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「、聞いてもいいかな……」
二人だけ、残された生徒会室。何時もはしっかりと留められているボタンが、誰も居なくなった事で外された瞬間見えたそれ。
「ああ?なんだよ」
少しだけ不機嫌そうに返されたのは、の声。
どうやら、暑いのは苦手らしい。
今、生徒会室のクーラーが壊れているため、使えない状態である。
なので、仕方なく窓を開けているだけの教室は、とにかく暑い。
そんな状態だから、二人だけになった教室では、制服を着崩すなんて事をしない優等生のでさえも、我慢が出来ずにシャツのボタンを外してしまっている。
そして、その瞬間見えたそれに、ボクは思わず恐る恐るに声を掛けた。その声は、不機嫌だけど、ちゃんと質問に答えてくれる気があるらしい返事。
「えっと、その痣跡って……」
別にの首にキスマークが付いていても、驚きはしなかったと思う。
本当のを知っているだけに、そう思うんだけど……。
だけど、の首に付いているのは、そんな可愛いモノじゃなく、どう見ても誰かに首を絞められたような跡が、くっきり……。
「ああ?…ああ、これか?何時もの事だから、気にすんなって!」
ボクが指差したモノに手を触れてから、納得したように、が頷いて返して来た言葉。
いや、気にするなって、普通は、どう考えても気になると思うんだけど……。
だって、それはどう見ても、を殺そうとした跡なのだ。
普通、そんなモノを見せられたら、心配するなという方が、無理な話しだと思うけどね。
「『昼』は、知っているの?」
「おう、知ってるぞ。何せ、これ残した奴は、『昼』に木っ端微塵にされちまったからな」
だから、心配して尋ねた言葉に返されたのは、あっさりとした言葉。
本当に、何でもない事のように言われたそれに、ボクは、拍子抜けした。
「えっ?木っ端微塵って、もしかして、それ付けたのって、あれ系??」
「他に何が跡つけるんだ。俺は、生きている奴にそんな事は、させねぇぞ」
ボクが驚いて問い掛けたそれに、が呆れたように言葉を返してくる。
でもね、死んでいる奴にだって、大人しくさせてどうするの!下手したら死ぬんだよ、普通……。
「俺的には、慣れてるしな、落ち着いてから話聞いてやろうと思ったんだけど、俺が首絞められてんの見て、『昼』がキレた。そんで、止める間もなく木っ端微塵……慣れてるから、気にしても仕方ねぇのにな」
「……そう言う問題じゃないよ……ボク的には、『昼』の気持ちの方が分かるんだけど……」
どうして、自分に関してはこんなにも無関心……って、言うか無頓着なんだろう。
『昼』も、大変な奴を主人に持ったのかも知れないね。
「そうか?でもなぁ……首絞めるのなんて、可愛いもんだぜ。階段や崖、車道に電車に川。こんな場所で背中押されるのは日常だったし。後は、ナイフに花瓶に鉄骨、看板なんかが頭上から落ちてくる事も、当たり前だったな」
サラッと説明された事に、思わず絶句してしまう。
って言うか、普通、そんな事をサラッと何事も無いように話すのは、どうかと思うんだけど……。
「……良く、生きていたね」
複雑な気持ちを隠せないまま、それだけを返す。
「おう、『昼』が来てからは、無くなっちまったけど、スリルのある人生送れてんぜ」
「……自慢にならないんだけど……」
精一杯のボクの言葉を、あっさりと肯定して、得意気に言われたそれに、ただ盛大にため息をついてしまう。
払い屋と言う仕事が、どれだけ大変な事なのか、ボクには分からない。
子供の頃から、当たり前のように人間で無い存在と接していた、。
ボクと同じ力を持ち、それを当然のように仕事にしている一族の時期当主候補。
子供の頃のボクは、本当に怖がりで、自分の力を否定しつづけていた。
人には見えないモノが見る事を、嫌悪していた自分。
だけど、目の前の相手は、自分以上に、人の心を操れると言う瞳まで持っている。
それなのに、当然のようにその力を受け入れているのだ。
そして、自分よりも人と言うモノを、どんな時にも大切にしている。
それは、人として存在しなくなったモノにも、同じように……。
「……それで、今日はずっと『昼』の気配を感じるんだね」
「ああ、隠れているつもりだろうけど、バレバレ。……暑いし、アイスティーでも入れるか?」
そんな相手だからこそ、あの捻くれた猫も、彼を認めているのだろう。
今日一日感じられた気配に、思わず呟いたそれを、が笑みで返してくる。
「『昼』居るんだろう?ほら、飲み物。今日は、暑いからな」
空間へと話しかけるを見ながら、ボクは先に渡されたアイスティーに口付けた。
たっぷりと入れられた氷に冷やされた紅茶が、乾いた喉を潤していく。
「飲まないのなら、『夜』にやっちまうぞ」
中々姿を見せない相手に、が意地悪そうに、もう一度声を掛ける。嬉しそうに言われた言葉に、ボクは思わず苦笑を零した。
だって、『夜』はここには居ない。
それって、『昼』が出て来ない時は、間違いなく『夜』を呼ぶ事になるだろう。
もっとも、独占良くの強い『昼』が、そんな事を言われて黙っている訳がない事は、知っているけど……。
『………分かっているくせに……』
そして、予想通り、『夜』の名前を出された瞬間に、一匹の猫が空間から姿を現した。
「分かっているから、言ってんだよ。ほら」
現れた猫に、が優しい笑みを浮かべてそう言うと、手を差し出す。
その腕に、『昼』が素直にその体を預けた。そう言う所を見ると、普通の猫と何も変わらない。
「あっ!やっぱお前って、冷たくって気持ち良いvv」
自分の腕に大人しく抱かれた猫を、が嬉しそうに抱き締める。
「……??」
余りに突然の事に、ボクは思わず意味が分からなくって、首を傾げてしまった。
だって、ボクの知っている限り、『夜』は猫の体温と同じで、冷たいと感じた事は一度だって無いから……。
「こいつって、夏は冷たく冬は暖かで、超お徳なんだよなvv」
『オレは、冷房器具じゃないぞ!』
嬉しそうに『昼』を抱き締めているに、ボクはただ見守る事しか出来ない。
『昼』はそんなに文句を言いながらも、大人しくその腕に抱かれている。
「知ってるんだぞ、お前が俺の為に、夏と冬ちゃんと体温調節してんの」
「えっ?」
そして、優しい微笑と共に言われた言葉に、ボクは驚いて思わず声を上げてしまった。
「俺って、愛されてるよな」
ニコニコと言われた言葉に、納得してしまう。
ああ、本当に、『昼』は、の事を大切に思っているんだと、改めて認めさせられる。
「本当、良いコンビだよ、君達は……」
素直じゃない猫の気持ちを一番わかってあげられるのは、きっとだけしか居ないだろう。
『昼』の主人になれるのは、彼しか居ないと言う事。
そう、素直じゃない相手の気持ちを分かってあげられる者だからこそ、主人になれたのだ。
「『昼』の首の奴、さっさと消しちゃってよ。目障りだからね」
『お前に言われるまでも無い!さっさと消してやる!!』
「って、おい!!」
言うが早いか、そのままの首に手を掛ける。
それと同時に、の首に言ったその痣跡が消えてしまう。
「俺は、別に気にしねぇのに……」
消されてしまったそれに、ポツリと呟かれた言葉。
それを無視して、猫と二人で目線を合わせる。
初めて認めた相手だからこそ、誰かに傷付けさせることなんて、許さない。
だからこそ、そんなモノを見せられて、気分が良い筈もない。
「本当、って、やっぱり鈍いよね……」
「はぁ?」
何で、『昼』が怒ったのか、きっと彼は分かっていないだろう。
そして、これからも、彼には、分からない事だろうから……。
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