「そう言えば、お前って小学生の時に、入院したりしてたか?」

 突然のの言葉に、僕は思わず意味が分からずに相手を見る。

 確かに、一度だけ入院した事があるのは、本当。
 だけど、それは2〜3日の事で、記憶に残るような事ではないし、今質問されるような事ではない。

「……確かにしていたけど、どしたの突然……」
「いや、写真整理してたら、どう見てもお前だろうなぁつー奴が写ってたんだよな。しかも、松葉杖持って」

 質問されたそれに、が一枚の写真を取り出して僕へと差し出してくる。

 それを受け取って見てみると、確かに僕ともう一人見た事のない女の子が一緒に写っていた。
 二人とも不機嫌な表情をしている事からも、この写真が快く撮られた物ではなく、仕方なく写された物であると言う事が分かる。

 が、こんな写真撮った記憶など自分にはない。

「この写真は?」
「ばーちゃんがくれた」
「はぁ?」

 僕の質問に返されたそれに、意味が分からず思わず聞き返してしまう。

 確かの祖母と言えば、家当主のはず……。僕、会った事なんてあったっけ??
 それに、この一緒に写っているこの女の子って、もしかして……。

「この一緒に写っているのって、もしかして?」
「おう。俺以外の写真をばーちゃんが俺にくれる訳ねぇだろう」

 疑問に思った事を口に出せば、あっさりと返事が返ってくる。

 心の中で、女の子だと思った事はこっそりと秘密にして、僕はもう一度写真に視線を戻した。

 と一緒に写真を撮った事なんて、全く記憶にない……。
 ないけど、こうして手元にはその時の証拠物がある訳で……。

 そして、思い出すのは、過去の事。
 入院した理由は今思い出しても恥ずかしい内容だけど、僕はWGPのレース中に焦って怪我をしてしまった。
 残された試合の数と、決勝戦に出られるかどうかと言う大事な試合。
 一試合でも落とす事が出来なくって、焦って自滅したのは自分。

 だから、入院している時の事は正直言って思い出したくもない。
 そんな情けない自分は、若かったからと言っても、恥ずかし過ぎるモノだ。

「俺も、あんまり人の事は言えないけど、まぁ、珍しく不機嫌そのままの表情で写ってるから、気になってな……お前、この頃にはもう猫被ってて人前では結構笑顔振りまいていただろう?」

 はっきりと聞いてくるに、思わず苦笑を零してしまう。
 勿論その内容に否定は出来ないけど、あの頃はそこまで考えていい子を演じていた訳じゃない。

「まぁ、否定はしないけど、この頃は、まだそんなに感情を上手く隠せない年頃だったのが正直なところかな」
「だろうな。俺も人の事は言えない。この写真、俺も自分の失敗で入院する事になって不機嫌だったから、そのまま写真に残っちまっているしな」
「えっ?」

 苦笑を零しながらの言葉に返したそれに、は少しだけ楽しそうな表情を見せて僕の手から写真を取って懐かしそうに瞳を細める。
 だけど言われた事に僕は驚いて、思わず聞き返してしまった。

「この写真の俺も、まだまだ子供だった時のヤツだよ。自分は他のヤツとは違うって思っていたのに、あっさりとドジ踏んで入院する事になちまったんだ。んで、珍しい俺の表情にばーちゃんが楽しんで写真に写したのがこれ。まぁ、たまたま近く同じように不機嫌そうだったお前が居たから巻き込まれたんだろうな」

 写真の説明をするに、僕は呆気に取られて思わずその顔をまじまじと見詰めてしまう。

 こんなところでも、との差を感じさせられてしまった。
 僕は思い出したくもない恥ずかしい事なのに、はその時の事をしっかりと受け止め大事にしているのが良く分かる。

 それが、の強さ。

「なんならこれ要るか?俺とのツーショット写真なんて、すんげぇ貴重だぜ」
「貰ってもいいの?」
「ネガはばーちゃん持ってるし、あんまりにも珍しい写真だからって何枚か現像もしているみたいだから心配する事ないぜ」
「……のお婆さんって、変わってるよね……」
「否定しねぇ。でも、そのお陰で俺は救われてんだけどな」

 思わず呟いた言葉に、が少し寂しそうな笑顔を見せた。

 その笑顔に、僕は何も言えなくなる。
 僕以上の力を持つにとって、祖母だけが救いだったのだと分かるから……。

「分かった。それじゃこれは遠慮なく貰う事にするね」

 そして、返したのは笑顔。
 その笑顔と共に、写真をの手から取り上げる。

 不機嫌そのままに写る二人。

 一人は赤い髪に手には松葉杖を持った少年と、その隣では不機嫌そのままに半分顔を背けている一見少女にしかみえない手にギブスを嵌めている子供。
 そんな二人が並んでいる写真。

 それを見て、思わず笑みを浮かべた。
 これは、まだ僕達が子供だったのだと言う証拠写真。

「ねぇ、
「ああ?」
「まだ仕事終わってないんだよね。今日はミルクティなんて飲みたい気分なんだけど」

 写真を手に、ニッコリと笑顔でにお願い。

「って、ここにミルクねぇだろうが!」
「だから、『昼』にでも持ってこさせて、ロイヤルミルクティ一つ宜しくね!」

 当然の文句を言うに、ニッコリと笑顔で注文をする。

 なんだかこの写真を見ていると、子供みたいな我侭を言いたくなった。
 だから、ちょっとした意地悪。

 それでも、小さくため息をつきながらは『昼』に連絡をしていると分かるから、僕は笑みを浮かべる。

 本当、こう言う所が大人だと思うんだよね。
 文句を言いながらもきっと彼の猫は、言われた通り牛乳を持ってやって来るだろう。
 それが分かるからこそ、笑みを深くする。

 彼の白猫が来たら、この写真を見せてやろう。
 ちょっとした昔話と一緒に……。

 松葉杖を持った僕と、その隣に立っている彼の事を……。