― 無敵な気持ち ―



「烈兄貴、キスしてもいい?」

 部屋に入ってくるなり言われた事に、烈は驚いて持っていたペンを落としてしまう。

「なっ、何、人の部屋に入ってきてそんな事、言ってるんだ!」

 余りに突拍子もないその言葉は、自分を動揺させるには十分な威力を持ち過ぎていた。
 今までも、突然な弟の行動に驚かされてきたが、今回だけは笑って許されるものではない。

「何って、兄貴にキスしたくなったから言ってるんだろう」

 当然のように返されたそれに、唖然として一瞬言葉が出てこない。
 しかも、平然とした態度なだけに、憎らしくなってくる。

「だ、だからって・・・・・・普通は、そんな事入ってくるなり言うのか!」
「何も、言わずにしていいなら、俺としてはもっとラクだけど・・・」

 シレッと言われる言葉が、どれだけ凄い事を言っているのか、本当に分かっているのかさえ疑問に思う。
 最も、本当に分かっていないから言える事なのだろうが・・・・・・。

「ば、バカな事言うな!!何が、ラクなんだ!!!」
「だって、兄貴の許可貰うのって、凄く難しいじゃん。だから、俺がしたい時に勝手にしていいんなら、ラクだし俺にとってはラッキーだけど」

 さらりと言われる事が、次々に自分の言葉を奪っていく。

「そんじゃOKって事で、してもいい?」

 しかも、トドメを刺すように嬉しそうに言われた言葉に、烈が大きく頭を振る。

「じょ、冗談じゃない!バカ、豪!どうして、そんな答えになるんだ。誰も、いいなんていってないだろう!!」
「んじゃ、何で駄目なんだよ」

 拗ねたような口ぶりで言われた事に、烈が言葉に詰まった。

 嫌な理由なんて、一つ。

 それは、『恥ずかしいから』なんて口には出せない。
 知っているくせに、そんな事を言う相手を睨みつける。

「理由、ないんだろう?だったら、OKって事じゃん」

 嬉しそうに笑っている豪を前に、烈は何も言い返せない。

 だって、豪とキスするのは嫌いじゃないから・・・・・・xx
 だから、理由がないって言うのは、間違いじゃない。

「烈兄貴、キスしてもいい?」

 もう一度、初めと同じ質問。
 少しだけ目が笑ってるのは、自分が断れないって知っているから?

「・・・・・・駄目だ・・・・・・」

 だから、少しだけ意地悪。
 どうせ、無駄だって分かってるけど、素直に頷くなんて悔しいから・・・・・・。

「どうして?」

 烈の言葉に嬉しそうに笑いながら、後ろから抱き締めてくる。

「・・・・・・お前の事が、嫌いだから・・・・・・」
「・・・本当に、素直じゃねぇよなぁ・・・・・・そんな、嘘つきな口なんて、塞いでやるよ(」

 後ろから抱き締めたまま烈の顔を上向けて、ちょっと辛い体勢のキス。
 軽く触れるだけのキスなのに、ドキドキしているのはどうして?

「ごちそうさん、確かに頂きました」

 嬉しそうに唇を離して、ウインクつきに言われたそれに、烈の顔が赤くなる。

「豪!!」
「スキだぜ、烈兄貴」

 怒鳴りつけてくる烈の頬にキス。
 そして、もう一度今度は正面からキス。

 驚いて、瞳を見開いた烈を開放してから、豪が嬉しそうに笑う。

「スキだから、キスしたいんだ。兄貴が俺の傍に居るって確認。だから、何度でもキスしよう」

 嬉しそうに呟かれる言葉に、自分が逆らえないのは、これも惚れた弱み?
 呆れたように溜息をつけば、もうそれが同意している証拠。

「・・・・・・仕方ない奴だなぁ・・・・・・でも、そんなお前がスキだって思えるんだから、ボクも仕方ないんだろうなぁ」

 苦笑しながら呟けば、パッと笑顔を見せて飛び付いて来る。

「兄貴。やっぱ、俺の事好きなんだv 」
「・・・・・・嫌いだったら、とっくに追い出してる・・・・・・スキだから、始末に終えないんだよ、バカ・・・・・・」

 呆れたように呟いて、溜息をつく。

「もう一度、キスしてもいい?」

 抱き付いたまま、お願い視線を向けてくる相手に、烈はもう一度苦笑を零した。

「・・・・・駄目って言っても、聞かないくせに・・・・・・」

 苦笑交じりに呟けば、当然とばかりの笑顔で返される。
 ゆっくりと近付いてくる顔に、静かに瞳を閉じながら待つ。

 こんな時でも、ドキドキしてるのは、相手が好きな人だから?
 重なる唇は、いつでも温かくってそこから、豪の気持ちが流れ込んでくるみたいで、凄く気持ちいいなんて、
 悔しいから、絶対に教えてやらない。

「・・・・・本当は、キス以上の事もしたいんだけど・・・・・・駄目?」

 静かに唇が離されたと同時に、呟かれた言葉。
 それと同時に真っ赤になって、殴り付ける。

「調子に乗るな!!!」

 本当に、どうしてそんな事まで平気な顔で言えるのか・・・・・・。

「いってぇ・・・・・本気で、殴る事ないだろう・・・・・・」
「殴られるような事、言うからだ、バカ!」

 殴られた頭を抱えながら文句を言う弟に、烈が真っ赤な顔のまま怒鳴りつける。

「・・・・・・本当、容赦ねぇよなぁ・・・・・・でも、今はキスだけで許しとくか」

 溜息をつきながら、豪が苦笑を零す。

「な、何が、『今は、許しとくか』だ!バカ、豪!!」
「なんで、ちゃんと烈兄貴の事、好きだから言ってるんだぜ。だ・か・ら、覚悟しとけよ、烈兄貴」

 ウインクつきで言われる事に、何も言い返すことが出来ない。
 本当に、強気な態度の相手なんて、一番厄介すぎる。

 しかも、自分の気持ちを知り過ぎている相手は特に厄介。反論したって、気持ちはバレバレ?

「本当、烈兄貴、可愛いよなぁ・・・・・大丈夫、烈兄貴がその気になるまで待つ自信、ちゃんとあるから心配しないでいいぜ」

 赤くなって黙り込んできる相手に、豪は嬉しそうに笑顔を見せてもう一度頬にキスをする。

「豪!!」
「大丈夫、兄貴をスキだって言う気持ちは、誰にも譲れないから・・・・・・だから俺、烈兄貴が絡むと無敵だぜv 」

 満身笑顔で言われる事にも、否定できない。
 今まで何度も実体験させられたから・・・・・・。
 本当に、自分の事が絡むと無敵なのだ。

「・・・・・・本当に、無敵だよなぁ・・・・・・」

 嬉しそうに自分に、抱き付いている相手に苦笑を零す。
 自分だって、相手を思うと強くなれるから・・・・・・。
 スキって言う気持ちは、何者にも負けない無敵な気持ち。

 だ・け・ど、

「お前の場合、行き過ぎてるんだよなぁ・・・・・・」

 目の前の弟を見詰めて溜息一つ。

 誰にも負けない、無敵な気持ち。
 だけど、目の前の相手にだけは負けてしまう、それって惚れた弱み?


 そんな事、絶対に教えてやるつもりなんてないけどね。





   って、事で410 GETのライジさんのリクエスト。
   答えてるんでしょうか、ちゃんと?(ドキドキ)

   ウチの豪は結局烈に弱いので、最後まで強気でいられませんでした。<死亡>
   そんな訳で、リクエストには答えてないと思います、お許しくださいライジさん。