自由に、生きて来た。

 何者にも囚われる事無く、ただ毎日を生きて来た。
 なのに、今、初めて囚われたのだ。

 そう、人と言う存在に……。



「『昼』?」

 不思議そうにオレの名前を呼ぶ主人の声に、ピクリと動く耳。
 自分でも分かっている、どんなに遠く離れていても、この声だけは聞き逃したりしないと言う事を……。

『なんだ?』

 そっけないともとれる自分の声。

 でも、それは仕方ない事。
 素直になれない自分をちゃんと知っているから。

「いや、部屋に居たのか…悪い、起こしちまったよな」

 オレが返事をした事で、部屋に顔を覗かせて、自分の姿を確認したが、申し訳なさそうに謝罪してくる。

 確かに、眠っていた事は否定しない。
 この場所は、自分にとって居心地の言い場所だから、安心して眠れる場所だから……。

『別に、いい。それで、用事があるんじゃないのか?』

 謝罪されて、横を向いてそっけなく返す。
 素直になれない自分に、嫌気がした。

「用事がある訳じゃねぇんだけど、ちょっと出掛けてくるから、お前どうするかなぁと思って……」

『出掛けるのか?』

 躊躇いながら言われた言葉に、問い掛ける。

 今日は珍しく、ばーさんの仕事は無いと言っていた。
 そんな時は、『温泉だ!』『日光浴だ!』と言うこいつが珍しく何も言わずに居たのに、昼も過ぎたこんな時間から出掛けるなんて、今までには無かった事。

「ああ、学校の方での呼び出し。たく、休みの日まで人に仕事押し付けるなって〜の!」

 文句を言いながら、しっかりと制服に着替え始めた相手に、オレは小さくため息をつく。

 どうせ、猫を被った状態で、快く引き受けたのだろう。
 予定が無かった事が、災いしたらしい……。

『……学校の用事なのに、オレが一緒に行ってもいいのか?』

「ああ、別に構わねぇよ。ただの買い物だし。まぁ、姿は消してもらうけどな」

 あっさりと言って、は薄いコートを羽織る。
 もう既に春と言える季節だけど、時折吹く風は、まだ冬を思い起こさせた。

「ああ、桜も今が見所だな。用事終わったら、見に行くか?」

 ニッコリと笑顔で言われた言葉に、ただ頷いて返すだけ。
 こんな時だけ、素直になれる自分。

「よし、決まり!んじゃ、行きますか」

 そう言って、すっかり学校に向かう姿を作り上げたが、オレに手を差し伸べてくる。

 初めて、会ったあの時と同じように……。

 この腕が、自分を必要だと言ってくれたようで、オレはその腕に身を任せた。






「俺って、本当に愛されているよなぁ……」

「……何、その惚気の言葉」

 あれから時間は過ぎて、あいつの傍に居る事が、当然と思うようになった頃、あいつにの事がバレて直ぐの頃。

「いや、別に……お前も感じねぇ」

「…だから、何を?」

 の言葉に分からないと言うように不機嫌そうな表情を見せるのは、オレの弟『夜』の主人。

「ん〜っ、飼い猫の愛情」

 そいつの質問に、ニッコリと笑顔で返した言葉に、オレは何も言えなかった。

「………あれって、飼い猫なの?」

 それに、呆れたようなあいつ言葉。

「そっ、可愛い愛猫?」

「いや、疑問で言われても、こっちは返せないから……」

「だって、お前も連れてんじゃん。可愛い猫を」

 ……オレ達の事を可愛いなんて言えるのは、お前だけだ!!

 そう言いたいのに、言葉が出ないのは、言われた事が嬉しかったからかもしれない。
 自分の気持ちをちゃんと知っていてもらえる事に、自然と顔が笑ってしまう。

「う〜ん、確かに可愛いかもね……」

「だろう?俺って、やっぱり愛されているよな」

 そんな自分の耳に聞こえてきた言葉は、無視。

 素直に喜んだりしない。
 それは、自分が、捻くれているから。

 それでも、自分の事を、ちゃんと分かってくれている主人に、やっぱり嬉しいと感じる事だけは、とめられない気持ちだった。