「ああ、くそ!」

 突然の文句の声に、驚いて顔を上げる。

「ど、どうしたの、??」

 さっきまで静かに仕事をしていたはずなのに、突然の言葉に、驚くなと言う方が無理な話だろう。

「ああ、悪い……」

 僕が名前を呼んだ事で、が慌てて謝罪の言葉を口にする。

「いや、別に悪くはないんだけど……」

「気にすんな、大した事じゃねぇから」

 何があったのかを聞こうとした僕の言葉は、によって遮られてしまう。

 『気にするな』と言われても、気になってしまうのは止められない。
 だって、って、大変な事でも、平然と受け止めてしまうから……。

「ちょっと休憩する?」

「いや、そんな暇ねぇ。今日中にこの書類終わらせないと、駄目だからな」

 僕の申し出を、その言葉で断ってから、そのまま作業を続けるを前に複雑な表情をしてしまう。

 生徒会のメンバーは、僕とを入れて5人で構成されている。
 だけど、実際ここの仕事を切り盛りしているのは、会長の僕じゃなくって、だ。

 何でも卒なくこなしていくが、仕事を全て先回りして片付けてくれているから、僕を含め他のメンバーは、かなり楽をしていると言える。

 だけど、は、学生と言うだけじゃなく、家の仕事も行っているので、僕達以上に、ハードな日常を送っているだろう。

 今は、生徒会の仕事が忙しくて、家の仕事は断っているらしいけど、それでも、学校が休みの日は、どうしても仕事に借り出されるらしいので、一体何時休んでいるんだろうと、心配になる程だ。

 こんな状態になるのが分かっているのに、なんで生徒会に選ばれた時に、断らなかったんだろう?

「星馬!これ、後チェックだけだから頼む!んで、こっちはお前の許可が必要な分。宜しくな!!」

 ボンヤリと考え込んでいる僕に、何時の間にか、目の前に来ていたが、大量の書類をそのまま机の上に置いていく。

 置かれた書類を一枚手にとりサッと目を通せば、何時もながらの完璧なもの。

 何時も思う、どうしてお前は、生徒会に入る事を拒否しなかったのだろう。

 そうすれば、僕という人間に、本当の姿を知られる事もなかったのに……。
 そして、忙しい時間を更に増やされる事は、なかっただろう。

「……本当、どうしてだろうね……」

 思わず思ったことが、そのまま口に出てしまった。

「ああ?なんだよ、急に??」

 そんな僕の呟きを聞き逃さなかったが、不信気に問い掛けてくる。
 本当、こんな所まで、聡いよね…。

「ねぇ、は、どうして副会長になる事を引き受けたの?」

 聡い君だから、思った事をそのまま問い掛ける。
 これが、他の人だったら、そのまま何でもないって、笑顔で言えるのに……。

「それもまた、今更だな」

「そう?だって、には、家の仕事だってあるのに、態々雑用係りなんて引き受けた理由が思い付かないからね」

「雑用係なぁ……当っているだけに、笑えるな」

 いや、そこは笑うところじゃないと思うんだけど、ね。

「あのねぇ……」

「まぁ、正直言えば、お前に興味があった」

「えっ?」

 呆れたように呟いた僕に、続けて言われた言葉に驚いて、言葉を飲み込んでしまう。
 だって、普通、そんな事、急に言われたら、誰だって驚くと思うんだよね。

「って、言うのは嘘だ。ただ単に、断る方が面倒だったんだよ。教師の推薦だから、半強制ってのも、理由だな」

 驚いて何も言えないでいる僕に、あっさりと笑って、理由を話すに、詰めていた息を吐き出すように大げさにため息をついた。

「君ねぇ、人をからかって楽しい訳?」

 少し怒ったように相手を見れば、楽しそうに笑われる。

「正直に言えば、楽しいな。お陰で、ゆとりも出来たし、お茶にするか」

 楽しそうに言ってから、体を伸ばすと立ち上がり簡易キッチンへと歩いていく。

「お前は、その書類片付けてろよ。それが終わったら、今日は終了な」

 お茶の準備を始めたに、自分が変わると口を開く前に、しっかりと釘を刺されてしまう。
 本当に、こう言う所は、適わないと思わずにはいられない。

「後、俺は、生徒会の事を、負担になんかに思ってないから、安心しろよ。お前や星馬弟と、普通に接する事が出来るのは、本当に感謝してるんだからな」

 そして、言われた言葉に、驚いて顔を上げれば、優しい笑顔が自分を見ている。
 本当に、人の心を見透かす事の出来る彼に、僕は一生勝てないかもしれない。