「あっ、副会長」

 名前を呼ばれて、振り返る。
 副会長と言う役職で呼ぶのは、同じ役員だと分かるから。

「仕事で、問題でも?」

 予想通り、自分を呼んだ相手は、生徒会会計の2年。
 だから、いつも通り仮面を被って、首を傾げて問い掛ける。

「いえ、そう言う訳じゃないんですけど、副会長の姿が見えたので……」

 1年男子が、頬染めて言った言葉に、俺は内心鳥肌が立った。

 いや、だって、同じ男に頬染めてそんな事言われても嬉しくねぇって!!

「そ、そう、問題ないなら、いいんだけど……それじゃ、どしたの?」

「あっ!忘れるところだった!!これ、副会長にお渡ししようと思って」

 思わずそう聞き返した俺に、慌てたようにそいつが差し出したものは、一つのムースポッキー。

「これは?」

「先輩、抹茶とか好きそうだから新発売だったので、プレゼントです」

 ニコニコと笑顔で言われた言葉に、複雑な気持ちを隠せない。

 いや、抹茶が好きなのは、否定しないけど、どうして、それをプレゼントされないといけないんだろうか。
 今日が、特別な日でもないと言うのに…

 1年の、しかも男子生徒に……

「何時もお茶やお菓子をご馳走になっていますから、その感謝の気持ちなんです。だから、貰ってください」

 疑問に思った俺の気持ちを汲んだのか、慌てて付けたされた言葉に、俺はこっそりとため息をつく。
 別に、お礼とかそんなもんが欲しくって、生徒会でお茶やお菓子を出している訳じゃない。

「…あれは、僕が好きでしている事だから、気にする事はなかったのに……でも、有難う。その気持ちと一緒に、貰っておくね」

 本当は、貰いたいとも思わないけど、真剣に差し出してくる相手に、にっこりと笑顔を向けて、差し出されているモノを受け取った。

 俺の言葉に、そいつの顔が、ぱっと嬉しそうな笑顔になる。
 って、なんで、こいつこんな嬉しそうなんだ??

「有難うございます!あっ、今日も仕事あるんですよね?」

「勿論。仕事大変だけど、頑張ろうね」

「はい!!」

 俺のニッコリ笑顔の言葉に、これ以上ないくらい嬉しそうに笑ってから、『失礼します』と遠去かって行くその後姿を見送り、思わず盛大なため息をついてしまう。

「年下キラーだね」

 ため息をついた瞬間、後ろから楽しそうな声が聞こえてきて、振り返った。

「星馬か……何が、年下キラーだ!男に頬染められても、嬉しくねぇんだよ!」

 ぎっと睨み付けて、文句を言うのは、許される事だろう。

「……よっぽど、イヤだったみたいだね」

「当たり前だ。大体、眼鏡掛けて、顔の半分を隠すぐらいの前髪あるような奴を、頬染めてみるもんなのか?!」

「う〜ん、の場合、その髪もサラサラで、綺麗だからね」

「……それは、誉めてんのか?」

「一応。で、何貰ったの?」

「抹茶ムースポッキー。食うか?」

「あっ、出たばっかりのだね。味見したかったから、ラッキーかも」

 あんまり店で売っている菓子は買わないから、こう言うのを貰うのは物珍しくて嫌いじゃねぇけど、それが何で、男からなんだろう。
 それだけが、納得できない。

「あの子、に懐いていたからね。よっぽど慕われてるんじゃないの」

「……素直に、喜んでいいのか、それは?」

 別に、嫌いじゃねぇけど、俺の実の妹よりも素直だし、頭は悪くないからな。
 弟のように……流石に、思えねぇか……。

「なんにしても、ポッキーに罪はねぇからな、食っちまおうぜ」

「……君のそんな所は、気に入っているよ」

「誉め言葉だな、んじゃ感謝の気持ちに、一袋進呈してやろう」

 ビッと渡された菓子箱を開いて、中から一袋取り出して星馬に渡す。

「有難く頂いとくよ。あの子の気持ちはいらないけどね」

「一言余計なんだよ!」

 俺が渡した袋を素直に受け取りながら言われた言葉に、言葉を返してため息一つ。



 偶々貰ったムースポッキー。
 複雑な気持ちは隠せない、今日の午後だった。