神社と言えば、神聖な場所だと普通ならそう思うだろう。
 だけど、僕にとってそこは神聖な場所だとは到底思えない。

 
 鬱葱とした森の中にポツリとある鳥居を見て、小さく息を吐き出す。
 俗に言う神社と呼ばれるその場所には、実際神聖な場所ではなく、神にも縋ると言う人間の願いが充満していて、逆に気分が悪くなる。

 それが人間の欲と言えるものだと分かっているからこそ、縋られる神も迷惑な話であろう。
 困った時の神頼みとは良く言ったモンだ。
 普段信じていない人ほど、そんな時に居もしない神に祈るのだから。

「で、何でここなんだろうね……」

「仕方ねぇだろう。学校側が気前良く引き受けちまったんだからな……秋祭り準備……」

 ポツリと呟いた僕の言葉に、 が盛大なため息をつく。

 何が悲しくって、学校の生徒会がこんなボランティア活動をしているのかと言えば、気前の良い学園長様が自分がやる訳でもないのに何でも直ぐに引き受けると言う迷惑な話があるからだ。
 それを、学校全校生徒でやるには人数が多いからと、生徒会メンバー全員参加で、後はボランティアメンバーを生徒から募集すると言う生徒会に所属している者にとっては、何とも有り難くない提案がなされたのである。

「でも、お前が参加してるお陰で、参加メンバーかなりの人数になって抽選になったらしいぜ」

 僕と は、他の生徒達から少し離れた場所の清掃作業していた。
 勿論、周り誰もいない事はバッチリと確認済み。
 だからこそ、これ幸いと何時ものように話をしているのだ。

 手を動かしながらも、 が思い出したとばかりに口にしたしの内容に、今度は僕が盛大なため息をつく。

「……知ってるから、僕はここに逃げてきてるんだけどね……」

 人がダシになってるような言い方に、僕は複雑な表情を見せる。
 僕は、別に人と変わった事をしている訳でも目立っている訳でもないと思う。
 もって生まれたこの顔が、ただちょっと女の子受けしてるだけなのだから……。

 だけど、僕の顔が女の受けするのなら、目の前に居る相手も条件は同じはず。
 もっとも、目の前の相手は、自分の顔をしっかりと隠しているから、女の子達は彼の顔を知らないのだけど……。
 そこまで考えられている の猫被りには、本当に感心させられる。

「お陰で、早く終わりそうだから、いいんじゃねぇの……掃除終わったらここの住職が芋饅頭ご馳走してくれるってよ」

 何だか理不尽だと考えていた僕に、 がどうでもいい事のように続ける。

「って、何で がそんな事知ってる訳!」

「そりゃ、ここの住職は俺の知り合い。言っただろう、学長とばーちゃんは知り合いだって」

 意外な言葉を聞いて声を荒げた僕に、サラリと が返事を返す。

 そう言えば、そんな事を聞いた事があるような……。
 でも、だからってそんなの覚えてる訳ないと思うんだけど……。

「その辺の神社は、好きじゃねぇんだけど、ここの神社の空気は結構綺麗だろう?」

 心の中で文句を言っている僕を無視して、 がゆっくりと森の中を見回した。
 そして言われたその内容に、僕も漸く気が付く。
 そう言えば、ここの空気はその辺にある神社とは違って空気が澄み切っている。
 それどころか逆に、ピンと張り詰めるようなこの空気は心に少しの緊張感と安らぎを与えてくれるほどだ。

「ここに入って来てから、お前の事血眼で捜してた女子が大人しくなったの分かるか?ここの神様は、賑やかなのは嫌いじゃねぇんだけど、ミーハー精神の奴は嫌いらしくって、一掃してくれたんだぜ。だから、女子もかなり大人しくここの掃除してんだよ」

 言われてみれば、何時もならどんなに隠れても何処からか探し出して、掃除なんてしないで人の周りを囲んでくれる少女達も、今は誰一人探しに来る様子が居ない。
 それは、ちょっとすごい事だ。

「それじゃ僕は、ここの神様に感謝した方がいいのかな?」

「おう、感謝してやってくれ。そうすれば、あれも喜んでくれるしな」

 静かな時間を過ごさせてもらって本当に感謝してる。
 だから、それを口に出せば、嬉しそうに言われる の言葉。

 って、君ねぇ、神様をあれ扱いって、問題あるんじゃ……。

「会長に副会長!そろそろ休憩に入るみたいですよ!」

 疑問に思った僕の耳に、会計の声が聞えて来た。
 それに、僕と は一瞬顔を見合わせて、笑い合う。


 神社と言う場所が、全てこんな場所だったらいいのに……。
 そうすれば、もっと神様と言うモノを信じてもいいような気がするんだけど、ね。