「兄貴、ここにある封筒って、忘れ物じゃねぇの?」

 机の上に、置き去りにされている茶封筒。
 普通、こう言った封筒の中には、大事な書類なんかが入っているんだよな。

「ああ?」

 生徒会長として、仕事をしていた兄貴が、俺の声で顔を上げる。
 この生徒会室、本当は一般生徒は入れないんだけど、俺は特別って事で良くお邪魔しているんだよな。
 副会長がお茶入れてくれるんだけど、これがまた美味い。

 兄貴も紅茶入れるの美味いけど、副会長は喫茶店でも開けるくらいの腕前。しかも、この部屋の中には、副会長の私物が山ほどある。紅茶専門店並みの茶葉に、感心するしかない。

「どれだ?」

 思わず考え込んでいた俺に、兄貴が席を立って近付いてくる。それに、俺は机の上に置き去りにされた封筒を手に取った。

「これ」

 差し出された封筒を見て、兄貴が不思議そうな表情をする。

「この席は、が使っているけど……中、見ても良いのかな?」

「俺に、聞くな」

 俺から封筒を受け取った兄貴が、困ったように尋ねた事に、俺は小さくため息をついて返す。
 いや、その前に俺が知っている方が可笑しいだろう。

「んっ、それじゃ『夜』呼んで、の所までお使いさせてみようか」

 そんな事に、使われる『夜』も気の毒だよなぁ……。ああ、でも、必要なものだったら、困っているかもしれないし、連絡した方がいいのか?

『呼んだか?』

 言うが早いか、もう既に『夜』が姿を表す。本当、何時も思うけど、行動が早いよなぁ……。

「悪いけど、の所へ行って、これについて聞いてきてもらえる?」

『中は、何だ?』

 姿を見せた『夜』に、兄貴が手に持った茶封筒を見せる。それに、『夜』は、首を傾げた。
 確かに、中身が分からなければ、説明の仕様が無いよな。

「う〜ん、分からないから、生徒会室の机の上に茶封筒があるって言えば分かると思うよ」

『分かった。それを、届ける訳じゃないんだな?』

「うん、聞くだけでいいよ」

 言われるままに、『夜』の姿が、また消える。

 最近は、本当に素直になったよな。昔は、あんなに憎たらしい奴だったのに……。
 副会長が連れている奴よりは、何倍も可愛い。

「じゃ、すぐに戻ってくるだろうから、ボクは仕事に戻る。お前も、用事が無いなら、早く帰れよ」

 そう言って席に戻る兄貴を見送って、盛大にため息。
 俺がここに居るのは、副会長に頼まれたから。
 今日は、仕事があるとかで、こっちに来られない時なんかは、良くここに呼ばれる。

 凄い過保護だよな、副会長って、絶対に兄貴を一人で生徒会室に残す事はしないんだからな。
 自分が用事がある時は、絶対に俺が、呼ばれるのだ。

『聞いて来たぞ』

 考え事をしていた俺の耳に、『夜』の声が、聞こえる。

「お帰り。、なんだって?」

『分からないと言っていたぞ』

「はぁ?」

 兄貴の質問に、きっぱりと『夜』が答えた。それに、兄貴が、意味がわからないと言うように聞き返す。

『だから、身に覚えが無いそうだ』

『許可は貰っている、お前、開けて中を確認しろ』

「って、『昼』居たの?」

 『夜』に続いて、福会長が連れている白猫が、姿を表した。それに、兄貴が意外そうに、返す。

から、言われたからだ。身に覚えが無いから、中を確認して、大事なモノなら、オレが持っていく』

「了解」

 『昼』に言われて、兄貴が茶封筒の中を確認する。

「ああ、これか」

 そして、中を見た瞬間、兄貴が納得したように頷いた。

「中、何だったんだ?」

「いや、大したモノじゃないんだけど……女子副会長が置いていったものだよ。急ぎじゃないから忘れてた」

『で、なんなんだ?』

「うん、アンケート調査。集計は、書記がやる事になってるんだけど、何での机にあったのかな?」

『さぁな、では、大した事は無かったと伝えておくぞ』

「うん、仕事中にごめんって、伝えておいてくれ」

『今は、移動中だ、気にするな』

 兄貴の言葉に、サラリと言葉が返される。ああ、何か、副会長の所に行って、性格丸くなってないか、こいつも……。
 久しぶりに会った白猫は、あんなに憎たらしかったのに、少しだけ可愛く見えた。

「さて、謎も解決したし、仕事仕事」

 猫の姿が見えなくなって、兄貴が手を動かし始める。

『ゴウ、どうかしたのか?』

 ボンヤリと、そんな兄貴を見詰めていた俺に、『夜』が、不思議そうに声を掛けてきた。

「いんや、何か、茶封筒で、得した気分だよな」

『はぁ?お前、頭大丈夫なのか??』

 だから、素直に、感じた事を言えば、思いっきり馬鹿にされたような返事か返ってくる。



 ……何となく、2匹の猫を見直していたんだけど、前言撤回。

 やっぱり、猫は可愛くなかった。
 兄貴が、主じゃ、仕方ない事かもしれないけどな。