見事なガラス細工を前に、一瞬ホッと息を吐く。
 教会と言う場所が特別好きな訳じゃねぇけど、このステンドグラスを見るのは好きだ。

 神がどうとかそんな事を言うつもりは全然ねぇし、興味もない。
 だけど、このシーンとした空気を持つ教会は結構気に入っているのだ。

『矛盾しているな……』
「そうか?」

 シーンとした空気の中、聞えてきたその声に俺は首を傾げる。

『オレと言うモノを遣えていながら、こんな場所にくる事事態が間違っているだろう』
「お前が居るから来ちゃいけない決まりなんてここにはねぇぞ」

 不機嫌そうに聞える『昼』の声に、キッパリと返事を返せば最大のため息をつかれてしまった。

 何でだろう?

『仕事が終わったのなら、さっさと帰るぞ』

 諦めたように言われたそれに、苦笑を零す。

 まぁ、『昼』にとってはあんまり嬉しくない場所なのは否定出来ないかもしれない。
 でも、折角ステンドグラスが見事な教会の近くに来れたのだから、見ない手はないと思うんだけど……。

 いや、だって仕事のついでだから、誰にも文句言われないし、それぐらい楽しんだって罰は当たらないだろう。

「あっ!ちょっといいか?」

 帰る事を促している『昼』に従って、教会を出た俺は一軒のアンティークショップに目を引かれた。
 店から見えるのは、綺麗なステンドグラスの作り物。

『見ていくのか?』

 質問した俺に、聞き返して来た『昼』が再度ため息をつく。
 呆れているのが分かるけど、俺がこう言うのが好きだって事を知っているから、諦めているのだろう。

 勝手な解釈で、それを了解ととり、一応返事として頷いてその店へと入る。
 その中に入れば、置かれている品物は色とりどりのステンドグラスで出来た沢山のランプ。
 色も形も様々なそれは、見た目も鮮やかで場を華やかにしてくれている。

「いらっしゃいませ」

 中から出て来たのは、この店の店主に相応しいと言えるような年老いた男の人。

「あっ、ちょっと見させてもらっても大丈夫ですか?」
「勿論ですよ。ゆっくりと見てやってください」

 中から出て来た主人にぺこりと頭を下げれば、人の良さそうな笑顔を返してくれた。
 それに気を良くして、店内をゆっくりと見回す。

「すごいですね、こんなにランプばかり……」

 中にあるのは、殆どランプ。
 それが大元を締めている。

「私の趣味なんですよ。ステンドグラスは、このカラフルな色合いが魅力ですからね。特にランプは、その色をより綺麗に引き出せる。私は、その淡い光に照らされた色が好きなんですよ」 

 所狭しと並べられているランプに、感心したように口を開けば、店主が近くにあったそれを手に取って明かりを灯してくれた。
 その瞬間、ポッと辺りをカラフルな光が溢れる。

 それは、本当に温かな色合い。

「俺も、好きなんです。この色合い……あの、そこに二つ並んでいるのはセットなんですか?」

 辺りを照らす優しい光の中、目に付いたそれを指差して質問する。

「セットと言う訳ではないんですけどね。作家さんが同じなんですよ。勿論一つでも見られますし、二つ並んでも綺麗ですよ」

 俺が指差したそれら二つを降ろしてくれて、明かりを灯してくれた。
 それは、一つが淡いグリーンで統一されたマスカットの形のランプと、紫で統一された葡萄の形のランプ。

「これ、二つとも頂けますか?」
「それは勿論構いませんが、誰かに贈り物ですか?」

 その色合いや形に引かれて、俺はそれを買う事を決意。
 それを伝えれば、驚いたように店主が質問してくる。

「えっと、それじゃ葡萄の方を贈り物でお願いします」
「了解いたしました。少々お待ちください」

 俺の言葉に、優しい笑顔を残して店主が奥へと入って行くのを見送った。
 待たされている間も、店内を見ていれば時間なんて気にならない。

「お待たせいたしました。こちらが葡萄のモノになります」

 戻ってきた店主から渡された紙袋には、綺麗にラッピングされている箱と、そのまま箱に入っているものが2つ入っていた。

「有難うございます」
「いえいえ、こちらこそ、有難うございました」

 それを受け取って、俺は満足して店を出る。

 ちょっと高い買い物だったけど、満足するものが買えたから、気分はすこぶる上々だった。
 満足して帰路についた俺だったけど、逆に『昼』の機嫌はすこぶる悪かったのは、謎だ。

 何がいけなかったんだろう??