薄暗くなりかけたな空を見上げてため息一つ。

 何が悲しくって、自分が生まれた日にこんな寒空の中仕事してるんだろう、自分は……。

 そんな事を思って再度重い息を吐き出した。



 名前を呼ばれて、顔を上げる。

「見付けたのか?」

 スッと暗闇から現れた真っ白な猫に、問い掛ける。

『ああ、性質の悪い奴に付いて行ってるみたいだぞ』

「あ〜っ、最悪なパターンだな」

 言われた言葉に俺は頭を抱え込んだ。
 今日の仕事は簡単なモノだからと、ばーちゃんから言われたにも拘わらず、仕事場に来たら、そのターゲットが居なかったのだ。
 いや、自縛霊って聞いてたのに、何で居ないんだよって思っても、そいつを払うのが仕事だから、ターゲットを探して寒空の下何時間も歩き回っていれば、漸くそれらしいモノを見付けたらしい『昼』からの言葉に、どっと疲れを感じてしまった。
 自縛霊、一般的にはその場を離れられない霊なのはずなのに、時々、本当に殆ど皆無といってもいいほどの確立しか無いケースなのだが、波長の合った奴に付いて行っちまう場合がある。
 何度も言うようだけど、本当に少ないケースなのだが…。

「こんな時に、そんな希少な状態起こしてんじゃねぇよ!」

 だから、これぐらいの文句を言っても許されるだろう。
 『昼』に案内を頼んで、ターゲットのいる方へと走り出す。これで、漸く仕事が終わると、喜んだのは言うまでもない。
 その時、俺のポケットで着信を告げる音が鳴る。
 殆ど誰も知らない俺の携帯の番号を知っているのは、ばーちゃんともう一人。

『どうした?』

 またばーちゃんから次の仕事かと思って、携帯を取り出して中を確認した俺は、思わず笑ってしまう。
 そんな俺に気付いて、『昼』が不思議そうに問い掛けてくる。

「んっ、何でもねぇよ……さっさと、仕事終わらせるか!」

 携帯をまたポケットに入れて、もう一度笑ってしまった。
 送られてきたのは、一通のメール。


『誕生日の
 どーせ今日も仕事してるんだろうけど、7時までには必ず家に来るように!
                                星馬 烈』




―オマケ―

 マジで、疲れました。
 一件しか仕事してないはずなのに、何で俺はこんなに疲れてるんだろう?
 いや、理由は分かってるけど、本気で今日を振り返って泣きたくなってしまうのは許して欲しい。
 一生懸命仕事したのに、仕事の終了連絡した時『一つの仕事にそんなに時間を掛けてどうするだい!』と、ばーちゃんには呆れられました。
 だって、今回は仕方ないと思うのだ。
 うん、誰か俺に同情してください、本気で!

「7時過ぎちまった……」

『約束でもしていたのか?』

 携帯の時計で時間を確認してため息をつく。
 ああ、肩に居る『昼』の体温が心に染みるんだけど……。

「まぁ、約束って訳じゃねぇけど、メール着てた」

『なら、先に言え!馬鹿!!』

 言った瞬間、感じる浮遊感。ああ、移動能力使っちまった……。

「んっ、だって、今日は『昼』も頑張ってくれたのに、そんな事に力使ってもらうのはなぁと……」

『コレぐらいは、問題ない』

 気付いたら星馬の家の前。
 『昼』が力遣ってくれたお陰で、10分の遅刻で済みました。

「サンキュ、『昼』」

 素直じゃない猫に心からの感謝の気持ちを込めて、その頭を優しく撫でてやる。
 本当に、俺には勿体ないぐらい優秀な相棒になってくれたよなぁなんて、心の中で思いながら……。

「遅いよ!」

 だけど、感動していた俺の耳に、怒ったような声が聞えてきて、思わず苦笑を零してしまう。
 いや、確かに遅刻してしまったのは事実だけど、こっちにはこっちの事情と言うモノがある訳で……。

「悪かったな。今仕事が終わったんだよ」

 玄関の前で仁王立ちしている相手に、素直に謝罪する。
 まぁ、言い訳のようだけど、これは本当の事だから……。

「今終わったって、今日の仕事は一軒だけじゃなかったっけ?」

 俺が言ったその言葉に、星馬が何で知っているのか分からないその事情を不思議そうに口にする。

「……なんで、お前が知ってるんだよ!」

「だって、君のお婆さんから聞いてたからね」

 疑問に思ったそれを口にすれば、あっさりと種明かし。
 いや、ばーちゃん、マジで一般人にそんな内容話すのはやめて下さい。
 確かに、目の前の相手は一般人と言えないような相手かもしれないんだけど、うん、一応俺たちの仕事って極秘のはずなんですけど……。

「何か、トドメ刺された気分…」

『まぁ、あのばーさんが相手だからな、仕方ないだろう……おい、今回は確かに仕事は一軒だったが、最悪の事態だったんだ、許してやれ』

 クラクラする頭を必死で慰めた俺に、『昼』がサラリと返してくれて、更にフォローまでしてくれたよ!本気で出来た相棒だ。

「そうなの?分かった、それじゃ、今回は『昼』に免じて許してあげるよ」

 『昼』の言葉で、星馬が高飛車な態度で許してくれた。

「って!俺に同情の言葉はないのかよ!」

「ある訳ないでしょ、それが君の仕事なんだから」

 うっ、うっ、何で俺、こいつと友達やってるんだろう……いや、うん、そう言うこいつは嫌いじゃないんだけど……。

「もういいよ……」

 何を言っても無駄だと思ってため息をつく。

「冗談だよ。仕事お疲れさん」

 諦めてため息をついた俺に、打って変わって星馬が労いの言葉をくれる。

「えっと]

 突然言われたその言葉になんと返していいのか分からず言い淀んでしまう。
 だって、あの星馬が労いの言葉だぞ、何て言えばいいんだよ!

「それから、誕生日おめでとう、

 言葉に困っている俺に、星馬が続けて口を開く。
 その言われた言葉に、俺はただ笑って返した。

「ほら、何時までそこに突っ立てるつもり、中に入るよ」

 そんな俺に、星馬が少しだけ照れたように中に入るように促される。
 いや、正直体が冷え切ってるから、温かいところに入りたいのが正直な処だけど…。

「ああ、有難うな、星馬……」

「まぁ、僕としても親友と呼べるような君の生まれた日ぐらい祝ってあげたいからね」

 素直に礼を言った俺に、星馬が偉そうに返してくれた。
 そうか、星馬と俺って、親友だったんだ、初めて知った事実だぞ。


 今年も、また祝ってもらった俺の生まれた日。
 来年も、一緒に祝えるんだろうか……いや、きっと祝われるんだろう、それは確信。
 なら、俺もこいつが生まれた日を祝ってやろう。俺が祝えるだけ……。

 それは、約束。

 口に出さないけど、当然のように続くだろう。
 この関係が続くまでは……。