確かに、言ったかもしれない。
だからって、本当に即行で終わらせる事はないと思うんだが、いかがなものでしょう、『昼』さん。


星馬達と別れて、急いでクライアントとの待ち合わせ場所に向かった俺は、今までの中で最短時間で依頼を終わらせる事になった。
しかも、終わって挨拶もそこそこに、星馬との待ち合わせ場所になっている喫茶店へと来ている俺は、どうなんだろう。

と言うよりも、今日の仕事は、俺何もしていないと言ってもいい。
『昼』が一人で全部終わらせちゃったんだよな。
問答無用で……

「いらっしゃい、お客さんが待ってるよ」

カランと言う音と共にドアを開けば、店のマスターの声が聞こえてくる。
しかも、しっかりと俺だと分かっていたようで、笑顔で言われた言葉に視線を店内へと向ければ、当然俺の事を待っている二人の姿がある訳で……

「待たせて悪かったな」

ツカツカとそのテーブルへと向かって、素直に謝罪する。

「遅れてきたのはこっちが先だからね、気にしてないよ。『昼』が約束を守ってくれたみたいだしね」

謝罪した俺に対して、星馬はまったく気にした様子もなく笑顔で返してきた。
確かに、待たせたと言っても、30分位だ。
それは、俺が星馬を待っていた時間よりも短い。

「兎に角座りなよ」

そして、笑顔で言われたその言葉に、俺は小さくため息をついて迷わず星馬の隣に座った。

「こっちに座るんだ」

星馬の隣に座れば、ちょっと驚いたように呟かれた言葉にもう一度ため息をつく。

「こっちの方が無難だろう」

それに当たり障りなく呟いて、マスターに自分と『昼』の分の注文を伝える。
俺は、アイスティーで『昼』はアイスコーヒー。
今の季節なら、ホットでもいいかもしれないけど、急いで来たのでちょっと暑いんだよな。

「無難ねぇ……」

俺の呟きに、納得できないのか確認するように返されたそれは完全無視の方向で
だって、星馬の方が小さいから必然的にこっちに座った方がスペースが確保できるからな。

「そんな事よりも、俺としては何で星馬とブレットが一緒に居るのかが知りたんだけどな」
「それは、僕も同じだよ。何でブレットとが知り合いな訳?」

星馬の呟きを無視して、俺が確認するように口を開けば、同じように星馬から似たような質問が返される。

「オレとレツは、ミニ四駆のWGPでの知り合いだ」
「WGP?」
、まさか知らないとか言わないよね?」
「……知らない訳じゃないんだが、WGPって、世界グランプリって事だよなぁ?ミニ四駆の世界グランプリなんてあったのか?!」

俺の質問に対して、黙って話を聞いていたブレットが説明してくれる。
だが、言われた言葉の意味が分からず首そ傾げれば、呆れたように星馬が質問してきた事に対して、俺は驚いたように声を上げた。

「……は、知らなかったんだ。僕達が栄えあるWGPの第一回優勝チームなんだけど……」
「知る訳ないだろう。もうその頃から俺は、ばーちゃんの手伝いをしてたからテレビとか見てなかったし、クラスの奴とも話した事もねぇんだからな」
「……あんなに騒がれてたのに、知らない奴が居たなんて……」
「ああ、だから、オレの事も知らなかったのか?」
「いや、普通初めて会った奴の事なんて、知らないだろう!」

信じられないと呟かれる言葉に返せば、呆れたようにブレットが質問してくる。
それに、当然だろうと返せば、盛大なため息をつかれてしまった。

って、この場合、俺が悪いんじゃないよな?
イタイケナ小学生にまで、仕事を手伝わせていたばーちゃんが全部悪い!

『基本、は興味がない事には、関心を持たないからな』

心の中でばーちゃんに全ての原因を押し付けていた俺に、『昼』が呆れたように口を開く。
って、折角ばーちゃんの所為にしてたのに、しっかりバッチリ自分が悪いと言われてしまった。

「確かにね。は、自分の興味の無い事には、基本無関心だよね」

そして、『昼』のその言葉に星馬も同意。
ああ、はいはい、俺が全部悪いんだな。

「悪かったな。意思表示がハッキリしてるんだよ」
「そのお陰で、オレはと普通に話が出来たのかもしれないがな」

星馬にまで言われてしまって、拗ねた様に返せば、ブレットが笑いながらフォローをくれた。

「確かに、ミーハーな奴を相手にはしたくなかったからね」

それに、素直に星馬が頷く。
有名人になった事は無いから分からないが、そういうモンなのだろうか?

「お待たせ、アイスコーヒーとアイスティーだよ」
「サンキューマスター」
「ゆっくりしていきなさい」

疑問に思っていれば、マスターが俺の注文品を持ってきてくれる。
それに礼を言って受け取れば、ポンポンと頭を撫でてから、何時もの言葉をくれた。

マスターは、何時まで経っても俺の事を子ども扱いするんだよなぁ。

『昼』の前にアイスコーヒーを置いて、自分はアイスティーを貰う。
ああ、喉が渇いていたから、生き返る。

俺がアイスティーを飲む間、何故か二人からの視線が痛い。

「何だよ?」
「いや、まだとブレットがどうして知り合いなのか聞いてないなぁと」
「オレは、久し振りに会ったの観察だな」

二人からの視線を受けて、疑問に思い問い掛ければ、星馬からは納得できるような言葉が返ってきたんだけど、ブレット、何だよ俺の観察って……

「俺とブレットは、たまたま公園で知り合って意気投合しただけの友人だ」
「へぇ、ブレットとねぇ……」
「そう、偶々仕事で夜遅くに帰った公園で空を見上げてたこいつに会ったんだよ」

ブレットの言葉を聞き流して、俺はすんなりとブレットとの関係を口に出す。
俺の言葉に、星馬は何処か感心したように相槌を返してきた。
それに、頷きあの時の事を考える。
大体、小学生が夜遅くに帰るとか、どうなんだよ!

「んで、余りにも怪しかったから声を掛けたら、星を見てるって聞いて一緒に見たのが始まりだな」
「怪しかったのか?」
「まぁ、暗闇の中ボーっと空を見てる奴が居たら十分怪しいだろう」

心の中でばーちゃんに文句を言ってから、その時の事を話した俺に、ブレットが複雑な表情をして問い掛けてくるのに、しっかりと頷いて返す。
その時年齢を聞いた俺の衝撃と言えば、だって、こいつはどう見ても小学生には見えなかったんだからな。
何か、国境の違いは、こんな所に現れるのか?!

「いや、怪しかったら、普通は素通りすると思うんだけど……」
「そう言うけどな、暗闇にボンヤリしてる奴なんて、霊にとっちゃいいカモだからな。仕事が増えるのが面倒なんだよ」

俺の説明に、星馬が呆れたように口を開くけど、俺にとっては重要なとこなんだよ。
それで、霊に憑かれようものなら、俺の仕事が確実に増える。

「その頃から、そんなに仕事してたんだ」
「ばーちゃんは、容赦ないからな」

切実に訴えた俺に、星馬が複雑な表情で呟く。
小学生だろうがなんだろうが、ばーちゃんは問答無用で使える者は容赦なく使うぞ。
そのお陰で、俺のようないたいけな子供が出来上がっちまうんだ。

「まぁ、君のお祖母さんらしいね。でも、知らなかったな」
「あん?」

昔を思い出して、遠い目をしていた俺に、星馬苦笑を零してから、呟かれたその言葉に問い返す。

って、星とかに興味があったんだ」

聞き返した俺に、星馬が感心したように呟くその言葉に、思わず首を傾げてしまった。
そして、一瞬考えてから納得する。

ああ、そう言えば、ブレットは宇宙飛行士を目指してたんだったな。
それを考えれば、話が合ったと言えば、イコールで俺も星が好きと言う事になるのだろう。

「まぁ、人並みだけどな」
「あれが人並なのか?普通の一般人が知らないような事でも、話てただろう」

納得して頷いた俺に、ブレットが不満気な顔をして返してくる。
いや、人並みだろう。

まぁ、星は確かに嫌いじゃないから、星座なんかは何となく分かるけど

「俺の特技なんだよ。一度目を通したものは、何となく頭に残るんだ」
「羨ましい頭脳だよね」

だから、無駄に知識は豊富だろう。
もっとも、知識として知っているだけなんだけどな。

「まぁ、こればっかりは特技だからな、そう言われても困る。んでだ、いい加減本題に入りたいんだが、なんで日本にブレットが居るんだ?」
「久し振りの休暇が手に入ったからな、旧友に会いに来たんだ。ちょうど誕生日だった事も覚えていたからな」
「そこで、僕がこれから君に会う事を言ったら、もしかしたら知ってる奴かもしれないって言うんで、連れてきたんだよ」

羨ましいと言う星馬にため息をついて返してから、俺は顔を上げてブレットを見た。
俺の質問に、ブレットが素直に返事を返してくる。
それに続いて、星馬が補足するのを聞いて、納得。

「久し振りの休暇に日本に来るのもどうかと思うが、そう言う事かよ……でも、良く俺の事なんて覚えてたな」
「いや、は、印象深かったからな、忘れろと言われても忘れられないだろう」

二人の説明を聞いて、もう一度ため息をついてから、感心したようにブレットを見れば、苦笑で返されてしまった。
いや、俺なんて、何処にでも居る影の薄い人間だと思うぞ。
しかも、会ったのは2・3回、印象に残るとは思えないんだが……

「君、自分の容姿をもうちょっと自覚した方がいいと思うよ」

ブレットの言葉に首を傾げた俺に、星馬が呆れたように返してくる。
いやいや、確かにまぁ、認めたくはないが、女顔と言う自覚は持っているが、そんなに珍しい顔じゃねぇと思うんだけど

にそれを求めるのは難しいぞ』

呆れたように言われたその言葉に分からないというような表情をした俺に、『昼』までもがため息を付いて返してくる。

「俺は、目の色が変わってるだけで、何処にでもある顔だろう?」
「確かに、目の色も印象深いが、それだけじゃないな。の印象と言うのは、きっと一度見れば中々忘れられないと思うが…」

『昼』の言葉に否定するように返したら、複雑な表情でブレットに返された。
いやいや、ブレットのように男前でもないし、星馬のように可愛い顔をしている訳じゃないんだから、俺は何処にでもある顔だろう。

「うん、が自覚してないのは知ってたけど、ここまで無自覚だったとはね……『昼』、ちゃんとフォローしてあげなよ」
『言われなくても、オレが変なモノを寄せ付ける訳ないだろう』

訳が分からなくて、首を傾げた俺に、星馬が『昼』に念を推す。
本気で、訳が分からない。

「まぁ、その話はしても無駄だと分かったから本題に入るけど、はもう仕事終わったんだよね?」
「ああ、今日は『昼』が即行で終わらせてくれたからな」

本気で分かってない俺に、星馬がその話を打ち切って、質問してくる。
それに対して、俺も素直に返事を返した。

「なら、これから僕の家に移動。ブレットは、家に泊まるの決定してるし、も泊まりね」

そんな俺に、決定事項と言わんばかりに伝えられた内容に、思考が付いていかない。

「いやいや、泊まりねって、俺は聞いてないから!」
「今言ったんだから、知らないのは当たり前だろう。母さん達も、に会えるの楽しみにしてるんだからね」

ニコニコと言われるその言葉は、本気で拒否権は受け取られないと伝えてきている。
ああ、それが分かる程に、俺はこいつと長い付き合いになると言う事なのだろうか?

「分かった、ばーちゃんに連絡入れとく」
「察しが良くて、助かるよ」

ため息をついて諦めたように言えば、楽しそうに返された。
ばーちゃんに連絡を入れれば、今日はもうこれ以上仕事を入れられる事はない。
こいつは、ばーちゃんに気に入られてるからな。

久し振りの再会は、何故かお泊り会へと発展してしまった。
まぁ、こいつ等と話をするのは嫌いじゃないから、いいんだけどな。

しかも、今日はこいつの生まれた日だから、たまには我侭も聞いてやるか……。
まぁ、こいつのは我侭は、何時もの事かもしれないけどな。