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空を見ると思い出してしまう。
この空が、一番似合う人物を……。
「星馬?」
ぼんやりと空を見詰めている中、声を掛けられて振り返る。
そこには、学校で見る姿とは違うが立っていた。
眼鏡も掛けず、何時もは、コンタクトで隠されている右目の金色が真っ直ぐにボクを見詰めてくる。
「……今日は、仕事?」
そして、肩に乗っかっている真っ白い猫を見つけて、質問を投げ掛けた。
「ああ、大した仕事じゃないから、もう終ったんだけど……星馬は、何してるんだ?」
躊躇いがちに聞いてくるその姿は、猫を被っていないはずなのに、なんだか学校で見る姿と重なって見えるのは、ボクの気の所為だろうか。
「う〜ん、空を見てる」
『空なんて見ていて、楽しいのか?』
一瞬考えて、それでも素直に答えれば、呆れたように『昼』が質問を投げ掛けてきた。
確かに、楽しくは無いけど、なんだろう、落ち着くって言うか……。
「ああ、確かに今日は、青空だもんな。気持ちが洗われる。いい日光浴日和だ」
ボクが言葉に困って、考え込んでいる中、聞えてきた声に驚いて、顔を上げる。
「?」
「だろう?俺は、日光浴好きだぜ。それに、こんないい天気なんだから、ボーっとするのも、いい事じゃん。勉強ばっかり考えている頭には、少しは休息も必要だ」
ニッコリと綺麗な笑顔で言われた言葉に、ボクは何も言葉を返せない。
『……お前の場合は、休息だらけじゃないのか?』
「『昼』俺の何処が休息だらけなんだ?今日も仕事してきたばっかりなんだぞ」
小さくため息をつきながら『昼』が、に呆れたような視線を向ける。それを受けて、が、文句を言うのを聞いて、漸くボクは笑顔を見せた。
「あっ!漸く笑ったな。なんか、辛そうな顔していたから、心配したんだぜ」
ボクが笑った瞬間、安心したようにが笑顔を見せる。
まるで、あいつと同じ、この空を思わせるような笑顔で……。
「?」
『確かに、思いつめたような顔はしていたが、そんなに大した事はなさそうだったぞ』
「『昼』」
さらりと言われる言葉に、驚きを隠せない。
自分でも気付いていなかった。ボクは、そんなに、酷い顔をしていたのだろうか?
「自分とは違う弟のことでも考えていたのか?」
続けて問われた言葉に、驚きを隠せない。
どうして、分かってしまうのだろうか。
自分でも、意識して考えていた訳ではないのに……。
『ああ、お前の弟は、この空を映したような色を持っていたな』
思い出したと言うように言われた言葉に、『昼』を見る。
自分とは、正反対の弟。
無鉄砲で、考えないしで、でも真っ直ぐな瞳を持っている、自分の弟。
それが羨ましいと思っていたのは、随分昔の話。今は、もうそんな事は考えもしなかったのに……。
「まぁ、気持ちなんて、人それぞれだしな。この空を見て、何を思うかも人それぞれ。安心できると思う人も居れば、それとは逆に不安になる奴だって居る。どう言う風に見るかは、本人次第って奴だ」
『確かに、その通りだな。この空を見て、昔を思い出すのも、また然り』
「……、『昼』………」
この二人には、分かっているのだろう。自分が何を考えていたのかが……。昔感じた、妬み。
自分にはない、魅力を持っている弟に感じていた、コンプレックス。
「……本当、感傷に浸るなんて、ボクらしくないね……」
「別にいいんじゃねぇの。偶にはさ。おっ!星馬の弟と『昼』の弟が、来る」
「えっ?」
言われて、顔を上げた先に、自分の良く知っている人物を見つけた。
この空を表したような瞳と、髪を持つ、ボクの弟。
「兄貴!!」
大きく手を振りながら走ってくるその姿に、苦笑を零す。
「何にしても、昔を懐かしむのは、いい事だぜ」
「?」
自分に向って走ってくる相手を待つようにその場所に座っているボクの耳に聞えてきたその声に、相手へと視線を向けた瞬間、ざっと一群の風が吹く。驚いて瞳を閉じたボクに、笑いながら手を振るの姿が見えたのは、気の所為だろうか。
「兄貴!んな処で何してるんだよ!ずっと探してたんだぜ」
「あっ、ああ……」
走り寄ってきた豪が、ボクに文句を言う。それに、曖昧な返事を返して、ボクは辺りを見回した。
『さっきまで、『昼』が居なかったか?』
そして、『夜』が、ボクに質問してきたその言葉に、困ったような笑みを浮かべる。
「居たような気がするんだけど、気の所為だったのかも……」
確かに、話をしていたように思う。
だけど、それは、この空が見せた幻。
だって、彼が、ボクの気持ちを知っている筈は無いから……。
「ほら、兄貴、早く帰ろうぜ!」
複雑な表情を見せるボクに、明るい声が先を急かす。
本当に、昔と変わらない、ボクの弟。
「……そうだな」
今なら、ボクも素直になれるかもしれない。
だって、こんなに空が、青いから……。
―おまけ―
『で、態々逃げる必要はないんじゃないのか?』
「う〜ん、なんか、その方がいいように思ったんだよなぁ」
『………そんないい加減な気持ちで、人の能力を使わせないでくれ』
「いいだろう、偶には!お前に仕事の手伝いさせた事なんだからな」
少し離れた場所で、言い合いをする、白い猫とその飼い主の姿があった事を知っているのは、この晴れた青い空だけかもしれない。
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