「そう言えば、気になったんだが」
と勉強をしている最中に、邪魔するように言われたそれに視線を偽赤ん坊へと向ける。
家庭教師とは名ばかりの、自称世界一の殺し屋である偽赤ん坊はその仕事を完全に放棄した状態で直ぐ傍で優雅にコーヒータイムを満喫中らしい。
「リボーン、何が気になったの?」
そんな偽赤ん坊にが、不思議そうに問い掛ける。
確かに、何の前フリもなく言われたのだから、気にならないと言えば嘘になるだろう。
オレも、同じように視線で偽赤ん坊へと問い掛けた。
「綱吉が、ヒバリの事をさん付けで呼んでいるのが、不思議だったんだぞ」
オレ達の質問に対して、きっぱりとした口調で言われた内容に複雑な表情をしてしまった。
別段、そんな事を気にされても、自分には関係ないと言えばそれまでだ。
しかも、本当に今更な質問と言っても良いだろう。
こいつが来て、もう直ぐ一年になると言うのに……
「何で、そこで不思議に思うの?恭弥さんは先輩なんだから、普通だと思うんだけど……」
「オレも同意見だけど、何?それとも、ヒバリ先輩と呼んだ方がいいの?」
だけど、オレが返すよりも先に、が何でそんな事を思うのかが分からないと言うように首を傾げて当然の事を言う。
オレも、その言葉に同意して逆に聞き返した。
「お前が先輩と言うのは、気持ち悪いぞ」
しかしそれは、直ぐに拒絶される。
多分、ヒバリさんに言ったとしても同じような反応を見せるだろう。
……ちょっと、嫌がらせでやってみたいかも………
「……ろくな事考えてねぇな」
「別にいいだろう。で、それなら、何が気に入らないんだ?」
ヒバリさんへの嫌がらせを考えたオレに、それを読んだのだろうリボーンがため息をつくのに、睨み付けて聞き返す。
本気で、こいつが何を言いたいのかが理解できないんだけど
「気に入らねぇんじゃなくて、気になったんだぞ。お前なら、先輩だろうがなんだろうが相手を呼び捨てにすると思ったからな」
「……流石に、そこまで常識捨てているつもりはないけど」
オレの言葉に返されたあまりの言葉に、盛大なため息をついて返す。
心の中では確かに呼び捨てにする時もあるが、流石に年上を呼び捨てにするほど常識を捨てているつもりはない。
でも、初めは確かに仮にも先輩だからとさん付けしていたのだか、今なら、呼び捨てにしても問題ないだろう。
多分、ヒバリさんも、そんな事を気にするとは思えない。
まぁ、呼んでも『何、君生意気だよ』とか言って、喜んで咬み殺しに来そうだよね、あの人の場合。
それでいて、多分言うほど気にしてないんだから、性質が悪い。
結局は、戦いたいだけなんだよね。
「まぁ、初めは確かに仕方なく呼んでたのは否定しないよ。でも最近は、慣れの方が大きいかな?」
「慣れか?」
だけど、素直にさん付けしていた事に対しての気持ちを言えば、リボーンが問い返してくる。
慣れ。
今の現状を一言で言えば、これに尽きるだろう。
初めから呼び捨てにしてれば、それが当然になるように、さん付けをしていればそれが当たり前の呼び方になる。
それを証拠に、笹川の事を京子ちゃんと呼ぶのにも最近では慣れてきた。
「そうだな、慣れだね」
「そうか、慣れか……」
質問に対して頷いて返せば、リボーンも納得したように頷く。
そう言えば今まで考えた事もなかったけど、学校の先輩達に対して個人的に先輩と呼ぶ奴が一人も居ない。
笹川京子の兄は、笹川兄だし、持田に至っては呼び捨てだ。
そう思うと、オレは可愛くない後輩と言う事だろう。
もっとも、呼びたいと思う奴がいれば、自然とそう呼ぶのだから、並盛にはそう思う奴が居ないと言う事だ。
「慣れって言えば、俺も漸く恭弥さん呼びに慣れてきたし、山本の事を武って、呼ぶのにも慣れてきたかなぁ」
「ああ、クラスが一緒になって、山本から武って呼ぶように言われていたからね」
慣れと言う言葉に、がしみじみと口を開く。
それに対して、オレは思わず苦笑を浮かべた。
2年に進級してから、オレとは同じクラスになっている。
勿論、山本と獄寺、京子ちゃんも同じクラスだ。
それに伴って、山本はに名前呼びを定着させる事に成功したし、京子ちゃんは京ちゃんと愛称で呼ばれる程に仲良くなっている。
「呼び方って、確かに色々あるけど、相手が呼んで欲しいモノで呼ぶのが一番なのかなぁ?」
「確かに、相手がそう呼んでもらいたいからこそだろうからね」
山本は、オレに武呼びを要求しない。
だらからこそ、名前で呼んで欲しいと思ったのだろう。
ヒバリさんも、同じだ。
に名前で呼んで欲しいからこそ、『恭弥』呼びを要求している。
それは、呼んで貰いたいからこそ、そう望んで口に出されたモノなのだ。
「俺はね、ツナに『』って呼ばれるの好きだよ」
そう言って、が嬉しそうに笑う。
確かに、それはオレも同じだ。
から『ツナ』と呼ばれるのも『綱吉』と呼ばれるのも、特別であり、ずっと呼ばれていたいとそう素直に思える。
「オレも、に呼ばれるのが好きだよ」
この世界で一番大切な相手だからこそ、そう思えるのだ。
呼び方はみんなと同じであったとしても、それだけが自分にとっては何よりも特別な呼び方。
「いつまで休憩してやがる、さっさと勉強始めねぇか!」
二人で笑い合っていれば、折角存在を忘れていた相手から声が掛けられる。
「お前が邪魔したんだろうが!」
それに対して、文句を言っても相手が気にするはずもなく、ため息をつきながら苦笑を零していると勉強を再開した。
それは、本当に些細な事。
君に呼ばれるその名前こそが、自分にとっての特別。