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部屋で本を読んでいたボクは、その気配を感じて、顔を上げた。
『おい、ケーキを届けてやったぞ』
それと同時に姿を見せたのは、良く見知った白い猫の姿。
「は一緒に来てるんだよね?」
『ああ、今外に居る』
言われた言葉に、読んでいた本を閉じて質問すれば当然のように返される言葉。
まぁ、こいつが一人でケーキを届けるなんて思っていないから、返されたそれは予想通りのもの。
「だったら、お願いしていいかな?呼び鈴押して来てくれる?」
『いや、はそのままケーキを玄関先に置いて帰るみたいだったぞ』
「『昼』!直ぐに呼び鈴押してきて!!」
ボクの言葉に、否定するように返されたそれに速攻でお願いする。
言われた言葉の意味が分からないみたいだけど、ボクの迫力に押されたのだろう『昼』が慌てて飛び出していった。
その後、直ぐに家の中に響く音。
どうやら、言われた通り呼び鈴を押したようだ。
そうすれば、後はこっちのもの。
「母さんがを家に招きいれるだろうから、計画通りだね」
「兄貴、副会長来たってさ」
満足気に笑った瞬間に、聞こえてきたのは弟の声。
それにもう一度笑って、まんまとボクの作戦にかかってくれた友人に挨拶する為に部屋から出る。
向かった先はリビング。
中に入れば、母さんに飲み物を渡されているの姿があった。
「烈も来たみたいだから、ゆっくりしていって頂戴ね」
ボクの姿を見た母さんがニコニコとした嬉しそうな笑顔を見せて、しっかりとに声を掛けてキッチンへと戻っていく。
今日はボクの誕生日だから、朝からご馳走を作っているのを知っているから止める事はしない。
「なんで、こんな事になってんだ?」
母さんがキッチンに消えた瞬間に、不機嫌な声がボクに質問を投げかけてきた。
「君が何も言わずに帰ろうとするからかな?」
そんな不機嫌な相手にニッコリと笑顔を見せて言えば、更に眉間に皺が寄る。
まぁ、『昼』を使ってまで君をここに留めさせているんだから、不機嫌なのは仕方ないだろう。
「しかも、お前んところのお袋さん夕飯食べてけって、聞かないし……」
そんなボクに、は盛大なため息をついて不満を口にした。
そりゃ、そうなるように仕向けたんだから、当然だろう。
「ボクがそう言っておいたからね。君が来るって事も母さんには話しておいたんだよ」
「いやいや、迷惑だから!」
不機嫌に紡がれるそれに、ニコニコと笑みを浮かべながら当然のように返せば、突っ込むように君が声を上げる。
君にとっては確かに迷惑な話だろう。
人見知りが激しいと言うよりも、何処か他人と距離を置きたがる事を知っているからこそ余計に
でもね、ボクの両親なんだから、そんなに警戒しなくっても大丈夫だと思うんだけど
「副会長、兄貴の作戦にまんまと嵌っちまったみたいだな」
「星馬弟!オレはもう副会長じゃないと何度言えば分かるんだ?」
ただ楽しそうに笑っているボクに諦めたのか盛大なため息をがついた瞬間、聞こえてきたのは豪の声。
それにが、不機嫌な声で突っ込みを入れる。
こいつには何度言っても無駄だと思うんだけど
「まぁ、細かい事は気にすんなって!母ちゃんの飯結構旨い方だから、食っていけよ」
「……結構旨い方って……微妙な褒め方だな」
「確かに微妙だけど、嘘じゃないから今日はゆっくりしていきなよ。君のおばあさんにはボクから話してあるからね」
「……ばーちゃんも共犯かよ……」
ニッコリと笑顔で言えば、当然のように今の状況を理解したが不機嫌そうに呟く。
まぁ、可愛い孫の唯一の友人であるボクからのお願いだから、無碍に出来ないんだろうね。
あのおばあさん、本当にの事が可愛くて仕方ないみたいだし
「『昼』も、協力してくれて有難う」
「……そう言えば、『昼』の奴脅しただろう、かなり慌ててたぞ」
「脅すなんて心外だね。ちょっとお願いしただけだよ」
そして、思い出したようにの膝に居る『昼』へと礼を言えば、呆れたようにため息をつきながら言われる内容。
それに対して、ボクはただニコニコと笑顔で返事を返した。
そんなボクの笑みを前に、が盛大なため息をつく。
失礼な態度だね、本気で
「まぁ、いい……星馬」
「んっ?」
だけどそれは直ぐに諦めたのか、再度ため息をついたがボクを呼ぶその声で聞き返す。
「誕生日おめでとう」
聞き返したボクに返されたのは、お祝いの言葉だった。
ああ、そう言えばまだ口では言われてなかったね、メールでは貰ってたんだけど
「有難う、」
お祝いの言葉をくれたに対して、今度は素直に笑顔で礼の言葉を返す。
毎年祝ってくれるかる、友人に感謝の気持ちを込めて
「さぁさぁ、準備できたわよ」
その時タイミング良く母さんが声を掛けてきた。
「いっぱい食べて頂戴ね」
そして運ばれてくるのは、沢山の料理。
って、幾らなんでも作りすぎだと思うんだけど、母さん……。
「あっ、有難う、ございます」
だけど、そんな母さんの言葉に、が何処か緊張したような表情でお礼の言葉を口にする。
そう言えば、母親の愛情を知らずに育ってきたのだと言ってたっけ
こいつの事を認めているのは、の当主であるおばあさんだけだと
だからボクは、にボク達の母親を逢わせたかったのだ。
少しでも親の愛情を知ってもらいたかったから
「遠慮しないで頂戴ね。結構旨い方の料理で申し訳ないんだけど」
「って、母ちゃん聞いてたのかよ!」
ニコニコとしながら言われる言葉に、豪が慌てる。
まぁ、ここで言ってる声はキッチンにも聞こえるだろう事は予想済みだ。
「何時も、烈から話を聞いててね、一度会ってみたかったのよ。これからも、ウチで良ければ何時でも来て頂戴ね」
そして、当然のように言われる母さんの言葉。
ねぇ、ボクの誕生日だけど、ボクからのプレゼントを受け取って欲しいって言うのは迷惑な事かな?
「君が、君かい?何時も烈達が世話になっているそうだね」
「えっ、いえ」
そして、夕飯だと言うことで父さんも部屋に入ってくれば、更に賑やかになる。
ボクの誕生日だという事で、張り切って料理を準備してくれた母さん。
仕事を早く終わらせて、戻って来たくれた父さん。
コレが一般家庭だって事を、知ってもらいたい。
そして、少しでも君が楽しんでくれれば……
「……お節介………っても、お前の両親を自慢されたようなもんだな」
ボソリと言われた言葉に、顔を上げる。
そこには、何処か照れたようなの表情。
言われた言葉は、ボクが考えていた事が分かっているようなモノ……
ああ、君にはやっぱり隠し事は通じないんだね。
「まぁ、ボクの誕生日を楽しんでもらいたかったのは本当かな……を親に紹介したかったって言うのも否定しないけどね」
ニッコリと笑顔で言ったボクの言葉に、が何処か困ったように笑う。
ボクが初めて認めた相手だからこそ、紹介したかったんだと言うことは否定しない。
こいつにはばれちゃうけど、また今度誰かに自慢したいって言ったら、迷惑な話かな?
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