やばい、正直言ってかなりヤバイ。

 俺は、兎に角急いでいた。
 だから、周りの事なんて、はっきりって構っていられない。

??」

 そんな中聞こえて来た声に、俺は驚いてその足を止めた。

 って、なんでこいつがここに居るんだよ!!!!
 自分の事を呼んだ相手を、確認して荒い息をつきながら手を上げる。

「悪い、急いでるから、後でな!」

 そして、相手の返事も聞かずに、そのまま止まった足を動かす。



 そして、次に名前を呼ばれて、俺は顔を上げた。

「見つけたか!」

『ここから、ちょっと行った先の橋の上だ』

「橋の上だぁ!!って、急がなきゃ不味いだろう!!」

 かなり走り回ったために、正直言ってしんどいぞ。
 それでも、今は依頼人優先。

「『昼』俺を送ってくれ!」

『分かった』

 俺の言葉に、『昼』が直ぐに返事をして力を遣ってくれる。
 そして、着いた場所には、俺の依頼人がその橋から身を投げ出そうとしている姿。

「わ〜!ストップだ!!」

 慌ててその体を引き止める。
 正直言って、今回の任務はかなりハードだ。
 何せ、この依頼人に憑いている霊ってのが厄介。
 なんで、憑いてる奴を殺そうとするのか、さっぱり理解出来ない。

 ぜぇぜぇと肩で息をしている俺と違って、のんきな依頼人は、人の腕の中でお休み中。
 正直言って、キレかけだぞ・……何で俺が、こんなに走り回って依頼人探さなきゃいけねぇんだよ!
 大体、何で大人しく祓われねぇんだよ、こいつ!

「……いい加減にしろよな・……」

 眠っている依頼人がまた人の腕の中から立ち上がるのを見て、俺の中で何かがキレた。

「大人しく祓われねぇってんなら、俺も手加減しねぇぞ!!」

 これ以上逃げられないように、結界を張る。

「『昼』!中に居る奴引きずり出せ!」

 そして、直ぐ傍に居る『昼』へと命令。
 命令口調だったのにもかかわらず、『昼』は何も言わずに行動してくれた。
 言われた通り依頼人の体から、一体の霊が引きずり出される。

「人をおちょくりやがって、いい度胸してんじゃねぇかよ……散々走り回された御礼はたっぷりと払ってもらうからな」

 にやりと笑って、俺の一番の力を発動。



「で、あの時、何をそんなに急いでたの?」

 生徒会室でいきなり言われた星馬の言葉に、一瞬何の事か変わらずに首を傾げる。

「ああ、そう言えば、あの時会ったな。すっかり忘れてた……」

 確か、俺が必死に走ってる時に、星馬と会ったけど、依頼人の命優先だったから、素通りしちまったんだったな。

「後でって言ってたけど、戻ってこないからそのまま帰らせてもらったけどね」

 不機嫌そうに言われた言葉に、俺はあの時の事を思い出す。

 た、確かに、後でと言ったような……。

「悪い、待ってたのか?」

「そう言う訳じゃないけど……でも、お前が走ってるって言うのには、驚いた」

「……だろうな、俺もあんなに走ったのは久し振りだ……これも全部、あいつの所為だから!」

「そう、気になってたんだけど、アレの所為でが走ってたんだ」

 びしっと指指す。それに、星馬も小さくため息をついてそいつを見た。
 透き通った体の細いメガネをかけた男が、箒を持って部屋を掃除している姿がある。

「で、アレはなんで掃除してるの?」

「人を走らせた罰で、暫く俺の所で雑用してもらってんだよ」

「……もしかして、右目遣ったの?」

「おう、久し振りにキレた」

 呆れたように言われた言葉に、さらりと言葉を返す。

 キレでもしねぇと、遣う訳ねぇじゃん、大体、人が見つける度に逃げ出すような奴は、しっかりと教育し直す必要があるだろう。
 あれなら、人を見れば攻撃してくるような奴の方が、100倍もマシだ。

「……お疲れ様」

 ブツブツと文句を言う俺に、星馬が労いの言葉を呟く。
 それは、俺に呟かれたのか、それともあの逃げ腰ヤローに言ったのかは、分からない。