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ありふれた日常。
それがいやだとかそんな風に思った事は無いけど、やっぱり退屈な日常は、自分には合わなくって、刺激を求めるようになったのは、中学の頃。
小学校の時は、ミニ4駆に嵌り込んでいたから、日常に退屈だなんて思った事ないのに、中学に上がったと同時にそのミニ4駆から離れてしまったのが、今の自分を作り上げてしまったんだと思う。
だけど、そう分かっていても、今更自分を変えることなんて出来ない。
これが、今の自分だから……。
― 王者 ―
今日は、調子が悪かったんだと思う。
それが、全ての原因。
そうじゃ無ければ、こんなドジな事を自分がするはずが無い。
体育館倉庫に閉じ込められて、どの位の時間が経ったのかなんて、分かる訳が無いが、暇だと感じないのは、目の前に漂っている自分からは触れる事の出来ない人物達のお陰だと言っていいんだろうか?
「……学校をゴーストスポットにだけはしたくなかったのになぁ……」
盛大なため息をついて、自分に縋りついてくるそのモノ達を追い払う様にパタパタと手を振る。
虫ではないのだから、こんな事で祓えるとは思っていないが、それでも自分の目の前を飛ばれるのは鬱陶しい。
高校に無事に入学して、(勿論、落ちるとは思っていなかったが…)夏休みも間もなくと言う時に、突然の呼び出し。
それは、本当に久し振り過ぎて、自分を喜ばせてくれるものだった。
上級生から見れば、やはり自分のような下級生は気に入らないのだろう。
だから、この呼び出しは、遅いとも感じられたのだが、何はともあれ待ちに待っていた恒例行事の挨拶に、浮かれていたと言えば聞こえがいいかも知れない。
それとも、高校ともなると姑息な手段を使うと感心すれば良いのか、今の状態からは謎である。
「さて、どうしたものかなぁ……君達に助けなんて求められないからね……本当、このままここに閉じ込められてたら、警察沙汰になるかもとか、普通考えない訳?……あ〜あ、ここが学校じゃなければ、この扉くらい壊せるのに……」
自分を閉じ込めた人物達の動きは、全く見えない。
ただ、ここに自分を閉じ込めただけ……。
外に見張りが居る様子も無い。
ただ分かるのは、自分をここの閉じ込めた人物が、一人ではないと言う事。
「……一人じゃなんにも出来ないなんて、本当に最低だよなぁ……」
盛大にため息をついて、烈は小さな窓に視線を向けた。
もう既に外は薄暗くなっているのを見てから、再度ため息をつく。
このままここに居るのは、出来れば避けたい。
夜の学校は、自分にとって厄介な場所の一つである。
「さて、そろそろこの場所も、鈍い人にも分かるくらいの場所になったみたいだし、これであいつも探しやすくなるだろうけど、このままだと、ボクの体力が何処まで持つかだよね……」
苦笑を零してから、ゆっくりと瞳を閉じる。
「……もって、20〜30分ってところかなぁ……本当、こう言う時だけあいつの存在が有難いなんて、皮肉だよ……まっ、怪我した訳じゃないから、死人は出ないだろうけど……もっとも、ボクがここで倒れたりしたら、どうなるか分からないけどね…」
自分が言ったその言葉に、再度ため息をつく。
死人が出ると言う事は、本当に笑えないから、性質が悪いのだ。
あれは、何時だったか忘れてしまったけれど、初めて自分が殴られた時、豪は笑顔を見せながらも、人一人を病院送りにしてしまったのである。
あの時以来、烈は誰からも攻撃を受けない様に、細心の注意をしていのだ。
そうしないと、その内豪は人を殺しかねない。
「人の事を、トラブルメーカーだと言うけどなぁ、本当はお前の方が、酷いと思うぞ、豪!!」
居ない人物に、文句を言っても仕方ないが、何かを言っていないと飲まれてしまいそうで、我慢できないのだ。
「……助けに来た人物に、ヒデー言い様だよなぁ・・・・・・」
自分の叫び声と共に、ゆっくりと扉が開いて、呆れてはいるが、見慣れた顔が現れる。
「……遅いぞ、バカ……」
「……兄貴が帰ってくるの遅いから、心配して見に来てやったんだろう!普通は、お礼の言葉が先だろうが!!」
「……素直に礼なんて言ったら、ボクじゃないだろう?それに、ここを掃除する方が、先だ……」
疲れたようにゆっくりと立ち上げると、烈は盛大にため息をついて見せた。
「また、派手に集めたよなぁ……お陰で、見つけやすかったけど……」
倉庫からゆっくりとした足取りで出てくる烈を前に、豪は感心した様に倉庫の中を見詰める。
ドロドロとした雰囲気は、どんなに鈍感な人間にもその場所がイイ雰囲気で無いと知らせている様で、この場所で写真でも撮ろうものなら、この世のもので無いモノが確実に写されるだろうと思ってしまう。
「好きで集めるか!!お陰で、こっちは偉い迷惑してんだよ……」
大声で怒鳴った瞬間、クラリと感じた眩暈に、とっさに豪の肩に懐いてしまうのは止められない。
「おいおい、大丈夫かよぉ?一体、何時間ここに閉じ込められてたんだ?」
「……時間にすれば、3、4時間くらいだ。後、30分も居れば、オレの意識は無くなってただろうなぁ……」
盛大にため息をついてから、烈は自分が今まで閉じ込められていたその倉庫を振り返る。
そして、余りにもドロドロとしたその空気に、烈は何も見なかったとばかりに視線を戻した。
「……掃除は、明日って事で、帰ろうぜ」
「それで、いいのか?」
「まっ、ここを一番に見る奴って言えば、ボクを閉じ込めた奴等だろうし、問題無いだろう?」
「……」
ニッコリと同意を求められた瞬間、豪は何も言えずダンマリを決め込む。
ここで何か言おうモノなら、どんな仕返しがあるか分からない。
「それに、いま掃除なんてしてみろ、ボクは確実に倒れるぞ。お前、責任持てるのか?」
確かに、烈の言葉は最もである。
今の烈は立っているのもやっとの状態なだけに、掃除(除霊)などしようものなら、倒れてしまうのは目に見えて明らかである。
烈の傍に居るために、そう言う行為が体力を奪うという事を知っているだけに、豪には何も言えない。
「……本当に、大丈夫なのかよ、兄貴?」
「今はな……もっとも、これ以上ここに居たら、自信はない!」
きっぱりと言われたその言葉に、思わず苦笑を零してしまう。
確かに、倉庫から出たと言っても、ここは学校の敷地内なのである。
烈が夜の学校を苦手としているのを知っているだけに、一刻も早くこの場所を去る事の方が大事だと分かって豪は烈に肩を貸す様にして歩き出した。
「……呼び出しされても、受けるなよなぁ……せめて、俺が入るまでは、さぁ……」
「…お前が居たら、面白くないだろう!」
「……そう言う問題じゃないだろう……それに、今回みたいになって、俺が何時でも助けられるわけじゃないんだぜ」
自分の言葉をきっぱりと言い返す烈に、豪はため息をつきながら呆れた様に言葉を返す。
「何言ってるんだ?お前が、ボクを助けに来ない訳ないだろう?」
「へっ?」
だが、直ぐに返されたそれに、何を言われたのか一瞬理解できないで、間抜けな声を出してしまう。
「お前が、ボクの事を助けに来ない訳ないだろう。何、当たり前な事言ってるんだ?」
笑いながら言われたそれが、余りにも当然過ぎるように言われた事に、豪は複雑な表情を見せた。
「……それって、一様俺の事、信用してるって事?」
「バ〜カ!信用してるんじゃなくって、確信してるんだよ」
ニッコリと笑顔で言われたそれに、反論なんて全く出来ない。
それは本当に、王者の威厳。
「……だから、烈兄貴には、勝てないんだよなぁ……」
「当然だ!」
諦めた様に溜め息をつけば、更に笑顔が返される。
それが全ての敗因。
誰も、王者に勝てる人は居ないから……。
次の日
烈を閉じ込めた上級生の悲鳴が、学校中に響き渡った事は、言うまでもないだろう。
そして、2度と星馬烈を呼び出す人物は居なかったらしい……。
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