テーゼと言うのなら、なんと愚かしい事だろうか……。


「では、この論題は以上で宜しいでしょうか?」

 高い声が耳に心地よく響く。
 その質問に、異議を唱えるものが居ないことを確認して、再度声が響いた。

「では、今日の会議は終了いたします。お疲れ様でした」

 その言葉を最後に各自が声を出し、ガタガタと椅子から立ち上がる音。
 そんな様子をボンヤリと見詰めながら、俺は手元の資料を見てため息をついた。

 『論題』と言う題名が書かれたそれは、今日のこの会議で話された内容の全て。

 だけど、こんな会議に論題と言う言葉を使うのもバカバカしい。

くん?」

 誰もいなくなった教室の中、突然声を掛けられてハッとする。

「どうしたの?星馬君」

 どうやら、何時までも動かない俺に心配して声を掛けたと言ったところだろう。
 それが分かっているのにも関わらず、分からないと言うように首を傾げて問い掛ける。

 ああ、それさえも滑稽かもしれない。

「ううん、別に用事があった訳じゃないんだけど……気分でも悪いのかと思って……」

 そんな俺に、星馬は少し困ったような表情を見せながら言葉を返してきた。

 まぁ、予想通りの答え。

「ちょっと、考え事していただけだよ。ごめんね、ボクが居るから帰れないんだよね?」

 だから俺も、当然のように用意してあった言葉を返した。
 そして、手に持っていた書類をトントンと揃えて持ち椅子から立ち上がる。

「そう言う訳じゃないんだけど……そう言えば、今日はくん何も発言してなかったんだけど……」

 急いだ様子で帰り支度を始めた俺に、慌てて星馬が口を開く。
 言われた言葉に、俺は会議中のことを思い出した。

 余りにもバカバカしい内容だったから、発言する気も起きなかったんだけど、俺が発言しなくても、別に問題はないはずだよな?

「ボクが何かを言う必要は無いみたいだったから……何か、問題あったかな?」

 俺はただの副会長の筈だぞ、何で発言の権限をもたなきゃいけないんだ?
 しかも、こんな『論題』なんて題名に恥じるような内容のモノを……。

「そう言う訳じゃないんだけど……ちょっと、気になって……堂々巡りになってる時には、くんは何時も何か発言していたから」

 言われた内容に、思わず納得してしまう。

 そう言う事か……大体、同じ事を長々と話してるのは無駄としか考えてねぇから、何時もそうなった時にはさり気無く話を進めるように口を開く事を確かに何時もやっている。
 そう言えば、今日も、長々と同じ事しか話してなかったよなぁ、結局……。

 誰も、その事に突っ込む奴がいねぇから、何も決まらずにお開きになった事を思い出して、俺はこっそりとため息を付いた。
 こんな題名付けなきゃ、もうちょっとまともに対応してやったのに……。

「うん、でも今日の論題って、ボクには意見できない内容だったから……」

 そう、全てはその一言に尽きる。

「………まぁ、確かに、こんな内容だとやる気でないよね」

 俺の一言で、星馬も苦笑しながら同意。
 おお!俺と同意見の奴発見!!

「『学生のあり方について』なんて、そんなの本人が分かっていればそれで十分だろうからね」

 盛大なため息とともに言われた言葉に、心から賛同する。

 んなもんに、『論題』なんて付けんじゃねーよ!小学生じゃねぇんだからな!

 そう思って再度ため息。
 本気で、学生やってくるのが嫌になった瞬間だった。