神は何を思い、その背に十字架を背負ったのか……。

 最近見た映画の影響からか、そんな事を考えていた自分に思わず苦笑を零してしまう。

 本当に、そんなことを考えるなんてどうかしている。

「星馬くん、この書類なんだけど……何、どうかしたの?」

 考え込んでいた自分に、声が掛けられて我に返った。

 目の前には、鼻の頭までを前髪で隠した状態のが不思議そうに自分を見詰めている。
 そんなに長い前髪、邪魔じゃないのかなぁ……なんて、ぼんやりとそんな事を考えてしまう。

「星馬くん?」

 そんな僕に心配そうに再度名前が呼ばれて、僕は小さく息をついた。

「ごめん、ちょっと考え事……えっと、書類ってどれ?」

 自分を取り戻す為に、僕はが持っている書類を受け取って目を通していく。

 今は、自分と以外の生徒会メンバーが勢揃いしているから、僕達はお互いに猫を被ったままの状態で話をする。
 それは、自分達が自ら背負っているモノ。




「で、何を考えていたんだ?」

 他の生徒会のメンバーが全て居なくなった瞬間、呆れたように質問されて思わず笑ってしまう。

 本当に、の変わりようは僕以上に完璧だ。
 これで前髪をセットした状態だと誰も、同じ人物だと気付く事はないだろう。

 僕も、初めの頃は全く気付く事が出来なかったのだから

「何だよ」

 突然笑った僕に、が少し不機嫌そうな表情になる。

「いや、君のその変わりようは相変わらず凄いなぁと思っていたんだよ」
「お前も人の事言えねぇだろうが……」

 不機嫌なに、素直に理由を言えば呆れたように返された。

 まぁ、確かに僕も人の事は言えないかもしれないけど、君ほど変わったとは思えない。
 だって、僕は顔を隠している訳じゃないから……。

「で、会長様は、何をそんなに考えていらっしゃったんでしょうか?」

 スッと紅茶が入ったカップを僕の目の前に置きながら業とらしく質問されたそれに、僕は苦笑を零す。

「この前見た映画の事を思い出していただけだよ……」
「映画だぁ!のんきだよな……こっちは休みなく働いてるってぇのに……」

 そして、素直に何を考えていたのかを話した僕に、が不機嫌そのままに盛大なため息。
 確かに勤労学生のには、映画を見に行く余裕なんてないだろう。

「それが、君の仕事だから仕方ないよ」
「ばーちゃんが人使い荒すぎるんだつーの!」

 ため息をつきながら、自分で入れた紅茶を飲む。
 文句を言っていても、目の前の相手がその仕事にどれだけの誇りを持っているかを知っているので、思わず笑えてしまう。

「そう言いながらも、君はちゃんと仕事をしているんだろう?」

 それは、君の仕事が誰かを助ける仕事だから。
 そして、誰かの命を救える仕事だから……。

 だから、君はその仕事に誇りを持っているだって事、ちゃんと知っている。
 他の誰にも出来ない仕事だから……。

「君が、何を犠牲にして、仕事をしているかを知っている。だから僕は、そんなを尊敬しているんだ」
「……煽てたって何も出ねぇぞ……」

 真剣に伝えた僕の言葉に、が照れてそっぽを向きながら口を開く。

 君が背負っている運命と言う名の十字架は、自分以外の人の分までも背負い込んでいる。
 それは、僕達なんかが持っている運命と言う名の十字架とは比べ物にならないぐらいの重みになっているのだろう。

 それでも君は、迷う事無く前へと進んで行く。

 僕にも、ほんの少しでいいから、負担になっている十字架を軽くする手伝いは出来るのだろうか?

 憎まれ口を叩くに、僕はただ笑って返した。