― 夏休み ―


「兄貴、行こうぜ!」
「絶対に行かない!!」

 豪の申し出に、烈は断固として首を縦に振らない。そんな兄を前に、豪は盛大なため息をついた。

 夏休みに入って既に半ば、今日は夏休み恒例の小学校肝試し大会の日である。
 この行事は、絶対参加ではないのだが、遅くに学校に入れると言う事で、毎年楽しみとされている行事なのだ。

「……兄貴、毎年そう言ってるけど、やっぱり怖いのか?」
 何時までたっても『うん』と言わない烈に、豪はため息をつきながら最後の手段とばかりの奥の手をだす。

「だ、誰が怖いんだよ!ボクは、宿題もしなくちゃいけないから、『行けない』って言ってるだけだろう!!大体、ボクの事なんて気にせずに、一人で行ったらどうなんだ!」

 だがしかし、戻ってきた言葉に、豪はもう一度ため息をついた。
 誰よりも怖がりである事を知っているのからこそ、その言葉がいい訳でしかないと分かっている。

「やっぱ、怖いんだよなぁ……」

 ため息をつきながら、もう一度図星をつく。
 こうまでして言われつづけた場合、烈は大抵時分の策略に嵌るのだ。

「怖い訳ないだろう!!」
「んじゃ、行こうぜ」

 自分の言葉に乗ってきた烈に、豪はしてやったりと言う表情を見せてその腕を取る。
 そして、そのまま烈をソファから立たせると、玄関へと急いだ。

「ちょっ!豪!!」

 突然腕を掴まれて、そのまま引っ張られた烈は、否応無しに豪の後を付いていくしかない。
 しかも、相手は嬉しそうに、自分の腕を掴んでいるだけに、烈は腹立たしげにその顔を睨み付けた。

「ほら!もう直ぐ集合時間なんだから、急げよ、烈兄貴!!」

 嬉しそうに自分をせかす相手に、烈は盛大なため息をついて見せる。
 流石、『お祭り好き』と素直に感心している場合ではないだろう。
 今の自分の状態ハッキリ言って最悪の状態なのだ。

「豪!!ボクは行かないと言ってるだろう!!」
「いいじゃんか!勉強には、息抜きも必要だって、兄貴言ってただろう?」

 確かにそう言った事は認めるが、これは息抜きとは言わない。
 自分にとっては、地獄への切符を貰っているような気分なのである。
 そんな状態で、息抜きなんて出来るはずもないだろう。

「ほら、諦めろよ!それに、烈兄貴は今年で最後なんだぜ。最後ぐらい参加したっていいじゃんか」

 自分の腕を引きながら、これ以上ないくらいの嬉しそうな笑顔を見せる相手に、烈はそれ以上何も言えなくなった。

 今年で、最後。

 そう、来年は烈は中学生になる。
 だから、小学生の間でしか出来ないこの行事は、今年で最後となってしまうんだ。

「最後くらい、烈兄貴と一緒に行きたいじゃん!」

 今まで一度も、参加した事のないこの行事。毎年豪は、一人で参加していた。
 怖い事が嫌いな自分を知っているから、毎年諦めていた豪も、今年で烈が最後だと言う事で、無理やり参加させる事に決めたらしい。

 そこまで言われてしまうと、烈も諦めて参加するしかないだろう。
 それに何よりも、目の前で嬉しそうに笑っている豪の姿に、既に拒否で出来なくなる。

「……分かった…・・その代わり、ちゃんと責任もてよ、豪!!」
「勿論だぜ!任せとけって!!」
 
 烈の承諾の言葉に、豪はさら嬉しそうに笑った。
 そんな弟を前に、烈は小さくため息をつく。





「だからって、何でこんな目にあわなきゃ行けないんだよ!!」

 承諾したのは、確かに自分だが、こんな話は聞いていなかった。

 そう、高学年である6年生とその下の5年生だけは、一人で肝試しをすると言うのが毎年の恒例となっているのだ。
 しかし、今回初参加の烈がそんなルールを知っているはずもなく、来た早々に聞かされたそれに、今更ながらに校舎の中で一人文句を言う。
 勿論、何度も参加している豪は、この事を知っていたのである。
 それだけに、烈は文句を言わずには居られなかった。

「あいつ、絶対に知っていてわざと教えなかったな……」

 ルールを聞いた時の烈の心境は、『騙された』と言う気持ちで一杯。
 そして、隣に居る豪を睨み付けたが、当の本人はそ知らぬ顔で、自分から視線をそらした。

「…知ってたら、絶対に承諾しなかったのに……」

 手に持っている小さな懐中電灯だけが、暗い廊下をぼんやりと照らし出す。
 それでなくっても、夜の校舎と言うものは不気味なのに、今日は曇っているため月明かりさえない為、更に後者の中を不気味にさせていた。
 そして、この肝試しが始まる前に聞かされた、7不思議の話が頭に浮かんできて、更に恐怖を煽ってくれる。
 しかも、オマケとばかりに、この肝試しの目的であるチェックポイントは、その7不思議がある場所にすべて設置されているという手の込んだ内容なのだ。
 先ほどその7不思議を聞かされたというのに、その場所へなど平気な顔で行ける人の気が知れないと、烈は再度ため息をついた。

「……このまま、戻らなかったら、心配するだろうなぁ……」

 気持ち的には、このまま帰ってしまいたい。
 だが、優等生でもある自分が、このまま何も言わずに帰ると言う事が出来ない事を、自分自身が一番分かっていた。
 しかも、負けず嫌いでプライドが高いと言う事も付け足せば、このまま逃げ帰ると言う事だけは、死んでも許せない行為である。

「……ここで、じっとしてても時間が経つだけだよなぁ……」

 自分の性格を分かっているからこそ、烈は再度ため息をつくと、第一の目的地へと歩き出した。

 今回、このイベントに参加している人数は、全校生徒の半分も満たないだろう。
 1年生〜4年生までは、数人のグループで校舎へと入る為、時間的には1.2時間で終わるのだが、5.6年生は、一人づつとあって、かなり時間が掛かるのだ。
 勿論、女の子や怖いと言う人物達は数人で行く事を許されているので、全員が全員一人で行動して居る訳ではない。
 なら、怖がりな烈も、一人でなんて行動せずに、誰かと一緒に行けば良かったのかもしれないが、ここは先ほども言ったように、高いプライドが見事に邪魔をしてくれたために、今こんな状態に追い込まれてしまったのである。

「・・…本当に、自分の性格を恨みたいよ……」

 今更ながらに愚痴を言っても始まらない。
 そんな事は分かっているが、これだけはどうしても言わずにはいられない。

「豪の、大馬鹿野郎!!」

 ポツリと呟いたはずなのに、静かな校舎の中では思っていたよりも響いてしまう。

「……それって、すげーひでぇよなぁ……」

 言って漸くすっきりしたのか、烈が満足したように第一の教室の扉を開けようとした瞬間、ぽんっと肩を叩かれて呟かれたその言葉に、烈は驚いて大声を上げそうになる。
 だが、後ろに居た人物に口を塞がれて、それは声にならなかった。

「わっ!!大声出すなよ、烈兄貴!!俺だって……」

 慌てて烈の口を押さえて、主張するように自分の顔を見せた相手に、烈は驚いて目を見開く。
 先ほどまで人の気配など全くしなかったのに、突然現れた自分の弟。

「お、お前・・…どうやって?」
「どうやっててなぁ……俺、烈兄貴の次に学校に入ったから、ずっと後ろに居たぜ」

 当然のように返って来たその言葉に、烈は一瞬何も返す事が出来ない。
 ずっと、自分の後ろに居たと言うのなら、もっと早くに声を掛けてもらいたいと思っても許してもらえるだろうか?

「・…次に入るのって、そんなに早いのか?」
「えっ?ああ、俺は特別!ちょっとさぁ、やっぱり烈兄気の事心配だったから……」

 少し照れたように自分から視線を逸らす弟に、烈は盛大なため息をついて見せた。

「心配って、お前が悪いんだろう!ちゃんと、説明しとけよな!!」
「・…やっぱ、怒ってると思ったんだよなぁ・・…だから、俺が一緒に行こうかって言ったのに……」

 烈の言葉にため息をついて、少しだけ飽きれたように呟かれたその言葉に、烈は不機嫌そうにその顔を睨み付ける。

「だから、悪かったって……xxでも、こうやってちゃんと来たから、許してくれよ」

 悪びれる事無くにっこりと嬉しそうな笑顔で言われたそれに、烈は飽きれたようにため息をつく。
 そしてここで、先ほどまで感じていた恐怖が和らいでいる事に気がついて、思わず苦笑をこぼした。

「烈兄貴?」
「・・…まっ、今回は特別に許してやるよ」

 心配そうに自分の事を見詰めて来る弟に、烈は笑顔を向けるとその頭を軽く叩く。

「んじゃ、早く行かないと、他の人に迷惑が掛かるだろう?」
「えっ?ああ……んじゃ、まずはここ、理科室から入ろうぜ」

 目の前にある扉を指差して言われたそれに、烈は少なくとも少しだけ後悔していた。

 今回チェックポイントとして用意された教室を上げると、定番の理科室を始めとして、音楽室に図工室。
 後5−3組の教室に、図書室。そして教室ではないが、2階にあるトイレと屋上。
 これらすべての場所に行った証としてスタンプを押して行くというモノ。
 それが、この肝試しの内容である。

「で、なんでよりによって、一番始めに理科室なんだよぁ〜」
「って、俺が来る前に入るつもりだったんだろう?それに、この肝試しってさぁ、別に脅かす人物とか居ないから、楽なんだぜ」

 烈の言葉に簡単に言ってのけると、豪は何の躊躇いもなく理科室のドアを開いた。
 勿論、教室の中は真っ暗で、理科室独特の異様な空気を感じて、烈は目の前に居る豪の服を思わず掴んでしまう。
 そんな烈の行動に、豪は一瞬振り返るが何も言わずにそのままの状態で、第一チェックとして置かれているスタンプを渡されていた紙に押す。
 そして、烈からもその紙を受け取ると、それにも同じようにスタンプを押した。

「ほい、まずは一つ終了!んじゃ、次行こうぜ、烈兄貴」

 そして、自分が二枚の紙を持ったまま、振り返って先を促す。
 まだ、このチェックポイントは一つ目なのである、先は間だ長いと言う事をイヤという程理解した烈は、思わず盛大なため息をつくのだった。






「なっ?何も起きなかっただろう?」

 すべてのチェックをクリアーした後、嬉しそうに言われたそれに、烈は疲れた様にその場に座り込んだ。

「おい、大丈夫かよ、烈兄貴!」

 突然座り込んでしまった烈に、豪は慌てて手を差し出す。

「な、何もなかったって、十分、怖いだろう!!」

 差し出された手を握りながら、烈は思わず文句を言っても仕方ないだろう。
 何せ、本当にこの肝試しが始まる前にこの行く場所の怖い話と言う物を聞かされているのだ、それなのに、平気でずんずんと進んで行く実の弟に烈は、恐怖を感じながらも、付いて行くのがやっとだったのである。
 そして、すべての関門をクリアーした瞬間疲れ果ててしまっても、それは仕方がないというものであろう。

「んっと、あのさぁ・・…俺が、この肝試しに、兄貴と一緒に行きたかった理由なんだけどさぁ・・…」
「ああ?」
「・・…これが最後ってのもそうだけど、烈兄貴にこうやって手を握っててもらいたかったってのが一番の理由」
「えっ?はぁ?!」

 少しだけ照れたように言われたそれに、烈は驚いてたように豪を見る。
 そう言われても、自分は別に豪の手を握ってなどいない。
 イヤ、正確には、自分が握っているのは、豪の服である。
 そして、次に言われたそれに、烈は盛大なため息をつくのだった。

「それとさぁ……知ってた?この肝試しって、終わった後にかき氷食べられるんだぜ」

 嬉しそうに言われたそれに、漸くすべてが終わったのだと思えて、笑顔を返す事が出来る。

「……たく、本当に仕方ない奴……xx」
「んっ、それだけ、俺が烈兄貴に惚れてるって事だろう?」
「バ〜カ!」

 飽きれたように呟いたそれに返されたその言葉に、烈が苦笑をこぼしながら、その頭を殴りつける。



    これは、ほんの少しの出来事。

    夏休みは、まだ何日か残っている。
    宿題だってまだ少し残っているし、遊ぶ時間だって大切。    
    そんな中で起きたほんの些細な時間。

    怖い思いはしたけれど、その分近くに感じることの出来た想い。
    まだ、夏休みは残っている。
    今日の日記は、きっと楽しく書けると思う。     
    だって、ネタをくれたのは、キミだから……xx
    ありきたりな毎日の日記が、今日だけは沢山書ける。

    最後に食べたかき氷の事とか、ねvv




 

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  って事で、801 GETのあいこさんのリクエストです。
  学校行事との事だったのですが、季節的に夏休みって事になりました。
  リクエストに答えているのでしょうか……xx

  私が小学生だった時、学校ではなかったのですが、子供会と言う地域の行事で
  肝試ししたのを思い出して書いてみました。でも、これは学校行事になってます。(笑)

  自分達は、6年生が脅かし役だったですけどね(笑)
  近くにお宮があったのでその場所でやりました。
  でも、待ってる方が怖かったですよ。何せ、森って言うか林の中で一人で待たなきゃいけないから・…xx
  しかも、おまけって言うか当然のようにお墓ありますからね。<苦笑>
   そして、お約束のようにその場所には幽霊出るって話もちゃんとしましたよ。(笑)
  今思うと、本当に楽しかったですね。
  その気持ちを、少しでも表したかったのに、今スランプ気味で、何が書きたいのか意味不明(><)
  いや、スランプじゃなくっても、意味不明になるんですけどね…・<苦笑>

   そ、そんな訳で、またしてもリクエストに答えてないものを書いたような気がします。
   す、すみません、あいこさん(><)