「星馬先輩、ずっと好きでした!」

 何時ものように呼び出されて来た先で言われたその言葉に、烈は内心うんざりしたような表情を見せる。

 今月に入って、これで何度目になるのか、もう数える気もしない。

 言った後で、下を向いたままでいる少女にばれないように小さく息を吐き出す。
 好きだと言ってもらえるのは、嬉しい事だと正直に思う。
 だが、こう頻繁だと流石に嫌になるのは仕方ないだろう。

「……ごめんね…」

 そして、何時もと同じように謝罪の言葉。

「…ボクは君の事を知らないから……好きだと言ってくれた君の気持ちは嬉しいけど、その気持ちには答えて上げられない……」

 これも代わらない返事。
 そして、その後絶対に少女は泣き出してしまう。
 それも何時もと同じパターン。

 だが、今回は、何時もと違って、少女が行き成り顔を上げると真っ直ぐに自分の事を見詰めてくる。

「…先輩は、好きな人、居るんですか?!」

 何時もと違って尋ねられたその言葉に、烈は驚いたように少女を見た。

 今まで、そんな質問をされた事がなかったから……。

「…好きな人……」
「はい、先輩に好きな人が居るのなら、諦めます。だけど、そうじゃないのなら、好きで居る気持ちは止められないから…」

 今にも泣き出してしまいそうな瞳で、自分の事を見詰めてくる少女を前に、烈は複雑な表情を見せた。

「……好きな人が居ると、ボクの事を嫌いになれるの?」
「…そうじゃないです……でも、諦められるから……」

 烈の質問に困ったように答えながら、少女がまた俯いてしまう。
 そんな相手を見詰めながら、烈はため息をついた。

「……それって、本当に好きって言う気持ちなのかなぁ……」
「えっ?」

 ポツリと呟いたそれに、驚いたように顔を上げる少女に烈は苦笑を零す。

「…本当に好きなら、諦められるはずないと思うよ……それに、君は、ボクの表面だけしか知らない」
「知ってます!星馬先輩は、優しくって……」
「うん、それが、ボクの本当を知らないんだよ」

 少女の言葉を遮って、烈がニッコリと笑顔を見せる。

「…それじゃ、星馬先輩は、私の気持ちは、本物じゃないって言うんですか?」
「……違うよ。今、ボクを好きだと言ってくれる君の気持ちを本物じゃないなんて言わない。だけど、君が好きなのは、表面上のボク」

 優しい笑顔を見せながら言われたその言葉に、少女が再度言葉を返す。

「でも、それでも、私は星馬先輩の事、好きなんです!」

 はっきりとした口調で言われたその言葉に、烈は少しだけ困ったような表情を見せる。

「……有難う…だけど、やっぱり、君の気持ちには答えられないよ…」
「…それは、先輩の全てを知っても、好きだって言う人が居るからですか?」
「……うん…」

 泣き出しそうな表情で言われたその事に、烈は笑顔で頷いて返す。

「…ボクの全てを知っても、好きだって言ってくれる。…ボクも、そいつの事、嫌いじゃないから……」

 苦笑いするように言われたそれに、少女が諦めたように小さく息を吐き出した。

「……分りました。ここに来てくれて有難うございます。そして、私の告白を聞いてくれて、有難うございました」
「…こっちこそ、有難う……君の気持ちに答える事は出来なかったけど、気持ちは、嬉しかったから……」

 ニッコリと笑顔を見せれば、少女も泣き笑うような表情で笑顔を見せて、そのまま一度大きく頭を下げるとそのまま走り去っていく。
 その後姿を見詰めながら、烈は疲れたように盛大なため息をついた。

「…嫌いじゃない、か……」

 自分で言ったその言葉に苦笑を零す。
 自分の事を知った上で、好きだと言ってくれる存在。
 それは、大切で、離れられない相手。

「絶対、あいつには教えられないな……」

 ため息をついて、踵を返す。
 既に、薄暗くなり始めた冬の空を見上げながら、烈は家路を急ぐ。

 吐く息は、白く、これから、冬真っ盛り。


 そんな寒い日のこれは、ほんの小さな出来事。