評価は、Aランク。
 これ以外にはとった事など一度もない。

 まぁ、だからと言って、がむしゃらに勉強した事もないのだが……。

「総合がBかよ」

 聞えて来たその声に顔を上げる。

 自分の直ぐ傍で渡された成績表を確認していたクラスメートの顔を見た。

 ああ、そう言えば、評価にはBランクも存在しているんだったな……なぁんて、ぼんやりと考えてしまったのは、目の前の相手を馬鹿にして思った訳じゃない。
 ただ、そんな簡単な事も忘れてしまうぐらい、当たり前にAしか貰った事がないのだ。

 そう言やぁ、もう一人俺と同じような奴が居たな。

 思い出したようにその人物へと視線を向ける。
 視線を向けた相手は、渡された成績表を見ているようだった。

 その表情は、何処か浮かない表情。
 疑問に思って首を傾げてしまう。

 成績表を見て、あんな表情を見せるなんて、今までのあいつからは考えられない事だったからだ。
 不思議に思ったが、今それを質問する事は出来ない。
 教師の最後の言葉を何処か遠くに聞きながら、俺は既に先の事を考えていた。

 『以上』と言う言葉と同時に号令。
 それで、本日の学業は修了。

 荷物を持ち、何時ものように生徒会室へと急ぐ。

!」

 だが、教室を出ようとした俺を、誰かの声が引き止めた。

「星馬くん?」
「生徒会室に行くんだよね?一緒に行こうか」

 当然のように言われたその言葉に、俺は否と言う返事ではなく、ただ小さく頷いて返した。

 こんな事、初めての事だ。
 こいつが、俺を誘って生徒会に向うなんて……。

「何か、あったの?」
「う〜ん、大した事じゃないんだけどね、ちょっと成績が芳しくなくって」

 一緒に行くといっても、何も話をしない星馬に、俺から話し掛ける。
 それに、星馬は、苦笑交じりに返事を返してきた。

 成績が芳しくない?こいつが??

「体調でも悪かったの?」

 でも、確か何時ものように掲示板にはしっかりと名前が合ったよな?勿論、俺と並んで……なのに、芳しくねぇだと!こいつ、一般生徒に喧嘩売ってんのか?

「う〜ん、そう言う訳じゃないんだけどね、ちょっと苦手な科目が……」

 苦手な科目?こいつにそんなモンあるのかよ。

 料理も、その辺の女子より確実に作れるし、運動神経にしても悪くない。
 まぁ、そりゃ、ミニ四駆で走り回ってたつー過去がある人間なんだから、運動神経悪かったら無理な話だよな……何が、駄目だったんだ?

「部屋入ったら、理由話せよ」

 疑問に思ったそれを、今問う事が出来ないから、ボソリと星馬にしか聞えない声で伝える。
 そう言った俺に、星馬は複雑な表情を見せたけど、そこまで言ったんなら最後までバラせよな。



「で、何の成績が悪かったんだ?」

 生徒会室に入るなり、質問。

「言わないと駄目かな……」
「そこまで言ったんなら、最後まで話せ」

 俺のその問いに、星馬は戸惑ったように聞き返してきた。
 それをバッサリと切り捨てて、話を促す。

 それに、星馬は盛大なため息をつく。
 諦めたって感じだな。

「………音楽の実地テストだけがねぇ……Bだったんだよ」

 何処か言い難そうに言われたそれに、俺は一瞬言われた意味が分からずに首を傾げてしまった。

「音楽の実地??って、歌のテストとかになるよな?」

 でも、歌のテストは個人個人になっちまうから、俺はこいつの歌を聞いた事ねぇんだよなぁ……。

 歌が、苦手だったのか?

「そうだよ!それが、駄目だったんだよ!」

 恐る恐る聞き返した俺に、少し顔を赤くして星馬が声を荒げた。
 それに俺は、慌ててフォローの言葉を入れる。

「あ〜っ、でもBならまだ救いが……」
「実地は、歌だけじゃなくって、笛も入ってるからね……」

 だがそれに、あっさりと返されたそれ。

 確かに、実地は歌だけじゃねぇんだよなぁ……。
 ちょっと、こいつの歌聞いてみたいかも!

「えっと、今度カラオケ一緒に行くか?」
「絶対に嫌だよ!」

 そして、言ったその言葉に、返されたのは不機嫌な声だったのは言うまでもないだろう。