「すっごく、込み入った事聞いてもいい?」

 突然そんな事を言い出した星馬に、俺は書いていた書類から目を離した。

「なんだよ、突然」

 行き成り聞きたい事があると言われても、何が聞きたいのか分からないし、何よりも、込み入った内容と言う事じたい、俺も何処までが話せるかなんて、聞いてみない事には分からないのだ。

「えっと、すっごく気になったんだけど、って彼女いるの?」

「………本当に、込み入った内容だな……」

 俺の問い掛けに、星馬が言い難そうに問い掛けてくる。
 それに、俺は呆れたように盛大なため息をついた。

 込み入った内容と言うより、そう言うのは、俗な質問だ。

「居るように見えるか?」

 そして、星馬の質問を、質問で返す。

 大体、学校で生徒会の仕事が無い放課後や休みの日なんかは、家の仕事をしている自分に、何処に彼女を作る時間があるのかを教えてもらいたい。
 もし、出来たとしても、直ぐに振られるのがオチだ。

「……そ、それじゃ、キスとかした事は?」

「星馬にしては、本当に珍しい事聞いてくるな。お前、そんなのに興味あるのか?」

「う〜ん、正確に言えば、興味ある訳じゃないんだけど、の唇見てると何となくね」

 って、なんだよそりゃ。普通、そんな事、聞いてくるか?

「何で、俺の唇見て、そんな事考えるんだ?訳分かんねぇぞ、星馬」

 下世話な話を振ってきた相手が、星馬じゃなければ、俺もここまで驚かない。

「ごめん、何となく気になって……変な事聞いちゃって、ごめんね」

 俺の言葉に、星馬が慌てて謝罪してくる。
 別に怒っちゃいねぇけど、何でそんな事、聞いて来るんだか……。まぁ、答えても、こいつなら問題無いからいいか。

「まぁ、別に気にはしねぇけど、そうだな……キスなら何度もしているぜ」

「えっ?」

 だから、あっさりと質問に答えてやる。
 だが、俺の答えに、星馬が驚いたような声を上げた。そんなに、驚くような事、言ったか俺?

「なんだ、質問に答えてやったんだから、そんな驚く事ないだろう?」

「えっ、ああ、ごめん。そうだね、ボクが質問したんだった……」

 って、何でまた謝るんだ?別に、俺は怒ってないぞ。
 それとも、俺ってそんなに経験無さそうに見えるのか?高校生で、経験なしってのは、今時希少価値があると思うぞ。

「なんだ、もしかして、星馬は、経験無しな方なのか?」

「……そう言う訳じゃないけど……は、意外かなぁって……あっ!悪い意味じゃないんだけどね」

 んじゃ、それは誉められているのか?
 どう聞いても、そうは聞こえないぞ。可笑しいな、こいつは、素の俺を知っているから、俺が純情じゃない事は、誰よりも知っていると思っていたのに……。

「俺の経験は置いとくとして、その意外ってのが、気になるよな……俺は、遊んで無いように見えるのか?」

 俺の質問に、星馬が大きく首を振る。そこまで激しく振らなくっても、って言うぐらいブンブンと…。

「遊んでいるように見えるなら、キスぐらい当然だろう?それとも、俺が、お前にキスすればいいのか?」

「誰が、そんな事、言ってるんだよ!」

 そんな星馬に苦笑を零して、からかう様に問い掛ければ、真っ赤になって文句を言ってくる。それに、俺は思わず笑ってしまう。

「いや、人の唇気にしていたから、キスしてもらいたいのかと……流石に男とした事は無いからなぁ……断ってくれて、助かったぜ」

「なら、言わないでよね……」

 『してくれ』とて言われた方が、困るよな。
 あからさまにホッとした俺に、呆れたように星馬が文句を言っているのが聞こえてくる。

 まぁ、からかっただけで、本気でしようなんて思っていない。
 その前に、男にキスなんて、絶対にイヤだ。例えそれが、女顔の奴だって、お断りだ。
「何にしても、俺の経験なんて、気にすんなって、気にするだけ、馬鹿を見るぞ」

「……それも、それで、複雑なんだけど……」

 まだ納得できないというような星馬に、俺は小さくため息をつく。
 大体、人の経験なんて、気にしても仕方ないだろう。
 もっとも、自慢したい奴は、自分からバラすみたいだけどな。俺は、そう言うのは、はっきり言って興味無い方だ。
 だが、納得できないと言う星馬を納得させるために、俺は合えて、質問を口にした。

「それだったら、星馬だって同じだ。経験無いなんて、言わないだろう?」

「そりゃ、まぁ、そうなんだけど……」

 俺の質問に、言い難そうに星馬が返事を返す。
 それに、俺は満足そうに頷いた。

「それを聞かれて、いい気分はしないだろう?」

「確かに、そうだね」

 俺の質問に、星馬が頷く。それに、俺はニッと笑みを見せた。

「だろう?ああ、そうだ、これだけは教えてやるよ。俺のファーストキスの相手は、人間じゃなかったぜ」

 教えないと言っておきながら、あっさりと俺の事を話す。

?」

 突然、サラリと言った俺の言葉に、星馬が一瞬、訳が分からないと言うような視線で見詰めてくる。

「後、殆どの経験は、あっち関連だったな」

「……って、バラしてるじゃん!」

「まぁ、俺の場合、教えても問題無いモンだからな。あっ!ちなみに最近の相手は……」

『呼んだか?』

「まだ呼んでないぞ、『昼』」

 俺が、名前を呼ぶ前に、『昼』が目の前に姿を現す。それに、苦笑を零して突っ込んだ。

「近くにいる事は分かっていたからいいんだけど……そうそう、最近のキスの相手は、こいつな」

「…??」

 自分の目の前に現れた白猫を指差す。
 そんな俺に、星馬が、不思議そうに名前を呼んで来た。俺は、そんな星馬に、ニッと笑顔を見せて、両手で目の前の白猫を抱き上げると、チュッと音をさせてその猫にキス一つ。

「まぁ、こう言う意味だ」

!!』

 突然の俺の行動に、文句を言うように『昼』が名前を呼んでくる。

「……、そう言う趣味なの?」

「……動物にキスなんて普通だろう?それに、俺は『昼』の事をちゃんと愛しているからなvv」

 半分冗談でそう言えば、星馬が呆れたように盛大なため息をついた。

「『昼』って、実は、苦労してるんだね……」

「はぁ?どう言う意味だよ!」

 ポツリと呟かれた言葉の意味が分からず、思わず問い掛ける。それに、星馬がもう一度、盛大なため息をついた。

、オレ意外の動物にもこんな事しているのか?!』

「ああ?昔は良くしていたけど、最近は『昼』だけだなぁ……」

 意味が分からずに首を傾げている俺に、『昼』が慌てた様子で質問してくる。何で、そんなに慌てているのか分からないけど、俺はあっさりと言葉を返す。
 って、『昼』って、動物……一応猫だけど…違うような気が……ああ、でも人間も一応動物か?でも、使い魔って、人間でも動物でもないような…。

、むやみやたらとキスしない方が良いと思うよ。嫉妬深い飼い猫が、とんでもない行動するかもね」

「はぁ?」

 訳分からない星馬の言葉に、俺はただ首を傾げる。
 いや、だって、嫉妬深い飼い猫って…もしかしなくっても、『昼』の事だよな?
 結局、キスの話しから、良く分からない内容で、打ち切られてしまった。
 ところで、星馬はなんで、あんな質問したんだったけ?

 訳、分からないぞ……。