『そうやって居ると、泣いているみたいだな』

 言われた言葉に、苦笑を零す。

 時々、この仕事をしていると本当に、泣きたくなる時がある。
 だけど、自分はもう涙を流す事が出来なくなった。

 泣いても、何も変わらないと知っているから……。

「……そうだな……」

 降り頻る雨の中、俺は濡れる事など気にもしないで顔を空へと向けた。

 今日の仕事は、除霊。
 殺された少女の悲しみを思うと、切なくなる。

 どうして、そんな事が出来るのか。
 平気で人を殺せるなど、同じ人間として信じられない。

 この仕事をしている自分は、多くの悲しみを知っている。 

 その中でも、誰かに殺されてしまった魂だけは、接する事が何よりも苦しくなるのだ。
 安らぎを求めたいのに、殺された時のショックは大きすぎて、混乱状態の魂を慰め帰るべき場所へと送る。

 何度も同じような魂を見てきたが、これだけはどうしても慣れない。

 今も、殺された少女の悲痛な叫びが胸に残っている。

 何時間も掛けてその魂を説得して、漸く仕事を終えた時には、何時の間にか雨が降っていた。

 その雨に気付いた時には、既にずぶ濡れ状態。
 そんな事も気にならないほど、仕事に熱中していた事に、苦笑を零した瞬間声を掛けられたのだ。

 心配して来てくれたのだろう事は分かるが、直ぐに動く事が出来ない。
 ただ、降っている雨が優しく感じられて、空を見詰めていた瞳をゆっくりと閉じる。



 雨が目に入り、本当に自分が泣いているような錯覚。

 頬を流れていくのは、本当に雨なのだろうか?
 もしかしたら、自分の涙なのかもしれない。

「………帰ろうか……」

 心配そうに名前を呼ばれて、俺は自分の考えを振り切って空を見上げてた顔を、『昼』へと向けた。

 今思うことは、あの魂が、安らかに眠ってくれる事。

 そして、悲しい魂が、増えない事だけを祈りたい。
 例え、それが難しい事だとしても……。

 人間だからこそ、祈らずには居られない。