珍しくばーちゃんが突然休みをくれて、時間を持て余した俺は『昼』も置いて久し振りに散歩中。

 天気は上々だし、のんびりと散歩をするのが嫌いじゃないので、俺の機嫌も天気と同じで上々だった。

 ゆっくりと歩く先、賑やかな声が聞えてきてそちらへと視線を向ける。
 フェンスの向こう側、小さな車の玩具を走らせている子供達の姿。

「……ミニ四駆なぁ……」

 自分が、小学生の時にも流行っていた。

 玩具遊びと言っても、世界大会まで行われているのだから、本格的なレースゲームなのだろうか?

 自分は参加する事も叶わなかったその遊びは、自分で作り上げたミニ四駆と言う小さな車を色々なコースで走らせるらしい。
 マシンと一体となって何が楽しいのか分からないけど、それを何よりも生きがいとしていた兄弟を知っているので、それもありなのだろうと今なら思える。

 自分には良く分からなくても、その世界にはその世界にのめり込める何かがある事を知っているから……。
 このフェンスの向こうとこちら側の距離と同じぐらいの隔たりを感じるが、それでもその世界は確かに存在している。

「あれ?副会長」

 そんな中、良く知った声が聞えてきて俺は振り返った。

「あれ、。今日は仕事休みなの?」

 振り返った先には、赤い髪と赤い瞳の最近一緒に居る事が多くなった相手と、その色とは対照的に青い髪と青い瞳を持つ、俺が知っている中で一番苦労している人物が立っていた。

 今考えていた人物が、そこに立っている事に、少しだけ驚き瞳を見開く。

「……ああ、まぁ……珍しくばーちゃんが休みくれたから……って、何で、お前等がここに居るんだ?」

 俺が休みなのが意外だと言うように訪ねてきた赤い髪の兄の言葉に、素直に答えてから思わず疑問を返してしまう。
 休みの日、偶然に会う事は少なくはないけれど、ここは二人の家からは少し離れた場所にあるのだ。

「ああ、ここには、勉強の息抜きに子供達にミニ四駆を教えに来てるんだよ。僕達も昔は、この場所でよく走らせていたからね」

 俺の質問に、星馬は何処か懐かしそうに理由を教えてくれた。

 カシャリとフェンスを掴む音がする。
 嬉しそうに子供達を見詰めるその瞳は、昔を懐かしんでいるのだろうか。

「あっ!星馬兄弟だ。烈兄ちゃん、待ってたんだから、早く教えて!!」

 フェンスの向こうから、子供達が星馬兄弟の姿を見つけると手を振って大きな声で呼ぶ。
 向こうから呼ばれて、星馬と星馬弟も笑顔で手を振った。

「あっ、そうだ。も用事がないようなら、一緒にどう?」
「……どうってもなぁ……俺、ミニ四駆なんて触った事ねぇぞ」
「大丈夫だよ。器用そうだから、豪なんかよりもセッティング出来そうだよね」
「って、兄貴、それひでぇって……」

 誘ってくれた事に、素直に言葉を返せばニッコリと笑顔で返される。

「セッティングって、何をセッティングするんだ?」

 だが、言われた言葉の意味が分からず、俺が素直に聞き返す。
 その瞬間、二人の動きがピタリと止まった。

 って、俺変な事聞いたのか??

「本当に、何にも知らないんだね。それじゃ、高校生デビューするに、このボクが直々にミニ四駆を伝授してあげるよ」

 って、俺が参加するのは決定事項なのか??
 それに、星馬がめちゃめちゃ嬉しそうに見えるのは、俺の気の所為…じゃ、ねぇよなぁ……。

 呼ばれたのは、フェンスの向こう側。

 そして、呼んだのは、しっかりと俺にミニ四駆が何たるかを叩き込んでくれた、大先生でした。

 まぁ、それでも、マシンと一体となるという貴重な体験が出来たのは、そのお陰かもしれないが……。