☆ なんて事はない出来事 02 ☆

 
「・・・・・・単純すぎるんだよなぁ・・・・・・」

 手に一つの手紙を持ったまま、烈は小さく息を吐き出した。
 ご丁寧に、入場チケットまで入れられたその手紙を無視することも出来ずに、素直に呼び出しに従って今、この場所に居る自分が、あまりにもいい人過ぎる気分である。

「・・・・・ボクが、怖がりだって何処で入手したんだろうねぇ・・・・・・」

 目の前にあるお化け屋敷と書かれた看板を見詰めて、烈はもう一度溜息をついた。

「・・・今回は、豪が一緒じゃないけど、ここじゃ暴れられないよなぁ・・・・・・」

 自分の考えた事に、烈は残念そうに手紙をポケットの中に押し込める。

 呼び出しをされたのが自分だけだと言うのは、この場所からも容易に想像がついてしまう。
 この場所に呼び出されたのは、自分が怖がっている所が見たいと言うような事からなのだ。

 もっとも、その怖がりと言うのにはちゃんとした理由があるのである。
 それを知らずに、自分をこんな所に呼び出した相手は、正直言ってもっともしてはいけない事をしてしまったのだ。

「・・・・・さて、何が起こるのか、ボク自身にも想像できないから、この人達大丈夫かなぁ?」

 呟いて思わず苦笑を零してしまう。

「まっ、命に関わる事は起きないだろうけどね・・・・・それに、呼び出したのあっちなんだから、ボクが心配してやる義理はない!」

 自分の言葉に大きく頷いて、烈はそのまま目の前のお化け屋敷に入っていく。
 そして、その数分後、そのお化け屋敷の中から数人の男の悲鳴が響き渡った。

「・・・・・・遅かったかぁ・・・・・・」

 聞こえてきた悲鳴に、豪は溜息をついてとりあえず、悲鳴の聞こえた場所へと急ぐ。

「たく、俺の分のチケットも送って来いよな!」

 文句を言いながら、悲鳴の聞こえたお化け屋敷の中に入ろうとした瞬間、その中から数人の人物がまさに転がるように這い出してきた。

「・・・・・この中は、悲惨って事だろうなぁ・・・・場所が場所だかんな」

 お化け屋敷の中から出てきた人物たちは、恐ろしいものでも見たのだろう。
 夏だと言うのに、ガタガタと震えている。

 そんな様を目の前に見せられて、豪は盛大な溜息をついた。

「お〜い、大丈夫か?」

 仕方が無いとばかりにその人物たちに声を掛ければ、自分の姿を見るなり、余計におびえた表情を向けられてしまう。

「・・・・化けモンでも見るように、人の事見るなよなぁ・・・・・」

 自分の事を見るなり、一目散に逃げていく人物たちに、豪はもう一度盛大な溜息をついて見せた。

「さてと・・・・」
「豪、お前、来てたのか?」

 逃げて行った人物たちを見送ってから、豪はお化け屋敷の中に入ろうと振り返った瞬間中から出てきた人物に不思議そうに声を掛けられる。

「烈兄貴!」
「・・・・・・あいつら、一生お化け屋敷には入れないだろうなぁ・・・・・」

 自分の名前を呼んで近付いてきた豪に、烈は苦笑して呟いた。

「・・・・少しくらい、手加減してやれよ・・・・」
「これは、ボクの所為じゃないから、仕方ないだろう!手加減も何も、場所が場所だから、何時も以上に寄って来ちゃったんだからね」

 豪の言葉に盛大な溜息をつくと、疲れたように近くにあったベンチに座る。
 そんな兄の様子を見詰めながら、豪はお化け屋敷と書かれた看板を見上げた。

 オドオドした雰囲気は当然と言えば当然の場所なのだが、今、この中へ入れと言われたら、豪は謹んで辞退するだろう。
 それだけ、お化け屋敷は嫌な気配が漂っているのである。

「・・・・・そうやって、恐怖スポット作るの、いい加減やめたら?」

 疲れきっている兄に、豪は呆れたように呟けば、ギッと睨みつけられてしまう。

「・・・・・やめられるモンなら、とっくにやってるに決まってんだろう!」

 文句を返されたそれに、「そりゃそうだ」と頷いて、豪はもう一度溜息をついた。

「・・・・あいつら、二度と俺たちにちょっかいかけなくなるだろうなぁ・・・・・・」
「あ〜もう!本当だよ。折角、一人だけの呼び出しだったのに!!」

 自分の言葉に戻ってきたそれに、思わず苦笑を零してしまう。
 どうやら、暴れられなかったのがよっぽど悔しいらしい。

「・・・んじゃ、あの中の掃除でもすればいいじゃん」
「やだ!疲れる・・・」

 豪の言葉にきっぱりと返すのと同時に、烈はベンチから立ち上がった。

「さてと、折角チケット貰ったんだから、遊んでいかないと損だよなぁ・・・・」

 この遊園地は、入場料のみで遊び放題なのである。
 そんなに大きくない遊園地でも、折角来た以上は遊ばないと勿体無い。

「・・・・いい性格してるよなぁ、本当・・・・・・」
「褒めてくれて、有難う、豪くんvv」

 ニッコリと笑顔を見せて、歩き出す。
 そんな烈の後を溜息をつきながらも、従うようについて行く。

「それじゃ、豪くん。まずはアレから付き合ってもらうよvv」

 そして、ニッコリと烈が指差したモノを見た瞬間、豪はやはり兄だけは敵に回すまいと心底思った事は言うまでも無い。
 余程、先程の台詞が気に入らなかったのだろう。

 烈が指差したのは、観覧車であった。

「お兄様、俺が悪かったです・・・・アレだけは、勘弁してください・・・・・・」
「ボクに逆らおうなんて、10年早いんだよ!!」

 にっと笑顔を見せる兄に、誰か逆らえる人が居たら教えてもらいたいと、そう思わずには居られない豪だった。



 そして、この遊園地のお化け屋敷に、本物の幽霊が出ると噂になったのはそんな二人が遊びまわった日からである。