『お兄ちゃん、ボク、お兄ちゃんの事大好きだからね!』

 真っ赤な夕日を背にしながら言われたその言葉に、言われた方の兄は優しい笑顔を浮かべた。

『ボクも、豪の事、大好きだよ……』

 自分の言葉に、嬉しそうな笑顔が向けられる。

『それじゃ、約束だよ!お兄ちゃんの事、ボクが絶対に守るから!』 

  



                              ― これも一つの愛でしょう! ― 

  



「烈兄貴!」

 突然のその声に、振り返る。
 勿論、そんな風に自分の事を呼び相手など分かっているから、確認する必要などない。

「で、何か用なのか?」

 別段、気にした様子も見せないで、盛大なため息一つ。
 それでなくっても、学校の中では、仲の良い兄弟だと言われているだけに、こうやって嬉しそうに自分の所に来る弟に、呆れてしまう。

「あのさぁ…実は……」
「……言いたくないなら、帰れ!」

 中々言い出さない豪を前に、烈は不機嫌そうに言い放つ。

「ちょ、とっと待った!だから、兄貴……今日、暇?」
「忙しい!…って、事で話は終わったな……ほら、チャイム鳴るぞ」
「……ヒデェー」

 キッパリと言われたその言葉に、豪がボソリと呟く。
 そんな弟を一度だけ睨み付けると、烈はもう一度ため息をついた。

「…分かったから、早く用件を言え!」

 面倒臭そうに呟いて、両腕を組むと、豪を睨み付ける。
 そんな表情をする時の烈は、はっきり言って機嫌が悪い。
 豪は、苦笑を零すとため息をついた。

「……実は、付いて来てもらいたい所があるんだ……駄目か?」
「…何処へだ?」
「それは、行く時に話すから……」

 自分が尋ねた事に返されたそれに、烈は呆れた様にため息をつく。
 それから、小さく頷いた。

「……分かった。その代り、母さんにはちゃんと連絡入れるって言うのが、条件だぞ」
「分かった!母ちゃんには、ちゃんと連絡する。約束だからな、兄貴!」
「……お前と違って、約束は守る……そんな事より、早く教室に戻れよ」

 ガシッと自分の肩を掴まれて念を押された事に、不機嫌そうに返してから、教室に戻る様に促す。
 後数分もすれば、チャイムが鳴って、授業が始まる時間だ。

「んじゃ、帰りにまた来るからな」

 烈に言われて、慌てた様に自分の教室へと走って行きながらも、言われたセリフに苦笑を零する。
 そして、烈も自分の教室に入って、次の授業に備えるのだった。





「兄貴vv」

 授業も終わって、帰る準備をしていた烈は、嬉しそうに自分に近付いてきたその人物に、一瞬だけ嫌な顔をしてしまう。
 こんな風に自分に近付いて来る時の弟は、要注意だと言う事は、嫌でも分かってしまうのだ。

「……で、ボクに付き合ってもらいたい場所って、何処なんだ?」

 嫌そうな顔をしながらも、ちゃんと要点を得ようとする所が流石と言えよう。
 だが、そんな自分の言葉にも、嬉しそうに笑いながら、豪がそのまま烈の荷物を取り上げる。

「行けば分かる!」
「あっ、おい!」

 行き成り自分の荷物を取り上げてしまった豪に、烈は慌ててその後を追い掛けた。
 無理やり引っ張られる事に、不機嫌そうな表情を見せながらも、されるがままの状態。

「おい、豪!いい加減に何処に行くのか教えろよ」

 先ほどから、繰り返される会話。
 もう何度目になるか分からないその台詞を呟いて、烈は盛大なため息をついた。

「後、ちょっとだって!」

 そして、同じように返されるそれ。全く変わらない問答に、烈はもう一度ため息をつく。
 そして、ふっと気が付いた事。

『あれ?ここって……』
「着いたぜ、烈兄貴!」

 見慣れた景色に気が付いた瞬間、豪の嬉しそうな声に、烈ははっとして前に視線を戻した。

 連れて来られたのは、小学生の時にはよく通っていた公園。
 高校生になった今では、全く訪れた事はなくなってしまった。

「豪!」
「……豪兄ちゃんだろう…」

 自分達の姿を見つけた瞬間、嬉しそうな声。
 何人もの少年達が、この公園で、ミニ四駆を走らせている。
 それは、小学生だった自分達も同じ。

 ここは、いい練習が出来る最高の場所だったから……。

「豪……」
「あっ!元ビクトリーズ、リーダの星馬烈!!」

 驚いて問いかけようとした瞬間、豪の後ろに居た自分に気がついた少年が、嬉しそうな声を上げた。
 突然名前を呼ばれた事に、烈は驚いて瞳を見開く。
 だって、ミニ四駆から離れてもう5年も経っているのだから、今の少年達が自分の事を知っているという事に驚かされた。

「……ボクの事、知ってるの?」
「知ってる!だって、初代のビクトリーズを優勝に導いた伝説のリーダーだから!!ミニ四ファイターが良く話してくれるよ」

 嬉しそうに説明してくる少年に、続けて我先にと少年達が烈に近付いて来る。

「ねぇ、教えて!ボク、上手くコーナーが曲がれないんだ」
「ボクも!」
「……お前ら、俺の時とは、えらい態度が違わなねぇか?」
「だって、豪は直線だけじゃんか!烈さんは、コーナーの貴公子って言われてたんだよね」

 嬉しそうに自分を見詰めてくる少年の瞳に、烈は漸く笑顔を浮かべた。
 昔、確かに自分は、『コーナーの貴公子』と呼ばれていたから、懐かしさを感じてしまう。

「……そう言えば、そんな風に呼ばれてたっけぇ……君達も、ミニ四駆好きなの?」
「大好き!!」

 全員の声が見事なまでに重なって返された事に、烈は満面の笑顔を見せた。
 昔、自分もこの位の時には、そう言って走り回っていたのだ。
 今隣に居る人物と共に……。

 だが小学校を卒業してからは、時間も無くなった事から、ミニ四駆からも離れてしまったのである。
 子供達にセッティングの方法を教えながら、烈は昔の懐かしい気持ちを思い出した。
 そして……。

「もう帰らねぇと、ウチの人が心配するぜ」

 空が薄暗くなってきた頃、豪が皆を促すように言葉を掛ける。

「え〜!」

 何人かの子供達が、文句の声を上げるのに、烈は思わず苦笑を零す。
 まるで、昔の豪を見ているようである。

「また、一緒に遊べるから、今日は帰る事!それとも、もうセッティング教えて貰いたくないのかなぁ?」

 苦笑を零しながら、烈も皆に帰るように声を掛けた。
 だが、それは半分脅し……。烈の言葉に、全員が慌てて素直に頷いて返す。

「また、絶対に教えてね!約束だよ!!」

 真剣な瞳で自分の事を見詰めてくる少年達に、烈は楽しそうな笑顔を見せた。

「……学校の宿題とかを、ちゃんとしない子には教えないからね。だから、帰ったら、ちゃんと宿題するんだよ」

 烈の言葉に、皆が良い子の返事を返す。
 それに、満足そうに頷いて、また一緒に遊ぶ事を約束すると、子供達は納得したように帰っていった。

「……お疲れさん、兄貴……」

 そんな子供達を見送った後に、ポンッと肩を叩かれて、振り返れば嬉しそうな豪の瞳が自分を見詰めている。

「……お前が、最近帰ってくるのが遅い理由が分かった……xx」

 盛大なため息をついて、烈はその場にしゃがみ込む。
 本当に、久し振りなのだ、こんなにはしゃいだのは…。
 呼び出しなどの喧嘩なんかとは、全く違う感覚。懐かしいと感じるそれは、確かに自分を楽しませてくれるものだから……。

「兄貴、最近、勉強ばっかりだったからさぁ…息抜きしたいだろうと思って…」
「…十分、息抜き出来た……まぁ、久し振りに、ストレス解消にはなったな……なぁ、豪…ここってさぁ……」

 苦笑を零しながら烈がゆっくりと、豪の事を見上げる。

「なに?」
「……何でもない!」

 すっと勢い良く立ち上げると、烈はそのままゆっくりと空を見上げた。
 既に夕日の光も殆ど無くなったその空には、幾つもの星が小さな光を放ちながら瞬いている。

「…豪……」
「んっ?」

 そんな星空を見上げながら、烈は自分の後ろに居る弟を振り返った。
 そして、悪戯を考えついたように、そっと口の端を上げて笑う。

「兄貴?」

 不思議そうに自分の事を見詰めてくる弟に、烈はゆっくりとした動作で、その唇に自分の唇を重ねた。
 時間にすれば、ほんの一瞬の出来事に、豪は驚いてそのまま固まってしまう。
 そんな弟の姿に、楽しそうに笑いながら、ぺロッと舌を出す。

「……数年前の仕返しだ!ちゃんと、返したからな、豪!!」

 楽しそうに笑いながら、烈が満足そうに踵を返した。
 そして、その言われた言葉に、豪は思わず自分の口を抑えたまま、顔を真っ赤にして、その後姿を見詰めてしまう。


『お兄ちゃん、ボク、お兄ちゃんの事、大好きだからね!』

 真っ赤な夕日を背にしながら言われたその言葉に、言われた方の兄は優しい笑顔を浮かべた。

『ボクも、豪の事、大好きだよ……』

 自分の言葉に、嬉しそうな笑顔が向けられる。

『それじゃ、約束だよ!お兄ちゃんの事、ボクが絶対に守るから!』
『ああ、絶対に、守れよ、豪!!』
『うん!約束の、しるしだよ!』

 そう言って、キスをしたのは、もう何年も前の話。
 そして、その場所は、今自分達が居るここなのだ。

「あ、兄貴!」
「ほら、帰るぞ!」

 先に歩き出していた烈が、振り返って自分を呼ぶ。
 一瞬驚いたように見詰めた後、豪は呼ばれるままに走り出した。
 自分の事を待たずに先に歩き出している兄に、慌てて追い付くと、豪はその隣に並ぶ。

「なぁ、兄貴vv 兄貴の事は、俺が守るって言う約束も、覚えてるって事なんだよな?」

 そして、嬉しそうに笑いながら言われたその言葉に、烈は一瞬呆れたような表情を見せるが、直に意地の悪い笑顔を見せる。

「……お前にちゃんと守られてやるよ。だから、ちゃんとボクの事を、見張ってろよ!」

 ニッと笑顔を見せて言われたその言葉に、豪は一瞬、自分の言った言葉を後悔しそうになる。
 今、この兄を守れるという自信など、脆くも崩れてしまいそうだ。
 手当たり次第、喧嘩を売るような兄である。
 それだけに、本当に見張っていないと、自分の見ていない所で、何かを引き起こしそうな可能性の方が高い。

「……俺、もしかして、早まったか……」
「ボクのファーストキスは高いんだから、その分ちゃんと働いてもらうぞ、豪!」

 楽しそうに笑っている実の兄の姿に、豪は思わず苦笑を零す事しか出来ないでいる。
 きっと、どんな風になったとしても、自分はこの兄にだけは、勝てないと自覚しているのだ。

 それは、大好きな人だから……。

 何よりも、大切な人。
 かけがえのない、たった一人の大事な人。

 だから、これも一つの愛なのかもしれない……
 例え、目の前の人に勝てないとしても……。

 

   

 

 

     えっと、1000HITリクエストです。
     お題は、『最強烈兄貴で、ゴーレツ!』だったのですが……xx 見事に、失敗ですね<苦笑>
     このシリーズで、ゴーレツは、本当に難しかったです。(言い訳 ><)
     折角、リクエストを頂いたのに、本当にすみません、ぴあのさん。
     本当に、リクエストに答えるのって、難しいですね。<苦笑>
     もっともっと、精進しなくっては、いけません。頑張ろう!!