カサカサ、サクサク。

 一歩踏み出すたびに聞える音楽。
 そして、空から降り注ぐ黄色。

 秋の、楽しみ。

 何度も何度も往復している銀杏並木。きっと、周りからは怪しい人物だと思われている事だろう。

『さっきから、何をしているんだ?』

 そんな自分に、とうとう痺れを切らしたのだろう、肩に乗っかって居る白い物体が不信気に問い掛けてくる。

「何って、散歩に決まっているだろう」

 それに歩きながら、キッパリと返せば、呆れたような視線。

『………同じ所をグルグル歩くのが、散歩なのか?』

 そして、呆れたように呟かれたそれに、俺は思わず笑みを零す。

「偶には、こんな散歩もいいだろう?」

『オレには、何が楽しいのか分からないが……』

 俺の問い掛けに、『昼』が、呆れたように、盛大な息を吐き出した。
 いや、別に付き合う必要は無いって、ちゃんと言った筈なんだけど……。

『あいつと、約束してるんじゃないのか?』

 呆れている『昼』に、俺はただ苦笑を零す。そんな俺に、『昼』の質問。

「あいつ?…ああ、星馬ね。いや、してないけど、だから、付いて来たのか?」 

 一瞬、何を質問されたのか理解できずに考える。
 『あいつ』と言われた相手は、一人しか考えられなくって、答えてから笑みを見せた。

 本当に、ウチのネコは、素直じゃない。

「携帯持っているから、連絡してやろうか?」

『………約束してないのならいい』

 ポケットから携帯を取り出して見せると、フイッと顔をそむける。本当に、素直じゃないな。

?」

 ため息をついて取り出した携帯をポケットへ仕舞い込んだ瞬間に聞こえてきた声に、驚いて顔を上げる。

 本当に、偶然と言うものは、恐ろしい。

「星馬」

 まさか、居るとは思っていなかった相手に名前を呼ばれたのだ、驚くなと言う方が無理な話であろう。

「さっきから同じ所をぐるぐる回っているみたいだけど、何してたんだい?」

 しかも、ずっと見られていたと言われてしまえば、複雑な気持ちを隠せない。

「……何って、散歩……」

「同じ所をぐるぐる回るのが、散歩?」

 ……どうして、『昼』と同じ事を言われないといけないんだろうか?

 確かに、同じ所をぐるぐると歩いているのは、見るからに怪しいと思われても仕方ないかもしれない。それでも、誰にも迷惑をかけていないのだから、放っておいてもらいたいと思うのは、無理な話なのだろうか。

『オレも同じ事は言った。なのに、同じ所をぐるぐる回っているだけなんだ。いい加減飽きたぞ』
「『昼』もそう言っているみたいだけど?」

 そんな事、何度も言われたのだから、ちゃんと分かっている。でも、珍しく休みになった休日をどう使おうが、俺の勝手のはずだ。
 何時もならば多忙な日程も、珍しくばーちゃんが休みをくれた。
 本当なら、何時ものように温泉に行くところだけど、今日はなんとなく、聞きたくなったんだよなぁ……。

「………枯葉の、音楽……」

「えっ?」

「落ち葉があるこの季節って、落ちている葉を踏むと音がするだろう。それが好きなんだ」

 カサッと足を動かせば、葉が音を立てる。俺の説明に、星馬も納得したのだろう小さくうなずいた。

「ああ、確かに、この時期は銀杏並木なんて歩くの楽しくなるよね。でも、それを枯葉の音楽か……らしい表現だね」

「そうか?」

「うん、今日はコンタクトもしてないし、この銀杏並木に、の瞳がとっても綺麗だよね」

 どこかうっとりとした表情で言われた言葉に、俺は、言葉を無くす。

 いや、星馬にうっとりと言われても、嬉しくないぞ。
 って言うか、男に言われて、喜ぶ奴なんて、居ないだろう!

「………星馬、悪いモノでも食ったのか?そうじゃなければ、お前、頭打ったんだろう?」

「…何、失礼な事聞いている訳。折角人が誉めてあげてるんだから、素直に喜んでいた方が言いと思うよ」

「………お前さぁ、男に綺麗って言われて、喜べるか?」

 俺の質問に少し怒ったように返されたそれに、俺は呆れたようにため息をついて言葉を返す。
 俺の言葉に、星馬も少し考えてから、自分が言った言葉を漸く理解したのだろう、慌てて弁解の言葉を口に出す。

「そう言う意味じゃないだろう!」

「てもなぁ、普通、良く知った相手から、真顔で『綺麗』って言われたら、引くぞ」

 きっとそう思うのは、俺だけじゃないはずだ。

『……、知っていたが、天然だな…………』

 だが、俺のそんな言葉に、『昼』が呆れたようにため息をついて、ポツリと呟く。

「はぁ?何が、天然なんだ??」

「……って、時々、妙に抜けているって言うか、ボケているって言うか……」

 意味がわからなくって問い掛けた俺に、星馬も『昼』と同じように盛大なため息をついて、呆れたように呟いた。

 って、それだって、意味わかんねぇぞ。
 俺のどこが、抜けていて、ボケているって言うんだ?!

『分かってない所がだ』

 まるで俺の心を読んだように、きっぱりと言われた言葉は、『昼』からのもの。

って、本当に変わっているよね」

 しみじみと言うのは、星馬。
 いや、確かに、親しくなった相手からは、絶対に言われる言葉だけど……今、言われるような事、何かしたか??

『変わっているな、確かに……』

 いや、『昼』には、何時も言われているけど……そんなしみじみ言わなくってもいいだろう!

「……きっと、季節の所為だ。うん、そうに違いない!」

 秋って言うのは、何時も見ているものが違って見えるって言うし、な。
 特に、こんな銀杏の葉が降ってくる場所だと、世界も違って見えるってもんだよ。

「そう言うところが、天然だって気付いていると思う?」

『気付いてないだろうな』

 遠くで聞こえる二人の会話を完全に無視して、秋を満喫。




 落ち葉踏む音、秋の音。

 今、秋真っ盛りです。