|
「ただいま」
そう言って入るのは癖。
誰も居ないと分かっていても、そう言ってしまうのは仕方ない事。
真っ暗な家の中は、シーンと静まりかえっている。
「……『昼』は、ばーちゃんが連れてちまったしなぁ……だから今日は、久し振りに一人だな……」
昔はそれが日常だったのに、近頃なかったから複雑な気持ちを隠せない。
俺以外の家族は、仲がいいので良く一緒に出掛ける。
俺は、仕事の関係で一緒には行けないし、何よりもお袋や親父が自分の事をどう思っているのかを誰よりも理解しているのだ。
あの二人が、俺の事を怖がっている事を、ちゃんと知っている。
まぁ、それが普通の反応だ。
誰をも操る事の出来る瞳を持つ子供など、出来れば近付きたくもねぇだろう。
「……そんな事も忘れちまってたんだな……」
一人だから、こんな事を考える。
諦めていたのに、もう今が普通だと思っていたのに、どうして自分はこんなにも望んでいるのだろうか?
この家の跡取として生まれた自分。
そして、普通の両親と妹。
それだけで、自分はその家族からは離されてしまっているのだ。
「普通なんて、望んでねぇのに……」
それでも、時々思うのは、もし自分が普通の子供で生まれて来たら、全く違う人生だったのだろうか?
人を欺く事無く、そのままで生きられたのだろうか?
「……考える事事態、間違っているな……」
自嘲して、自分の部屋へ向かい、真っ暗な家の中を歩いていく。
その瞬間、着信を告げる携帯の音。
それにビクリと反応して慌ててポケットから取り出して手に持つ。
「星馬?」
着信音から相手は分かっていたので、思わずその名前を呼ぶ。
『?良かった連絡とれて。何度か連絡したんだけど、全然繋がらなかったから……』
安心したように言われた言葉に、『ああ』と、俺は声を出す。
確かに先程まで居た場所は、電波の届かない場所だったな……。
「悪い、仕事の関係で地下に居たからな……で、どうしたんだ?」
そんなに何度も連絡をくれたのだろうか?だったら、よっぽどな急用だろうと思い問い掛ける。
『大した用事があった訳じゃないんだけど、今日もう夕飯食べちゃった?』
「いや、まだだけど……」
『良かった。今から家に来ない?今日両親居なくって、豪と二人だけだったんだ、も今日は一人って聞いてたから……』
嬉しそうに言われる言葉に、俺は驚きを隠せない。
いや、誰が今日俺が一人だってこと話したんだ??って、一人しか居ねぇけど……。
『、一人だと食べない事が多いって言っていたからね。だから、お誘い。ついでだから泊まりに来ればいいよ』
あっさりと言われた言葉に、思わず苦笑を零す。
本当に、今は一人じゃないと言える。
普通など自分には無縁だと思っていたのに、こうして手を差し伸べてくれる友人が出来た。
そして、何よりも自分を心配してくれるヤツが居てくれる。
それは、望んでも絶対に手に入らないと思って居た者だ。
「……そうだな、ならお言葉に甘える事にする。心配症の『昼』が願ったようにな」
そう返事を返せば、楽しそうに笑っている星馬の声。
そして、『待ってる』と言う言葉を聞いて、俺は笑顔のまま通話を切った。
一人の夜は、一瞬で誰かと一緒の夜へと変る。
それは、自分を思ってくれる者が居るから……。
「待たしちゃ悪いな、行くか」
簡単に準備して、暗い家を後にする。
一人出歩く夜の道は、暗くても明るい場所へと続くモノだった。
|