|
「なぁ、兄貴は何の競技に出るんだ?」
何気ない問い掛けに、烈は興味無さそうで返事を返さない。
「なぁなぁ、兄貴てば!」
烈が勉強をしている時は、相手にされないと分かってはいても、返事が返ってこないのは悲しいものがあるのだ。
それが、例え烈の怒りを買うと分かっていても、やはり相手をしてもらいたいと思ってしまう。
「煩い!ボクは、今勉強中だ!お前と違って、今年受験なんだぞ」
「……受験の前に、体育祭あるじゃん……」
ボソリと呟けば、ギッと睨まれる。
それに、ビクビクしながら、豪はもう一度だけ問い掛けた。
「んで、兄貴は、何に出るんだ?」
懲りると言う事を知らない弟に、烈は諦めた様に盛大なため息をつく。
「……確かに、体育祭まで後数日ってところだけどなぁ……お前には教えてやらない!」
「何で!!俺が出るのは知ってるくせに、卑怯だぜ」
文句を言う弟を前に、もう一度盛大なため息をついて、烈は持っていたペンを机の上に置いた。
「別に、知りたかった訳じゃないだろう!お前が勝手に教えてくれたんだからな」
呆れた様に言われたそれに、豪が言葉に詰まる。
確かに、自分が話題の為に話をしたのは本当だから……。
しかも、リレーの代表に選ばれたと言う事を、ただ誉めてもらいたいからである。
もっとも、それに対しては、『バトン落して、迷惑掛けるなよ』と言う冷たいお言葉を貰ったのは、ずいぶん前の話であるが…。
そして、その日からずっと烈が何の競技に出るのかを聞いているのだが、今だ教えてもらっていない。
練習をしているはずだから、分かるだろうと思っていたのだが、この学校ではいくつかの練習場所に分かれてしまうので、今まで烈が練習をしている姿も見たことはないのだ。
「…明日、総合練習だろう?その時に分かる……」
じっと自分の事を見詰めて来る弟に、再度ため息をつくとその視線を逸らした。
「ちぇ……」
また自分の事を無視したように参考書に目を向けた烈の姿に、豪は面白くなさそうに呟くと、その場に寝転ぶ。
「…お前、用事無いなら、自分の部屋に戻れよ」
もう声を掛けられると思ってなかった豪は、そう言われた瞬間不貞寝する事になってしまった。
そして、その次の日に行われた総合練習が、全ての始まりになる。
― 賭けの勝敗 ―
本番まで、2日。
総合練習も終わって、皆が体育祭の準備に忙しそうにしている。
今年3年になる烈もそれは、例外ではなかった。
元々、先生のウケがいいので、その分余計な仕事も回されてしまうのだ。
「……これで、最後かなぁ……」
最後の確認をしてから、競技に必要なモノとをもう一度頭で考え直して、烈は満足そうに頷いた。
「よし!」
最後の確認も終了してから、何気に外を見れば、既に暗い。
「……こんな作業って、一人でやるべきじゃないと思うんだけどね…」
苦笑を零しながらも、取り合えず終わった事に満足そうにしながら、部屋の鍵を掛け先生に報告。
『ご苦労さん』と言う簡単な言葉を貰ってから、職員室を後にする。
「…早く帰らないと、母さん心配するよなぁ……」
時計を見れば、既に7時を回っていた。何も言ってきていないので、きっと心配しているだろうと思うと、早足になってしまう。
別に、遊んでいた訳ではないが、やはり余計な心配はさせたくない。
「……生徒が、こんなに遅くなってるって言うのに、先生も手伝ってくれればいいのに……」
思わず愚痴を零してから、ため息をつく。
下校時間の過ぎた学校は、はっきり行って不気味で、恐い。
廊下の電気は、既に消されているのだ。
恐がりだと自覚している自分には、嬉しくない状態であろう。
「……早く、学校から出よう…」
呟いて、慌てて自分の教室へと鞄を取りに行く。
この時、鞄を持って来ていなかった事を、烈は後悔していた。
「…当然だけど、教室は暗いし……人なんて、誰も居ないだろうなぁ・・…」
ビクビクしながら、教室の戸を開く。
そしてその瞬間…。
「遅い!」
声が掛けられて、烈は大きく肩を振るわせた。
まさか、誰か人が居て、声を掛けられるとは思っていなかっただけに、驚くなと言う方が無理な話だろう。
だが、その声に聞き覚えが合ったため、何とか悲鳴を上げずに済んで、ほっと胸を撫で下ろす。
「…豪…お前、帰らなかったのか?」
「兄貴に用事があったから、待ってた。ほい、鞄」
すっと差し出されたその鞄を受け取って、烈は内心嬉しい気持ちを隠せない。
「で、用事ってなんだ?」
「兄貴、リレー出るんだろう?」
内心の気持ちを隠すように、素っ気無く質問した事に逆に聞き返されて、烈は思わずため息をつく。
今日の総合練習で、自分がなんの種目に出るのかはバレてしまった。
「・・…一緒に並んでたんだから、そう言う事になるんだろうなぁ……」
ため息をつきながらその問い掛けに答える。
自分が、そのリレーに出るとは思っていなかったらしい豪の驚きは、あの表情から伺えたが、まさかそんな事を聞く為に、こんな遅い時間まで自分のことを待っていたと言う豪に、正直呆れてしまう。
「……あの並びだと、兄貴もアンカーって事?」
「し、仕方ないだろう!決まったんだから……ボクだって、出来れば避けたかったんだよ!」
「悪いなんて言ってねぇよ……たださぁ、これって、久し振りの兄弟対決じゃん」
「はぁ?」
いわれた事の意味が分からなくって、思わず聞き返す。
しかし、目の前には嬉しそうな顔をした弟の姿があって、烈は思わずため息をついた。
「……兄弟対決って……ただの体育祭のリレーだぞ……」
「リレーでも何でも、久し振りに兄貴と競えるんだって思ったら、俺わくわくしてるんだよ!だからさぁ、俺と勝負しようぜ!」
「勝負?」
「そう!リレーで勝った方の言う事を何でも一つだけ聞くっていうのvvあっ!兄貴が勝ち目ないって思うんなら、やんなくってもいいぜ」
ニコニコと嬉しそうに語られたその言葉に、烈がピクッと反応を返す。
そんな言われ方をすれば、烈が断らないと知っている豪の作戦勝であろう。
「誰が、お前になんて負けるか!その勝負、受けてやろうじゃないか!!」
「そうこなくっちゃなvvんじゃ、烈兄貴、2日後を楽しみにしてるぜって事で、早く帰らねぇと、母ちゃんが心配してるんじゃねぇのか?」
「あっ!そうだった……」
言われて慌てて荷物を持つと、二人同時に教室を後にした。
そして、体育祭当日。
見事なまでの晴天。
こう言うのを秋晴れと言うのだろう。
「……今年の2年のリレー選手にお前の弟出てるよなぁ?」
「出てるけど?」
突然尋ねられた事に、烈は自分の隣に座っているクラスメートに視線を向けた。
「……裏で、兄弟対決を楽しみにしてるヤツが多いって聞いてるぜ」
そして続けていわれた事に、思わず苦笑を零す。
兄弟対決。確かに、自分と豪がリレーのアンカーを勤めている事は否定しない。
しかし、そんなことを楽しみにさるのは、はっきり言って迷惑な話である。
「……お前も足早いけど、弟も早いんだろう?どっちが勝つかって、みんな言い合ってるんだぜ」
少しだけ興奮した様に言われたそれに、もう一度苦笑を零す。
そして、ため息をついた。
豪ともその事で賭けをしているのだ。
勝った方のいう事を一つ聞く事。勿論負けるつもりは全くない。
しかし、だからと言って勝つ自信があるわけでもないのである。
「……こればっかりは、時の運だってあるわけだしね……・」
思わずため息をついて呟いたそれに、友人は少しだけ不満そうに烈を見た。
「おい、負けるなよ!リレーで優勝出来るかが決まるんだぜ」
「……努力はするよ。ボクだって負けたくはないからね」
今の競技が終わって、2年と3年の点差は殆どないと言っていいだろう。1
年に関しては、2.3年の迫力に押されて、全く点数になっていない。
「それじゃ、そろそろ行こうかなぁ……」
余り乗り気ではないが、もうすぐリレーになってしまうのを確認して、烈はクラスメート全員から激励を受けて集合場所へと急いだ。
「……兄貴!」
「豪……」
そんな自分に後ろから声を掛けられて、振り返る。
そこに居たのは間違いなく自分の弟で……。
「賭け覚えてるよな?」
「……ああ…先にゴールした方の勝ちでいいんだったよなぁ?」
「おう!久し振りに、兄貴と競えると思うと、わくわくするぜvv」
嬉しそうにしている豪を前に、烈は苦笑を零した。
兄弟対決。ミニ4駆をしていた小学生の時は、良く勝負していた。
しかし、中学に上がってからは、そんなチャンスも無くって、本当に久し振りの兄弟対決になるのだ。
どちらが勝っても、可笑しくはないと言う程、二人の実力は十分と言ったところである。
「負けないからな、豪……」
「おう!俺だって同じだぜ!!」
にっと笑い合うと、二人はそのまま運動場へと移動して行った。
最後のリレー競争とあって、やはり盛り上がりを見せている。
第一走者がスタートしたと同時に、ワッと歓声が上がった。
それを見守りながら、烈と豪はお互いの顔を見合わせて、小さく頷く。
どんどんと進んで行く選手達の中、最後の自分達は、ただ自分達の出番を見守った。
そして、烈達のチームが3位、豪達のチームがそのほんの僅かな差で4位でバトンが渡されたと同時に、二人はそのままゴールに向けて走る。
3位と4位の差は殆ど無かったが、1位と2位の差は結構合ったはずなのに、二人がスタートした時点で、その差があっという間に無くなってしまう。
トラック半周もしない内に、二人が並んでトップの人物を負い越し、そのままぐんぐんと差を広げて行く。
どう見ても、他の誰も二人に追いつく事は出来ない。
そのままのスピードで、二人が同時にゴールのテープを切る。
「……3年!」
そして、ゴールに居た人物が、どちらが先に入ったのかを大きな声で知らせたのと同時に、賑やかな声が沸きあがった。
「……ちきしょう!…俺の負けかよ……」
肩で大きく息をしながら、言われたその言葉に、烈も同じように肩で息をしながら笑顔を見せる。
「……一様、兄貴としては、勝っておかないと、示しがつかいないだろう?」
「……なんだよ、それ…」
「言葉通りだ……それじゃ、賭けの内容は、楽しみに待ってろよ」
ニッと笑顔を見せて、烈がポンッと豪の肩を叩いた。
「わぁってるよ!!」
面白くなさそうに言われたその言葉に、烈がもう一度笑顔を見せる。
そしてリレーの結果、その年の優勝は見事に3年のものとなったのだった。
「で、豪くん…ボクからのお願いなんだけど……」
ニッコリと休日に言われたその事に、豪は盛大なため息をつく。
賭けをした事を後悔しても始まらないが、これはあんまりな無い様ではないだろうか?
「……兄貴、少しくらいは手伝ってくれよぉ〜!」
「お前が言い出したんだろう。ちゃんとやれよ。母さんの手伝い、たまにはちゃんとしろよな!」
庭の草むしりを全て任されて、豪は文句を並べていた。
烈のお願い事が、まさか一日母親の手伝いをする事!だった為に、今日は一日烈の監視付きで、母親に用事を言われつづけているのだ。
「ほら、手を休めるなよ!」
「くそ〜!もう二度と烈兄貴と賭けなんてするもんか!!」
秋晴れの中、空しく豪の叫び声が響き渡る。
それを烈は、ただ楽しそうに眺めているだけだった。
そしてその日、母親が随分と楽が出来たと喜んでいたとか……。

そんな訳で、(どんな訳なのかは、謎ですけど<苦笑>)6000HITリクエスト小説です!
『運動会』だったのですが、お答えしているのか不安です。<苦笑>
こんなお話ですみません、ミサキさん……xx ヘタなので、これが精一杯なんです。
そんな訳で、リクエスト有難うございました。
こんなヘボ小説で宜しければ、また宜しくお願いしますね。
|