『バレンタイン?』

 素っ頓狂な声を出した相手に、烈は思わず苦笑を零した。

「そう、バレンタイン……今日は、女の子が好きな男の子に『告白』をする日なんだよ」
『……人間って奴は、本当に行事が好きなんだなぁ……』

 感心したと言うよりは、呆れたように言われたそれに、烈も苦笑するしかない。

「まっ、始まりは、お菓子会社の策略だったみたいだけど、今では毎年の行事になってるみたいだね」

 ため息をつきながら言われたそれに、目の前の包みに視線を向けた。
 それは、可愛い包装紙に包まれたもので、中になにが入っているのかと考えると頭を抱えたくなる。

「……豪みたいに、その場で返せば良いんだろうけど、今までのイメージを壊すから、出来ないんだよなぁ……」

 疲れたようにため息を付く相手に、『夜』は、呆れたような視線を向けた。

 目の前の人物が、優等生な上に猫かぶりであると言う事を知っている数少ないモノとしては、答えなど出来ないだろう。
 『夜』は複雑な表情を浮かべて、目の前で盛大なため息をついている人物に視線を向けた。
 その綺麗に整った顔を見れば、人気があるのが分かるのだが、やはり性格を考えれば、どうしても考えてしまう。

 勿論、自分は烈の性格を嫌いではないから、満足しているのだが……。

「とりあえず、母さんに渡せば、お菓子にでもしてご近所に配ってくれるだろうね……」

 もう一度ため息をついて、紙袋に入ったそれを持ち上げる。

『…相手の気持ちが詰まってるモノを、配ってもいいものなのか?』

 紙袋を抱えて部屋を出ようとする烈に、不思議そうに尋ねられたそれは、思わず苦笑いを誘ってしまう。

「……これを全部食べてたら、ボクの体重は大変な事になるだろうね……それに、ちゃんと貰った子達のチェックは済んでるから問題ないよ。これのお返しは、来月にあるからね」
『……これ全部に、お返しするのか?』
「貰ったものには、ちゃんと返さないといけないんだよ。まっ、毎年流石に、母さんからちょっと寄付はしてもらってるけどね」

 苦笑を零しながら言われたそれに、『夜』も小さく頷いて返す。
 それには、大変なんだと言う同情が見えた。

「あっ!忘れるところだった。『夜』これは、ボクからの気持ちだよ」
『えっ?』

 忘れていたと言うように、一つの包みを取り出す。

「ほら、口開けて」

 小さなそれを手にとって『夜』の傍に来ると、烈はニッコリと笑顔を見せた。
 言われるままに口を開いた瞬間。小さなモノが口に入れられる。

『!?』

 口の中に広がったそれに、『夜』が驚いたように烈を見た。

「甘いだろう?それがチョコレートだ。これは、ボクからのプレゼント貰ったものじゃないからな」

 ニッコリと優しい笑顔で言われたそれに、『夜』も嬉しそうな笑顔を向ける。

『……有難う……』
「どういたしまして……お前がチョコレート気に入ってくれて良かったよ。まだ一杯あるから、食べていいぞ」

 すっと差し出された箱の中には、一口大の大きさで色とりどりの包装紙に包まれたチョコレートがぎっしりと入っていた。

「でも、食べすぎは駄目だからね」

 嬉しそうにチョコレートを見詰めている『夜』の姿に笑みをこぼして、烈はその頭を優しく撫でると今度こそ、部屋を後にする。
 目の前に差し出されたチョコレートを見つめながら、ただ『夜』は嬉しそうに尻尾を振るのだった。