない。
 だって、は一度だって、テストで満点を採った事は無いのだ。
 絶対、1・2問は間違えいる言うのに……。
 悔んでも、負けは負け。

「もしかして、何時もは、わざと手を抜いてるの?」

「まさか、そんな事していないよ。今回は、運が良かっただけだから」

 複雑な気持ちで相手に問い掛けた言葉は、ニッコリ笑顔で否定された。

 だけど、ボクは一度だって賭けに負けた事なんて無かったのに……運だって、人一倍いい筈……。
 って事は、は、ボク以上って事?
 一体、何者なんだろう……。

 そんな状態で会長になったボクは、と言う人物の認識を、全く改めたのは言うまでも無いだろう。