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「あのばーちゃんが表情崩しているところなんて、俺だって見た事ねぇぞ」
オレの質問にきっぱりと言われたその言葉に、オレはただを見た。
確かに、こいつの祖母と言う人物は、鉄面皮だ。
表情が崩れると言う事は殆どないと言ってもいいだろう。
だからと言って、そんな人間が存在しないと言う事はオレが一番良く知っている。
『だが、あいつも人間のはずだぞ。顔面が鉄で出来ているわけではないのだから、何かの拍子に崩れる事もあるだろう』
「残念だが、ばーちゃんは人間じゃないね」
の言葉を否定するように返せば、キッパリと言い切られてしまう。
いや、どう見てもばーさんは人間だと思うのだが……。
「人間なら、孫が可愛くねぇのか!大体あんなに人の事扱き使うかよ!!絶対に、人間じゃねぇって!!」
の言葉に呆れたようにその表情を見れば、日頃の鬱憤がたまっているのだろう、ここぞとばかりに文句が綴られる。
……確かに、ばーさんがの事を扱き使っているのは嘘偽りのない事実だ。
だけどそれは、ばーさんがの事を信頼しているからだと思うんだが……。
それは、も分かっているのだろうが、休みなく働かされている方としては、文句の一つも言いたいといったところであろう。
「そうかい、お前は私の事をそんな風に思っていたのかい?」
だがそれは、突然の声によってピキリと音が聞えそうな程見事にが固まる。
オレでさえ気配を感じる事が出来なかったのだが、そこには間違いなくばーさんが笑顔を張り付かせて立っていた。
「ば、ばーちゃん?い、何時からそこに……」
「たまには可愛い孫に休みでもと思ったんだがねぇ、そう思われているようなら、しっかりと働いてもらうとしようかねぇ」
ゆっくりと振り返ったが、恐る恐る問い掛けたそれには答える事無く、ニッコリと笑顔を見せて言われた内容に、の表情がザッと青ざめる。
「なっ、だ、誰もそんな事言ってねぇってば!ばーちゃん、お願いしますから、休みくれ!!ここ最近生徒会の方も忙しくって……」
「言い訳するんじゃないよ。全く人が居ないと思って、好き勝手言うとはねぇ……まだまだ修行が足りないようだねぇ」
呆れたように盛大なため息をつきながら言われたその言葉に、オレは思わず首を傾げる。
『修行が足りない?』
「妖には、人間の不の感情と言うものを好むモノが多いからね。私達払い屋はまず自分の感情をコントロールする事から修行をするんだよ」
意味が分からないというように呟いたオレの言葉に、ばーさんが説明してくれた。
確かに、オレ達のような妖は人間の不の感情を好物としたモノが多い。
『なら、も、鉄面皮になれるのか?』
「ああ、この子は、特殊でねぇ……普段はそれなりに出来るんだけど、自分が認めた相手にはそれが出来ない未熟者だよ」
少しだけ楽しそうな表情で言われた事に、オレは思わずを見る。
そう言えば、オレやあいつ等には何時もありのままの表情を見せているように思う……。
って、ことは、オレも認められた者なのだろうか?
「あ〜っ!ばーちゃん何勝手な事教えてるんだよ!!」
少しだけ楽しそうに見えるばーさんの言葉に、が慌てて文句を言う。
「嘘は教えてないよ。そんな事よりも、休みにしているのだから、さっさと出掛けたらどうなんだい。最近話しに出てくる子と約束しているのだろう?」
「って、そうだった!って、何でそんな事までばーちゃんが知ってんだよ!!」
そんなにため息をつくと、ばーさんは今日が休みを欲しがった原因を口にした。
それに納得しただったけど、ばーさんがその事を知っている事に、声を荒げている。
「全く、本当に未熟者だねぇ……『昼』煩い孫だけど、宜しく頼むよ」
そんなにもう一度ため息を付くと、ばーさんが優しい表情を見せてオレの頭を撫でてくれた。
やっぱり、鉄の表情だと言うのは嘘だ。
だって、その表情は、オレを見ると同じだったから……。
やっぱり、人間は鉄などにはなれはしないのだ。
特に、大切な者だと思える相手には……。
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