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「何をしてるの?」
突然聞こえて来た声に、驚いて振り返る。
先程まで、間違いなく人影などなかった。
それなのに、自分に声を掛けてきた人物に俺は、驚きを隠せない。
「ねぇ、何をしてるの?」
少し舌足らずなしゃべり方の小さな女の子が、赤い傘を持って自分の事を不思議そうに見上げてくる。
「お仕事」
「お仕事?」
そんな女の子に、にっこりと笑顔を見せて一言。
その言葉を子供が不思議そうに繰り返す。
「そうだよ、お仕事中。君は、ここで何をしているのかな」
「あのね、私は……」
座り込んで、女の子と同じ目線に合わせてあげてからの質問。
それに、少女が自分を見て言葉を続けようとしたが、それは言葉になる事はなかった。
「言えない、か……なぁ、お家、帰りたいか?」
少し悲しそうに自分を見つめてくる瞳に、そっと問い掛ける。
その言葉に、少女が小さく頷いた。
「そっか、なら俺が、送ってやるよ」
「……帰れるの?」
「ああ、お母さんも、君が帰ってくるのを待っている」
不安な色を見せる瞳に、優しく返してゆっくりと瞳を閉じる。
「ほら、道が見えるだろう?」
そしてその瞳を開いて、そっと少女に問い掛けた。
自分の問い掛けに、少女が小さく頷く。
「この道を真っ直ぐに進んで行けば、お家に帰れるよ」
「本当?」
「ああ、本当だ。だから安心してお帰り」
「うん、有難う、お姉ちゃん!!」
にっこりと言えば、嬉しそうに手を振りながら言われたその言葉に、俺は思わず固まってしまう。
お、お姉ちゃん????
って、俺の何処が?!
嬉しそうに走って行く後姿に、今更訂正する事も出来ず、俺は盛大にため息をついた。
『しっかりと間違えていたようだな』
ため息をついた瞬間聞こえてきた声に、俺は視線をそちらへと向ける。
「『昼』……聞いていたのかよ……」
疲れたように相手に視線を向ければ、自分の肩に重さを感じた。
現れたのは、真っ白な猫。
『簡単な仕事で良かったな。赤い傘を持った女の子の魂を捜せと言われた日には、難しいと思ったが……』
「まぁな、でも、事故で死んじまった魂は、大抵その場に残っちまうんだよ。だから、ここの近くで見付けられると思っていたからな……」
言われた言葉に、もう一度ため息をつきながら、ゆっくりと空を見上げる。
それは、傘など必要ないほどの晴天。
それを見上げて、もう一度ため息。
『誤算は、自分の事をお姉ちゃんと言われた事か?』
そんな自分のため息に、『昼』が笑いながら問い掛けてくる。
それに、ピクリと俺は反応を返した。
「って、俺は『俺』って言ってんだぞ!大体、俺の何処を見て、姉ちゃんになるんだ!!」
『子供の戯言だ、気にするな……それよりも、後の確認はいいのか?』
「……いいよ、あの道はあの子の家に直接つながっている。他の誰かに邪魔される事もないさ」
『雨の中から、漸く抜け出せると言う事だな』
「まぁ、母親の愛は強いよな……自分の子供の魂が帰ってきてないって事、ちゃんと気付くんだから……」
『そうだな……だが、気が付くのか、魂が戻ってきた事に……』
「今夜、母親の夢の中にあの子が出て行けるように力を貸した」
心配そうに言われた言葉に、言葉を返す。
きっと、笑顔で母親に言うのだろう、『ただいま』と……。
「さて、帰るか」
『そうだな……』
交差点の隅に添えられている花束に手を合わせて、立ち上がり歩き出そうとした瞬間、不思議そうな声が掛けられて驚いてしまう。
「?そんな所で、何をしているの?」
言われた言葉に、思わず苦笑。
あの女の子と同じ質問。
「今、仕事が終わったところだ」
質問された言葉に、俺は笑顔と共にそう言葉を返した。
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