メリー・クリスマス。

 全ての人に、幸せを………。

 そして、素敵な夢を……。




「兄貴!これ、ここで問題ないか?」

 飾り付けに忙しい星馬家のリビングで、その声に顔を上げる。

「もう少し、右に置けないか?」
「右?」
「そう右だ」

 指示を与えるその声に、ソファで眠っていた小さな体が小さく反応を返す。

『……何をしているんだ?』

 大きな木に飾り付けをしている二人の姿に、真っ黒なそれが声を掛けた。

「見ての通りだ……『夜』は、今年で2回目だったよな?」

 木の天辺銀色の星を飾りながら言われたその言葉に、一瞬分からないと言うような表情を見せるその姿に、烈が苦笑を溢す。

「クリスマスだよ」
『クリスマス……』

 確かにその言葉は、聞いた事がある。
 そう、ちょうど一年前の今日。

『じゃ、今日は、ご馳走なのか?』
「おう!母ちゃんが、必死で準備してるぜvv」

 飾り付けをしながらの嬉しそうなその言葉に、烈も笑顔を見せて頷いてみせる。

 今日は、一年に一度の特別な日。

 数少ない特別な日の中で、今日と言う日は、また違った意味での特別。
 誰にでも特別で、そして、わくわく出来るそんな日。

「今年は、『夜』の分のプレゼントも用意してあるからね」

 そして、にっこりと笑顔で言われた言葉に、『夜』は不思議そうに首を傾げた。

『プレゼント?』
「そう、プレゼントだ。クリスマスには、サンタクロースが一年間良い子だった子供に、プレゼントをくれるんだよ」
「って、兄貴……そんなの、今時……」
「お前は、黙ってろ!」

 笑顔で説明する実の兄に、呆れたように言葉を延べようとすれば、鋭い視線と共に、冷たい言葉が返される。

『……良い子にプレゼントが貰えるのか?』
「そうだよ」
『それじゃ、ボクは良い子なのか??』
「そう言う事だね」

 不思議そうに自分を見詰めてくるその紫の瞳に、烈は優しく微笑んでそっとその体を抱き上げた。
 真っ黒なふわふわの毛を手に感じながら、烈はその頭を撫でてやる。

「プレゼントは、明日の朝、このツリーの下に置かれるんだ。だから、きっと『夜』の分もあるよ」
『本当に?』
「ああ……ボクは、嘘は嫌いだからね」

 笑顔で言われたその言葉に、『夜』が一瞬不満そうな表情を見せた。

 嫌いだと言うのは、確かに間違いではない。
 だが、それは、嘘を付かない訳ではないのだ。

 もっとも自分は、目の前の主人が誰よりも嘘吐きである事を、一番知っているのだから……。

「……嘘を吐かれるのは、嫌いだろうなぁ……兄貴の場合……」

 複雑な表情を見せている『夜』を前に、ボソリと呟かれた豪のその言葉は、思わず大きく頷きたくるほど、もっともな言葉であった。

「豪くん、言いたい事があるのなら、ボクにも聞こえるようにはっきりと言ってもらわないと、ね」
「な、何でもありません、お兄様!!」
「お前の場合は、学習能力って言うもんがなさ過ぎだ!この馬鹿!!」
「……出来れば、切実に欲しいようなぁ……」
「だったら、少しぐらいは努力しろ!この馬鹿!!」

 呆れたように言われるその言葉に、『夜』は苦笑を溢す。

 本当に、よく同じ会話を交わす兄弟である。
 飽きると言う事を知らないように、同じような会話を繰り返す。
 それが、この兄弟のコミュニケーションなのだろうか?

「そうだ!これは、ボクからのプレゼント!」
『何?』

 目の前で繰り広げられているそれをのんびりと眺めていた『夜』は、思い出したとばかりに言われたその言葉に、不思議そうに烈を見る。

「豪から貰った首輪が、大分古くなってただろう?だから、新しいモノ」

 そうして差し出されたのは、豪がくれた首はとは色違いの首輪。

「豪から貰ったのが、赤だったから、ボクからは青だよ。気に入るかどうかは、分からないけど……」

 そう言って差し出されたそれに、『夜』はぱっと笑顔を見せた。

『ボクの新しい首輪?』
「そうだよ」

 差し出されているそれと、差し出している人を交互に見詰める。
 プレゼントを貰う事の嬉しさを知ったのは、ここに来て初めての事。

『貰っても、いいのか?』
「気に入ってくれれば、貰って欲しいけど?」
『烈が、付けてくれるのか?』
「豪がいいのなら、変わってもらうけど?」

 自分の質問に質問で返されて『夜』は、小さく首を振る。

 そして、差し出されている首輪を大人しく交換してもらう。
 古い首輪から、真新しいモノへと……。

『似合うか?』

 新しくなった首輪を少し誇らしげに見せる『夜』の姿に、烈と豪は小さく頷いた。

「赤も良かったけど、青も似合うな」

 豪が、素直に誉めてくれる言葉に、『夜』は嬉しそうな表情を見せる。

「今度古くなった時は、瞳と同じ色かな?」

 そして、続けて言われたその言葉に、『夜』は少し驚いたような視線を烈へと向けた。

『また、古くなったら、新しいのに変えてくれるのか?』
「勿論だよ。お前は、この家の一員なんだからね」

 当然のように返される言葉。

 今まで、自分はモノでしかなかった。
 なのに、ここでは、必要だと言ってもらえる。
 それが、何よりも嬉しい。

『ボクは、この家の一員なのか?』
「そうだよ、お前もボク達の大切な家族だ」
「そうだな……それに、プレゼントもらえる程の良い子でもあるんだし」
『ボクは、ずっと、ここに居てもいいのか??』
「お前が、居たいと思うのなら、ずっと……」

 自分の言葉に返される言葉は、どんなプレゼントよりも嬉しいモノ。

 ねぇ、クリスマスは、特別。
 誰もが、幸せになれる日。


 そして、心からのプレゼントと大切な夢を……。

 メリー・クリスマス。