「ここにある本って、何?」

 突然呟かれた言葉に、思わず顔を上げる。

「それ?生徒から没収したものよ。まったく18禁モノを堂々と学校で読むなんて、どうかしているわ」

 質問に返されたのは、不機嫌そのままの女子副会長の言葉。それに、僕は思わず苦笑を零してしまう。

 本当は、まだ読んじゃいけないはずなのにね。
 それを学校に持ってくる上に、堂々と読むなんて、本当に凄いなぁ。

 思わず感心してしまった僕の耳に、信じられない言葉が、聞こえてきた。

「…18キン?何??」

 本当に分からないと言う様に、不思議そうに小首を傾げながら尋ねられた言葉に、思わず我が耳を疑ってしまう。

くん?」

 聞かれた内容が理解できずに、思わず相手の名前を呼んでしまった。

副会長、知りたいんなら、その本開けば分かるわよ」

 信じられないと言うように見詰める中、女子副会長が、手を動かしながらあっさりと返す。

 いや、開いて確認って……。
 確かに、表紙はカバーがされていて全然中身が想像できないからって、18禁の意味も分からない相手に……。

「えっと、開いて確認………わっ?!!」

 僕が止める前に、が素直に本を手に取って頁を捲った。
 そして、その瞬間驚いたような声を出してそのまま本を閉じてしまう。

「どう、分かったかしら?」

 その行動に、楽しそうに笑いながら、女子副会長が質問する。
 それに、が真っ赤になったまま大きく頷いた。

「で、でも、なんで、男同士!!」

「そう言うのが流行りだからでしょう。私は、興味ないけど……もともと、漫画とか娯楽小説には、興味無いもの」

 言いながら、その手は作業を止める事は無い。

 本当、何時もながら、仕事熱心だよね、女子副会長って……。
 そ、それにしても、18禁モノって、そっち系だったんだ。
 絶対に見たくないかも……。

「そんな事より、早く仕事終わらせてくれる?勉強の時間が減っちゃうわ」

 動かしていた手を止めて、時間を確認しながら言われた言葉に、思わず苦笑を零す。
 本当に、彼女は勉強一筋だ。

「えっ、ああ、うん……今やっている書類が終われば、もう上がってもらって大丈夫だよ。後は、会長と僕で遣っておくから…」

「そう?それじゃ、もう終わったから、お願いできるかしら?」

 が慌てて言った言葉に、険しかった彼女の表情が一瞬で明るいモノへと変わる。
 そして、今まで手に合った書類を、へと差し出した。

「勿論。お疲れ様、副会長。あっ!会計と書記の二人も終わっていいよ。お疲れ様」

 女子副会長から笑顔で書類を受け取って、その後ろでも作業をしている2年の子達へと声を掛ける。

「あの、でも、俺達の方は、まだ終わってないんですけど……」

「急ぎの仕事じゃないから大丈夫だよ。それとも区切りが悪い?区切りの良い所で終わらせれば良いよ。根を詰めても、良い結果にはならないからね」

 に声を掛けられた会計と書記が、困ったように言ったそれに、優しい笑顔を浮かべて言葉を返す。
 さっきから、彼らの手が止まっていて、進んでいなかったのを、ちゃんと見ていたようだ。

「それじゃ、お言葉に甘えて……お先に失礼します」

「気を付けてね」

 に言われて、安心したのだろう。
 二人も頷き合って、帰り支度をすると、そのまま素直に帰っていく。
 そんな彼等を笑顔で見送ってから、が盛大なため息をついた。

「お疲れ」

 そんなに、僕が声を掛ける。

「会長さまは、さっさとしねぇと帰れねぇぜ。ああ、会計と書記には、あの書類は難しかったみてぇだな……しゃーない、分かりやすくしとくか……」

 しっかりと僕に釘をさしてから、さっきまで会計と書記が掛かってきた書類を手に取ると、自分の席へと座った。

「そう言えば、二人に渡してある書類って?」

 二人が頑張っていた書類を真剣に見ているに、質問。

「部費会に必要な書類製作」

 僕の質問にあっさりと返された言葉に、僕は苦笑を零した。

「それは、難しいものを……部費の配分なんかは、まだ大まかにしか……」

「そう、大まかに決まってんだよ。だから、後はまとめるだけ。誰にでも出来るだろう、普通は」

 二人が頑張っていたものを見て、が盛大なため息をつく。

 って、普通は無理だと思うけど……。
 そりゃ、ほど頭良かったら別かもしれないけど……。
 行き成りそんな大事な書類を任されても、困ると思うよ。

「えっと、部費会って、来月だっけ?」

 余りにも気の毒過ぎて、その書類の期限を確認するつもりで問い掛ければ、不機嫌そうにが僕を見てまたため息をつく。

「そう、来月頭。遅くてもその前日までには書類作らねぇとなぁ……ても、これはあいつ等に任せた仕事だから、星馬は、手を出すなよ」

「それって、気の毒過ぎるかも……」

 手を出すなと、先に釘をさされて、思わず同情してしまう。

「これでも、生徒会に選ばれた奴等だ。ちょっとだけコツを教えれば、あっという間に遣ってくれるさ」

「……コツねぇ……」

「んな事より、手を動かせ!先に帰っちまうぞ!!」

 ニッと笑顔を見せたに、ポツリと呟けば、怒ったように作業を促される。
 でも、が、僕を置いて帰るなんて、そんな事ないって知ってるから、思わず笑ってしまう。

「なんだよ」

「何でも無いよ……ああ、そうだ。話し変わるけど……」

 笑った僕に、が不機嫌そうに睨みつけてくる。
 それに、僕はもう一度笑顔を見せて、思い出したように口を開いた。

「あの18禁に対しての反応は、天然?」

「………本当に、話し変えやがったな……」

 だってねぇ、『18禁』を知らないなんて、に限って、信じられないんだよね。

「悪かったな。あれに関しては、天然だ。18・金って、訳しちまったんだよ」

「金の方ね……で、男同士の18禁本見た感想は?」

「もう二度と見たくねぇ……」

 キッパリと言い切ったに、思わず笑ってしまう。
 まぁ、僕も見たいなんて絶対に思わないし、それが普通だと思うよね。

 うん、やっぱり、の反応って面白い。
 飽きないよね。






「あの、会長」

「どうしたの?」

「部費会の書類出来たので、確認していただけますか?」

 あれから3日もせずに、書記と会計の二人に言われた言葉に、僕は一瞬驚いてしまう。
 だって、あんなに苦労していたのに、それがたった3日で出来あがったなんて……。

「早かったね。ご苦労様、ちゃんと目を通しておくよ」

「お願いします!」

 本当、がコツを教えただけで、ここ何日か苦労していたモノがあっさりと片付くなんて……。

「あいつこそが、漫画の主人公みたいだね……」

 何でも出来る
 学校では隠しているけど、勉強だけじゃなくって、スポーツも得意なのを知っている。
 そして、学校では絶対に見せない顔は、『払い屋』。
 あいつを見ていると、漫画とか娯楽小説なんて、必要無い。
 あいつそのものが、漫画の主人公みたいだから……。

「本当、僕も毒されているかも、ね」

 暫く読んでない漫画とか、久し振りに見てみようかな。
 あいつの部屋に行けば、自分で買わなくっても、見られるからね。

「さぁてと、お仕事お仕事」