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悪魔なんて、この世に居ないとそう思っているのに、俺は身近にその存在を感じずには居られない。
「はぁ〜?」
緊急の連絡が入ったのは、学校に着いて直ぐだった。
いや、ならせめてここに来る前に連絡が欲しかったと思っても罪はないだろう。
「俺、今学校に着いた所なんだけど……」
思わず零した愚痴に、『そんな事分かってるよ』と、呆れたように返事が返される。
うん、分かってはいたんだけど、そんなあっさりと返してくれなくってもいいと思うんだけど……
さっさと早退して仕事に行けと言うばーちゃんの言葉に、俺は深く深く息を吐き出した。
分かってたさ、分かってたけど、もうちょっと可愛い孫を労わってくれてもいいと思うんだけど……
無常にも切られてしまった携帯の通信に、もう一度ため息をついてしまっても許してもらえるだろうか。
「……取り合えず、担任に報告だな……」
すっかりと、演技する事には慣れてしまった。
今では、誰も俺の演技を見破る事は出来ないように思う。
案の定、体調を崩したと言えば、心配そうに『早く帰れ』と言ってくれる担任。
送って行こうかと言われたその言葉に丁寧に、返事を返してから元来た道を逆戻り。
学校に向かっている生徒たちには、俺と言う存在は不思議に見えただろう。
もっとも、ちょっとフラフラしたように見せれば、体調不良で帰ると言うのは一目瞭然だろうが。
「くん?」
面倒だと思いながらも、一度は家に戻らなければいけないので、そうも言っていられない。
そんな事を考えていた俺に、突然声が掛けられた。
誰だよって思って視線を向ければ、最近生徒会で一緒になった……いや、その前にクラスメートでもある相手が自分を見付けて走り寄って来る。
って、生徒会で話をしなければ、一度だって話をした事ねぇのに、なんでわざわざ声を掛けてくるんだ、こいつ?
「……星馬くん」
面倒だと思いながらも、声を掛けられた以上無視する事も出来ず、立ち止まって星馬と向き合う。
「学校とは違う方に歩いてるみたいだけど、どうしたの?」
おい!このフラフラ状態でどうしたのもあるのか?!
「……ちょっと、体調が悪くって……先生には話してあるから……」
内心で思わず突っ込んでも、仕方ないだろう。
本気で間抜けな星馬の質問に、俺は少しだけ困ったような表情を見せながらも返事を返す。
「大丈夫なの?」
そうすれば、心配そうに質問されてしまった。
「うん、何時もの事だから……」
質問された内容に、複雑な表情で言葉を返す。
これは、学校を良く休む俺の事情で、表向きは体が弱いと言うことになっているのだ。
そうでもしなければ、仕事でよく休むのだから、理由を考えるのもめんどくさい。
「えっと、送って行こうか?」
「ううん、一人で帰れるよ……それよりも、今日の生徒会の仕事押し付ける事になっちゃうけど、ごめんね」
「い、いいよ、気にしなくって!そんなことよりも、ゆっくり休んでね」
心配気に言われた星馬の言葉に首を振って返し、申し訳なく言えば慌てたように口を開く。
まぁ、仕事押し付けるのは悪いと思うが、全部ばーちゃんが悪いんだから許してくれ。
大体、仕事で忙しい俺に、生徒会役員なんて雑用係を押し付けるんじゃねぇつーの!
心の中で文句を言っても、誰にも聞こえるわけもなく空しいだけだ。
気を付けてと見送ってくれた星馬と別れてから、思わず盛大なため息をつく。
ああ、本気で疲れてきたぞ。
面倒にも声を掛けてきてくれた星馬の所為で、余計に疲れた。
これもそれも、全部俺を生徒会役員に指名しやがったどこかの教職員が悪いんだつーの!
そうじゃなければ、あいつとは関わる事もなく、俺は地味に学校生活を送れたはずなのに……
何が悲しくって、学校で人気がある星馬兄弟の兄とこうして話をする間柄にならなきゃいけねぇんだか
そして、そんな思いをしてまで帰った家で待っていたのは、『遅い!』と言う文句と大量の仕事。
この時ばかりはばーちゃんが悪魔に見えた。
うん、悪魔なんて信じていなかったんだけど、こんなに身近に居るのだと改めて知ったと言ってもいい。
その数ヵ月後に、俺はもう一人の悪魔に出会う。
それは、まだもう少し先の話。
もっとも、相手は天使の顔をした悪魔ってやつかもしれないが……
ああ、ばーちゃんは、鬼であり悪魔だよね。
って、こんな事思ってるのがばれたら、叱られる……んじゃなくって、仕事増やされるのが目に見えるようだ……。
勿論、その後バレて仕事を増やされました。
うっうっ、可愛い孫のちょっとしたお茶目だったのに……
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