毎年恒例で、家族で近くの神社へ初詣。
 その後、母さんと父さんは二人で喫茶店に行くと言うので、誘われたけど僕達は断ってのんびりと家へと歩いていた。

「『夜』連れて来なくって良かったのかよ?」

 そんな中、豪がふと問い掛けてくる。

 『夜』とは、僕が飼うことになった黒猫の姿をしている妖魔。
 出会った当時は可愛くなかったけど、今では可愛いと思えるようになった。

「あいつ、こんな人込み嫌いだからなぁ……聞いたけど留守番しているって言うから置いてきたんだよ」

 豪の質問に、僕はそう答えて人込みの中を進んでいく。
 僕としても、行事でなければ大人しく家に居たいと思う。

 誰が好き好んで、こんな人が溢れる中居るかどうかも分からない神様に祈らなきゃいけないんだか……。

「…兄貴も、行きたくなかったって言うのが、見て取れるんですけど……」
「僕も、人込み嫌いだからね。人酔いするって言うか……気分が悪くなるのは、嘘じゃないよ」

 複雑な表情の僕から、豪が恐る恐ると言った様子で言うのに、盛大なため息を付きながら正直に話をする。

 こう人が溢れているのは、正直言えば人酔いしてしまうのだ。
 なんて言うのか、周りの喧騒に、生気を持っていかれるって言うか……兎に角、疲れる。

 それに、

「ねぇ、ちょっと話しない?」

 こう言う馬鹿な奴がイッパイ居るのだ。
 人が多いと……。

「…新年早々、人様に迷惑掛けるような事してくれるのって、本当に馬鹿で救いようがないよね。まぁ、そんな馬鹿だから、男と女の区別も付かないんだろうけど」

 人の肩に気安く手を置いている人物に、にっこりと笑顔を見せてその手を払い除ける。

「なっ!誰が、馬鹿……」
「こんな人込みの中で恥をかきたくなければ、さっさと行ってくれる。目障りだから」

 僕の言葉に怒りを覚えたであろう相手の言葉を遮って、にっこりと更に言葉を続けて相手を睨んだ。
 勿論、自分の睨みなんて怖くないだろうと思うので、このまま人悶着とか思っていたのに、相手はあっさりと謝罪してそのまま迷惑も顧みず人込みの中に消えていった。

「……僕、睨んだだけなんだけど……」
「兄貴、何時の間に殺気放てるようになったんだよ……俺は、ちょっとハラハラしたけど、何にもなくって本当に良かった」
「……何気に酷い事言ってるのはこの際聞かなかった事にしておいてやるけど、僕が新年早々何かすると思うのか?」
「……出来れば、して欲しくねぇなぁと……」

 って、事はすると思ってんだな、こいつ。

 大体、僕は自分からは絶対に何かをしようなんて思った事はない。
 相手が何かをしてくるからこそ、返すだけだ。
 まぁ、挑発は喜んでするけどね。

「まぁ、今日は許してやる…さぁ、帰ったら、雑煮でも食うか」

 失礼な事を言う豪を一度睨んでから、それでも新年早々怒るのも面倒だから、一度伸びをして帰りを促す。

「『夜』も食うんじゃねぇ。今日はまだ何にも食ってなかったよな?」

 僕の言葉に、豪も頷いて、また歩き出した。

「だね。んじゃ、早く帰ろう。あっ!忘れるところだった!」

 僕もそれに同意して歩き出しかけたが、一つだけ忘れていた事を思い出す。

「何か忘れモン?」

 そんな僕に豪が不思議そうに首を傾げる。

「挨拶、明けましておめでとう、今年も宜しくな」

 ここに来る前に朝の挨拶はしたけど、まだ新年の挨拶を指定なかった事を思い出だして、笑顔で言葉を伝えた。

「あっ、そっか!おう、明けましておめでとう、今年も宜しく、兄貴!」