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その日俺は悪魔を見た。
いや、違う正確に言えば、天使の顔をした悪魔を見たと言う方が正しい。
何で、そんな事になったかと言うと……。
「?」
名前を呼ばれて、振り返る。
本当、良く会うよな、こいつとは……
「星馬も買い物か?」
「まぁ、ね……君も一人なんて珍しいね」
今日は仕事も楽で珍しく時間が空いたから散歩と言う名の買い物を楽しんでいたそう、珍しく一人で。
確かに、こいつに会う時は絶対に『昼』と一緒の時ばっかりだったからな。
そう言われても仕方ないと言えば、仕方ないか。
「今日は、俺も買い物。そろそろ服を買わなきゃと思ってたんだよ、何で、『昼』は今日は家に居るんだよ」
「へぇ、仕事は終わったんだ」
「おう、今日は楽勝だったぜ」
得意気に言った俺に、星馬が笑う。
「ご苦労さまだね」
くすくすと笑う星馬に、馬鹿にされているように思うのは俺の気の所為か?
楽しそうに笑う星馬を前に、俺は思わず複雑な表情を見せた。
「そう言えば、は服って何処で買ってるの?」
「適当。ブランドとか全く興味ねーぞ」
気に入ったヤツが偶々ブランドモンって言うのは良くあるけど、基本的にここのって言うメーカーは全くない。
気に入った物しか買わない主義だし、俺。
「ふーん、でも黒い服多いよね、って」
「まぁ、多いな。黒の方が落ち着くし」
学校使用のは基本的には、地味な色……茶色とか紺とかは良く買うけど、偽りのない自分の服は黒が多い。
と言うよりも、黒しか持ってないかもしれない。
あれ?本気で、黒しか選んでねぇような気が……
まぁ、いいか
深く考えずに思考を打ち切ってから、気付く俺達の方に近付いてくる二人連れに
「ねぇ、君らも二人?俺達も二人連れなんだけど、一緒に遊ばない?」
近付いてきた瞬間言われたその言葉に、ピクリと星馬の肩が震えたのが分かった。
えっと、これって不味くないか?
いや、俺自身女と間違われてナンパされる事は珍しくもないんだけど、まだこの段階だと『彼女』とか呼ばれた訳じゃないので冷静でいられる。
けど、俺以上に心の狭い星馬の場合、この言葉だけでも不味いんじゃ……
「……それは、誰に言ってるのかな?」
そして心配していた通り、顔を上げた星馬の顔には、綺麗な綺麗な笑顔。
だけど、その笑顔は絶対零度の威力を持っているように感じられたのは俺の気の所為じゃねぇよな!!
いや、声を掛けてきたヤツは星馬のそんな笑顔で顔を赤くしているけど、お前ら気付けよ!!
「いや、あの……」
星馬に微笑まれれた目の前のナンパ男どもが、ドギマギしながら言葉に困っている姿はどう見ても可笑しいだろう!
いや、その笑顔で赤くなれるなんて平和な人間がうらやましいんだけど、俺。
明らかに下がっていく気温に、複雑な表情を浮かべてしまうのは仕方ないよな、絶対!
「男と女の区別も付かないのに、オレに声を掛けてくるなんていい度胸してるよね」
そして、予想通りというか何と言うかその後続いたのは、脅しのような言葉。
その言葉と共に、簡単に地に伏せられてしまったナンパ男二人。
つーっか、弱すぎるだろう、いくらなんでも!!
「全く、迷惑な人が多いよね、本当」
パンパンと汚れをはたくように手を払っている星馬を前に、俺はただ苦笑をこぼす事しか出来なかった。
「何、?」
そんな俺に、星馬は不思議そうに質問してくるけど、いや普通の反応だから、これ!
「……ちょっと、そいつらが気の毒だっただけだ……」
ふっと星馬から視線を逸らして、地に伏せている二人組みを見て深々とため息をつく。
星馬の天使のような微笑が見れただけでも幸せなのか??
「何、はあんなどうでもいいような連中を庇う訳?」
「いや、庇う訳じゃねーけど……まぁ、女と間違えて俺たちに声を掛けてきた時点で救いようはないと言えばないんだけどな……」
「だったら、気にしなきゃいいんだよ。それよりも、買い物するんじゃなかったの?」
複雑な気持ちを抱えていた俺に、星馬が質問してきた。
ああ、確かに買い物のために出てきてたんだよな、俺……
「ねぇ、一緒してもいい?」
「別にいいけど……用事ねぇのか?」
「ないない、あったら言い出さないよ」
返事を返さない俺に、星馬が質問してくる。
それに、返事を返せば普通の笑顔を返してもらえた。
いや、誰もあの周りが凍りつくような笑顔を見たい訳じゃないんだけど……
と、思っていたのに、一体何度あの笑顔を見る事になったか
もう二度と、星馬とは買い物に何て行かねぇぞ!!
天使のような笑顔で、なんて恐ろしい。
もっとも、それは俺も人の事大きく言えたもんじゃないかもしれないが……
いや、多分、星馬よりはましだろう、うん。
教訓、天使の微笑には気をつけましょう!
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