人間という生き物は、変わっていると正直に思う。
 特にボクの主となった星馬烈と言う人間は、その中でも特別に変わっている。

 嘘で固めた笑顔と、嘘の言葉。
 しかし、そんな彼の嘘に誰も気が付かない。

 嘘で塗り固められた存在。本当の心というものを、誰も知らないのではないだろうか……。


 そして、もう一人変わった存在が、ボクの傍には居る。

 こちらは、思った事などは全て口に出すような人間。
 ボクの主となった星馬烈とは、全く正反対の人間だ。

 名前は、星馬豪。

 兄弟だと言っていた。
 しかし、兄弟と言うものは、何かしら似ると言う。
 なのに、この二人は全く正反対なのである。

 全く持って変わっている存在だ。


                    − 存在 −


「『夜』」

 ボクのお気に入りの場所は、主でもある烈のベッド。
 そこで丸まっているのが、一番安らぐ。

 そして、そっとボクの頭を優しく撫でるその手も、口には出さないが気に入っている。

 嘘で固められたこの人物の本当の心というものを、ボクだけがどうやら知っているのだと言う。
 そう言う理由だからではないが、やはり相手もボクと居ると少しだけほっとするらしい。

 だから、ボクの前では、嘘は付かない。

「お前、また豪相手にからかったんだって……」

 呆れたように呟かれたその言葉、ボクはゆっくりと瞳を開いて直ぐ傍の人物を見た。

 怒っている様子は、全く無い。
 少しだけ呆れたような表情で、ボクを見詰めいるその瞳は、どちらかと言えば笑っている。

『……あいつは、ボクの玩具だ……』
「…玩具って……お前をここに連れて来たのは、あいつなんだぞ」

 そんな烈に言葉を述べれば、苦笑交じりに返事が帰ってきた。

 確かに、ボクがここに来れたのは、あいつが水晶を買ったからである。
 しかし、誰も好きであいつに買われた訳ではない。

 少しくらいは、この烈と言う存在に出会えた事は感謝しているのだが……。

『あいつは、珍しいんだ……』
「その気持ちは、分からないとは言わない。ボクも同じだからね」

 ポツリと本当の事を言えば、烈も素直に言葉を返してくる。

 それは、嘘など全く無い本当の事。

 『似ている』と正直に思うのだ。

 彼は、ボクに似ている。
 『使い魔』である自分と同じ。

 人間である彼が、『使い魔』である自分と同じだと言うのは、はっきり言ってやはり変だ。

 本当に変わった存在。
 だから、この傍は安心できるのかもしれない。

「正直だからな、あいつは……だから、からかいたくなるんだよ」
『……それは、ボクやお前だけだと思うぞ』

 少しだけ寂しそうに呟かれた言葉に、ボクは思った事をそのまま口に出す。

 そう、この星馬豪と言う人間もまた変わっている。
 家の外では、鋭く、絶対に誰かに騙されると言うようには見えない。

 なのに、家ではまるで別人になってしまうのだ。

 誰にでも好かれる好感の持てる人物で、烈とは全く違って、嘘などで塗り固めていない。
 自分の心のままに行動を起こす、変わった存在。

 いや、こちらは、珍しいと言った方がいいかもしれない。

 心のままに行動しても、誰からも悪く思われないのだから……。

 嘘で固められた烈と違い、嘘を知らない人物。

 本当に、人間と言うのは変わっている。
 同じもので出来ているはずなのに、どうしてこんなに違う生き物なのだろうか??

 ただ言える事は、この変わった存在の傍に居ると言うことが、ボクは気に入っていると言うことだろう。

「兄貴、果物食べるか?」

 ノックもなしに顔を出した人物に、二人同時に顔を見合わせて苦笑を零す。

 この存在が入るだけで、空気が和らぐのを知っているから……。

 そして、嘘で固められた烈が、本当の笑顔を見せる相手。
 そして、嘘を付けない相手が、唯一安心できる場所がこの部屋であると知っている。

 まったく、変わった存在だ。
 正直なくせに、一番肝心な事は隠そうとする。

 変わった存在である、嘘を付きながらも、誰にも気付かれない笑顔を見せる相手。

 ボクは、面白い場所に来た。

 だから、もう暫くは、この二人を観察しよう。