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クルクル変るのは、空の雲。
それを見るのは、楽しくって時間を忘れられる。
まるで、万華鏡のように同じ形は二度と見られない空の顔。
「?」
ボンヤリと日光浴。
滅多にない休みには、温泉に行くか、お気に入りの場所でこうやってのんびりと日の光を浴びているかだ。
だから、こんな自分に対して名前が呼ばれるなんて思いもしなかった。
ここは、あまり人目にはつかない場所。
と言うよりも、人が好き好んでくる場所ではない。
現代人は、自然の中に居るよりも、今はビルと言うジャングルの方を愛する者が多い。
「……星馬?」
名前を呼んだ相手を、驚いたように見詰める。
信じられないというように見た俺に、あいつの笑みが返された。
「僕は、ミニ四駆の事で、土屋博士に呼ばれたその帰り。この道は、土屋研究所に続いているからね」
驚いて見ている俺に、星馬が説明する。
そう言えば、この先には、大きな研究所があったなぁ。
あれが、有名な土屋研究所だったのか。
ミニ四駆なんて、触った事もねぇから、全然知らなかったぜ。
「で、は?」
説明された事に納得している俺に、今度は星馬が問い掛けてくる。
ああ、これは、自分がここに居る理由を話せって事なのだろう。
「俺は、偶の休みに日光浴。ここは気に入りの場所だからな」
「ああ、今日は仕事休み、なんだ」
俺の言葉に、星馬が何も言わずに、俺の隣に腰掛ける。
おいおい、一応許可を取るのが普通じゃねぇの?
まぁ、断る気はねぇけど……。
「で、空見て、何か変ったものでもあった?」
そして、続けての問い掛けに俺は苦笑を零す。
一体、何時から見ていたのやら……。
「それ、前は『昼』がお前に言った言葉に類似してねぇか?」
「ああ。そう言えば、『空なんて、見ていて楽しいのか?』だったっけ?」
「まぁ、似たような言葉だったな。んで、俺はその時言っただろう、日光浴好きだってな。んで、こんな天気の日は、ボンヤリ空を見るのは、楽しいぜ」
言いながら、その場に横になって空を仰ぐ。
見られるのは、何処まで広がる蒼の世界と、それを漂う白い雲。
一時だって、同じ形を見せない雲のそれは、見飽きる事なんて、決してない万華鏡と同じ。
「『この空を見て、何を思うのかは、人それぞれ』だったっけ?」
そんな俺の隣に座った星馬が、楽しそうに首を傾げて問い掛けてくるのは、あの時俺が言った言葉。
「たく、良くそんな事覚えているよな……」
「には、言われたくないね。僕以上に覚えているだろうし」
呆れたよう呟いた俺に、星馬が小さくため息を付いて返してくる。
確かに、それは否定しねぇんだけど、そう言う問題じゃないと思うのは、俺の気の所為か?
「んで、は、この空を見て、何を思うの?」
「あ〜、あっ?」
何も言わずに空を見ている俺に、星馬が質問してくる。
それに、俺は首を傾げて星馬へと視線を向けた。
「だって、この空を見て思う事は、人それぞれなんだよね?だったら、今、はこの空を見て、何を思う?」
確かに、俺が言った言葉だけど、それを質問に持ってくるか普通。
ボンヤリとしているのに、何を思って空を見るんだよ。
ああ、でも今日は、珍しく思っていた事があったっけ……
「何思うってなぁ……強いて上げるなら、万華鏡」
ずっと空を見ながら思っていた事。
形を変える雲を見ながら、そんな風に感じていた。
「万華鏡?」
「ああ、クルクル変る模様は、決して同じモノなんて、有り得ない。その時その時で見せる模様は、その一瞬だけが見せるもの」
だから、その一瞬さえも見逃さないように、見詰めてしまう。
「……って、本当に詩人だよね……」
「はぁ?」
ボンヤリと空を見ている俺の耳に、小さなため息と共に言われた星馬の言葉。
それに、思わず素っ頓狂な声で問い返してしまう。
「だって、枯葉の音楽に、今度は空を万華鏡なんて、普通は思い付かないよ」
「……んで、何でそれが詩人になんだよ……」
楽しそうに笑いながら言われた言葉に、複雑な気持ちを隠せない。
別に、何かを考えて言っている訳じゃねぇんだから、そんな風に返されると、照れてしまうのだ。
「別に、らしいなぁって事だよ……そう言えば、今日は『昼』一緒じゃないんだね」
俺の質問に、答えになっていない返事を返して、ニッコリと笑顔を見せる星馬。
そして、続けて言われたその言葉に、俺は小さくため息をついた。
「『昼』は、家で昼寝中。俺のベッドを占領していたから、そのまま置いて来た」
「そうなんだ。なら、偶にはこうやって、空の万華鏡を見るのも、一挙ってところかな」
「いや、意味分かんねぇって……」
ニッコリと笑顔で言われた言葉に、頭を抱える。
そして、またその視線を空へと向けた。
ゆっくりと流れる雲が、その形を少しづつ変えていく。
二度と同じ形など見られない、万華鏡。
確かに、偶には、こうやってゆっくりとするのも、一挙かもしれないな……。
俺的には、毎日でも構わねぇけど……。
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