自分を偽って、誰にも本当の自分を見せなくなった。

 それは、物心つく前から?

 覚えているのは、作り笑いを浮かべる小さな自分。



、何時から、そんな事をやっているんだ』

 両親すらも騙している、俺。
 本当の俺を知っている白猫からの質問に、考え込む。

 一体自分は、何時から本当の自分を見せなくなったのだろう。

 あれは、多分、小さな小さな頃。俺には、両親には無い能力があるのだと悟った時。



―この子は、の力を受け継いだようだね―


 そう言ったのは、ばーちゃん。

 人に見えないモノが見え、そして、誰をも従わせることが出来る金の右目を持つ。

 そんな俺だから、人との関わりを避けた。

 自分は、普通ではないから、『普通』と言う世界に、別れを告げたのだ。

「……何時からだろうな、俺ももう忘れた」

 だから返す言葉は、それ以外には見つからない。
 きっとそれは、あまりにも昔過ぎて、記憶には残されていないから……。
 皆の前で猫を被るのは、もう当たり前の事。
 友達と呼べるものを作らずに、ただ目立たないように、その存在を隠しながら生きてきた。
 それが、自分にとっての『普通』。

 同じ年齢の奴が、友達同士で笑っていても、自分は、自分の道があって、それは、『普通』とは呼べないものだから、だから、『普通』の生活は、捨てた。

『なら、どうしてそんな事をしているんだ?』

 今日は、珍しく質問が多い。

 だけど、次の質問にも、答えに困った。

 考えた事など、ないから……。

 それが、自分にとっての『普通』で、『当たり前』の事。だから、考えて行動している訳じゃない。
 ただ、面倒だとか、そう言う言葉でなら、説明できる位の事。

「……面倒だから、かな?」

『…何で、疑問系なんだ?』

「う〜ん、考えた事がねぇから。俺にとって、今が、『普通』なんだ。本当の俺を知っているのは、ばーちゃんとお前だけで、十分だよ」

『なら、何で、あいつらとは、話をするんだ?』

 ……本当に、今日は質問が多い。

 えっと、あいつ等って、やっぱり星馬兄弟の事だろうか?
 確かに、他の奴らよりも、話す回数は多いよな、うん。それは、認めるが、だからと言って、俺は本当の自分を見せた事は一度だって無いはず……。
 もっとも、あっちは、二人の俺を知っている事になるんだよなぁ。猫かぶりの俺と、本当の俺を。
 だから、実際的な言葉で言えば、あいつ等は、本当の俺を知っていると言う事で……。

 な、何か、ややこしいぞ。

「……なんでだろうな……」

 そんな事、考えた事も無い。

 偽りの俺が、星馬と話をするのは、生徒会と言う繋がりがあるから。
 んで、本当の俺は、『昼』の事で、知り合ったから、何となく、話をする。
 星馬とは、親近感がわくと言うか、何と言うか……。
 似た者同士と言うのは、こう言う事を言うのかもしれないと言うぐらい、親しみやすいのだ。

『『夜』は、お前の事を気付いている。だから、口止めはしているが、その内、あいつも気が付くぞ』

 だろうな。

 星馬も、そこまで馬鹿じゃないだろう。
 でも、あいつにばれても、いいような気がする。

 うん、多分、いや、絶対に、あいつにはばれちまうって言う予感があるのだ。
 でも、それだからって、それを警戒していないのは、あいつの事を信用しているからか?

 『普通』とはもう、違う自分。だけど、そんな俺を知る奴が出来てもいいような気がする。
 それが、星馬なら、それもまた運命。

「俺から話すつもりはねぇけど、あいつになら、ばれても気にしねぇよ。『昼』も、その方が『夜』と会いやすくなるから、問題ねぇだろう?」

『お前が、それでいいのなら、オレには、何の問題も無い。お前は、オレの、主だからな』

 俺の言葉に、はっきりと『昼』が言葉をくれる。
 それに、俺は、笑みを浮かべた。




 『普通』と言うモノに、別れを告げた俺が、こんな事を思うのはいけない事だろうか。

 願わくば、俺に友を……。

 学校で、他愛の無い話をして、笑いあえる、そんな相手を望んでも、許されるのだろうか?

 『普通』とは、違う俺。

 それでも、『普通』でありたいと願う事は、許されるのだろうか。



 願わくば、別れを告げたモノを、もう一度……。