|
「それじゃ、こちらの書類は、お願いいたします」
先生に書類を手渡しそう言い残してから職員室を出て、小さく息を吐く。
どうも、あの空気には馴れないんだよなぁ……。
まぁ、俺の前髪が邪魔って言うのは十分に理解しているつもりけど、あんな好奇の目で見られて居心地が良い訳ねぇだろう。
「副会長?」
『疲れた』と正直に思っていた時に、名前を呼ばれて顔を上げる。
「星馬弟……っと、星馬くんの弟さんだね。今から部活?」
顔を上げた先に居た相手に、思わず自が出そうになって慌てて言い直す。
「偉く疲れてるみてぇなんだけど、また兄貴がなんかしたのか?」
だけど相手は全くそんな事気にもしないで、しかも俺の質問を無視して質問で返してきやがった。
んなに、兄貴が大事なのかよ、この弟は?!
「星馬くんは、今は生徒会室に居るけど、何かって何かなぁ?」
表面上はニコニコと笑顔を崩さずに、俺も質問で返してやる。
「って、ああ……俺今日は部活ないんで、生徒会室にお邪魔してもいいすか?」
って、今になって初めの質問に答えるのかよ!!そんでもって、さっきの質問は無視か、星馬弟!!
思わず引き攣りそうになる表情を必死で隠して、ただ笑顔を貼り付ける。
「勿論、大丈夫だよ……星馬くんに何か用事なのかなぁ?」
その笑顔を貼り付けたまま、俺は星馬弟に再度質問で返してやった。
どうやら、俺とこの弟のシーソーバランスは崩れまくっているらしい。
言葉のキャッチボールも、まともに出来ないほどにだ。
「いや、そう言う訳じゃ……何か、副会長が怖いなぁっと思って……」
「嫌だなぁ、僕が怖いなんて、そんな事言うのは君くらいだよ」
表面上は鮮やかに笑顔を見せながら、心の中で文句を言う。
そして、そのまま場所を生徒会室へと移した。
今日の生徒会メンバーは、俺と星馬しか居ないつー事で、こんなにイライラせずに堂々と文句が言えるからな。
「お帰り、って何でこいつが一緒なんだ?」
「……それは、俺が聞きたい。おい、星馬弟。何か用事があるんじゃねぇのか?」
生徒会室に入った瞬間、星馬は俺の後ろに居た弟を見てその表情を複雑なモノへと変えた。
俺も、中に入った瞬間、今までの態度を一変さて不機嫌そのままに弟へと問い掛ける。
「いや、副会長が疲れてたみてぇだから、何か忙しいのかと思って……」
「ああ、まぁ、もし忙しくっても、お前じゃ役に立たねぇな……」
「……」
キッパリと言い切った俺に、流石に星馬が呆れたように名前を呼ぶ。
でもなぁ、間違った事は言ってねぇぞ、俺は!
「気にすんな。流石に機嫌悪い時にシーソーバランスが崩れた会話しちまったからなぁ……」
星馬に名前を呼ばれて、一息ついてから正直に理由を話すと苦笑を零した。
「お前、一体何をやらかしたんだ?」
「別に何もしてねぇって!」
疲れた状態なので、素直に自分の席に座ってもう一度ため息をつけば、今度は星馬が弟へと不信な目で問い掛ける。
それに慌てたのが弟で、俺は思わず吹き出してしまった。
「まぁ、確かに星馬弟は何もしてねぇよ。けど、追い討ちを掛けたのはお前だぜ」
椅子に座り、まだ残っている書類を広げながら追加説明。
視線はしっかりと書類に向けて、手も動かしていく。
「って、何もしてないのに、追い討ちって……」
だけど、俺のその言葉に星馬弟は意味が分からないと言うように複雑な表情を見せた。
その表情を横目で捕らえて、思わず苦笑を零す。
「なんて言うか、バランスの崩れた会話は疲れるつー話だ」
「ああ、何となく分かった。確かに、それは時々僕も思うよ」
情けない表情を見せている弟に、最後とばかりに口を開けば、星馬は何となく分かったらしく、同意されてしまう。
「お前の場合、僕が質問した内容と違う事が返って来るんだよ。だから、調子が狂うんだ」
星馬が弟に言った内容に、あの会話は今日に始まった事じゃないと言う事が分かった。
相手が俺だからだと思ったんだけど、あれが普通なんだな、こいつの場合……。
「思いっきり傾いたシーソーに乗ってる気分だよな」
小さくため息をついて、正直に感想を言えば、星馬が大きく頷いている。
「ひでぇ、俺は本気で副会長の事心配してたつーのに……」
「それに関しては、有難いけど、もうちょっとまともな会話をしてくれ」
キッパリと言えば、弟は拗ねたようにソファにどっかりと座った。
それを確認しながら、まだまだ残っている仕事のことを考えて、素直にお茶の準備をするために椅子から立ち上がる。
勿論、お詫びも兼ねて、星馬弟の分もちゃんと人数分に入れて……。
|