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「ひでぇ!!」
屋上のドアの前で、俺は途方に暮れていた。
必死でドアノブを回すが、ガチャガチャと音がするだけで一向に開こうとしないドア。
「俺がここに居るって知ってるはずなのに!!!」
そりゃ、確かに寝扱けていた俺も悪いかもしれないけど、だからって閉め出しする事はないと思うんだ。
「……諦めるしかないか……」
誰かに連絡しようにも、携帯は部室の鞄の中。
って、鞄をそのまま部室に置いてあったのに、何で誰も心配してくれないんだよ!
「そりゃ、必死でお金溜めて買ったカメラの試し撮りだって言って出て来たけど……」
いや、うん、それはめちゃめちゃ堪能して幸せ感じたから、昨日興奮して寝られなかったって言うのもあって、ちょっとだけ寝ちまった俺が悪いかもしれないけど……
「有得ないだろう!」
だからって、屋上で閉め出し食らうなんて思ってもいなかったんですが!!
部活仲間が、冷たい。
一人でもいいから、様子を見に来てくれてもいいと思うんです。
だって、帰ってこなかったら心配するもんじゃないんですか?!
「……まぁ、一晩くらいここに居ても問題ねぇだろうけど………」
季節は春。
凍え死んでしまう事は、ないだろう。
もっとも、ちょっとだけ肌寒いと思うのは目を瞑ろう。
「くそ、こうなったら、写真撮りまくってやる!!」
今日は満月だ、こんな日は綺麗な写真が撮れる。
月光の光だけで撮った写真は、幻想的で俺の好きな撮り方。
カメラを構えて、空の月を一枚。
うん、高性能のカメラだとぼやける事無く綺麗な写真が撮れるよな。
「さて、後は…………」
「もう、勘弁してくれ!!」
閉め出しを食らった身としては、諦めて写真を取りまくる事にして、まずは満月の写真を数枚撮って満足した俺は次に何を撮ろうかと考えていた瞬間、突然の声が聞えて意識をそちらへと向けた。
視線を向けた先には、校門前に数人の不良と、あれって噂に高い風紀委員長の雲雀恭弥。
それから聞えて来たのは、明らかに相手を殴っているだろう音と、殴られている相手の悲鳴。
「……最悪だな………」
暴力は嫌いだ。
自分が弱い事を知っているからこそ、余計に嫌い。
強さは、力ではない。何て良く言っていた俺の親父は、その暴力によってこの世を去った。
理不尽なリンチ。
集団で、たった一人をボコボコにして何が強いだ。何が、正義だ。
「………くそ、胸糞悪い!折角閉め出し食らったのを諦めたのに…………あんなもん見せんじゃねぇ」
だから、暴行されるシーンを見ると、その事を思い出す。
たった一人で俺を育ててくれた親父。
だからこそ、理不尽な暴行を受けてこの世を去った時、俺はそいつ等を本気で憎んだ。
何が親父狩りだ。
ただ無差別に誰かを傷付けてるだけじゃねぇかよ……
「ねぇ、そこで何してるの?とっくの昔に下校時間は過ぎてるんだけど?」
ムカムカする気持ちを必死で落ち着かせようとしている俺の耳に、突然誰かの声が聞えて驚いて顔を上げれば今まで何度試しても開かなかった扉を開いて、先程まで下にいた筈の雲雀恭弥の姿があった。
「い、何時の間に………」
ほんの数分前に校門の所に居たはずなのに、何でこの人ここに居るんだ?
やっぱり、人間じゃないとか………
「ねぇ、聞いてるの?」
信じられない事に、ポツリと呟いた俺の言葉に、不機嫌そうに雲雀恭弥が再度質問してくる。
「……閉め出し、食らってたんだよ!好きで居たんじゃねぇ」
それに俺は雲雀恭弥から視線を逸らしながら、言葉を返した。
これ嘘じゃない。本当の事。
誰も、俺の事を迎えに来てくれなかったから、否応無しにここに居るだけ……。
どうせ家に戻らなくても、誰も心配してくれる奴は居ない。
「ふーん、で、泣いてたの?」
「はぁ?」
雲雀恭弥から顔を逸らして、言った俺は再度質問された内容に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
泣いてるって、誰が………
「俺……」
その言葉を否定しようとした瞬間、ポタリと流れた涙。
確かに、俺は泣いていたらしい。
だからって、閉め出しを食らったのが理由じゃねぇからな!!
俺が泣いている理由は、親父が死んでいた時の事を鮮明に思い出したからだ。
ただ、偶々その場所を通たってだけで、殺された親父の事を………。
「2年B組」
信じられない事に、俺が慌てて涙を拭った瞬間、名前を呼ばれてビクリと肩が震えた。
なんで、こいつが俺のクラスや名前を知ってるんだ?
「もう遅いから、送っていくよ」
信じられないと言うように相手を見れば、盛大なため息とともに言われた言葉。
「いや、別に、送って貰わなくても……」
「早くしないと、置いて行くよ」
って、人の話を聞けよ!!
ボソボソと言った俺の言葉など全く聞く耳持たずに、雲雀恭弥が促すように言葉を続ける。
ここで逆らったら、俺は外の連中と同じ運命を辿る事になるんだろうか?
暴力に屈するつもりは全然ねぇけど、だからって好き好んでボコボコにされる趣味は持ち合わせていない。
渋々、俺はその場から立ち上がって、大事なカメラを片手に慌てて雲雀恭弥の後を追いかけた。
「遅いよ」
雲雀恭弥は、先に校舎の中に入って、俺の事を待っていてくれたらしい。
校舎に入った俺に、文句を言ってくる。
「………すみませんね…………」
「ああ、そこちゃんと鍵閉めておいてよ」
複雑な気持ちで謝罪した俺に、雲雀恭弥は全く気にした様子もなく、戸締りを促してくれました。
はいはい、ちゃんと鍵締めさせて頂きます。
って、ここの鍵って、内鍵なのか?普通屋上って、外に鍵付けるもんじゃねぇのかよ!
「君、荷物は?」
「………部室に……」
信じられない事実に、驚愕としていた俺に、続いて質問されて、素直に言葉を返す。
「そう」
って、返事それだけなんですか?!
部室って言っただけなんですけど、どうしてそれだけで返されるのか、謎なんですけど………。
普通は、部活何?とか、聞き返すもんじゃねぇのか?それとも何か、こいつ学校在中生徒の名前と部活全部把握してるのか??
…………ありえねぇだろう、それは………
「確か、写真部だったよね?」
って、マジですか?本気で、把握してる……人間じゃねぇだろう、こいつ!
信じられないモノでも見るかのように、目の前の人物を見てしまう。
さ、流石は、並盛最強にして最恐の風紀委員長様。
「何?違ったの?」
「いえ、違いませんけど、何で、俺の事そんなにご存知なんでしょうか?」
何も言わなかった俺に、雲雀恭弥が質問してくる。
そんな相手に返事を返して、逆に聞き返した。
「………どうでもいいでしょ、そんな事」
って、何でそこで顔を逸らすんだよ!!
しかも、照れているように見えるのは、俺の気の所為だよな?!
うん、絶対に気の所為だ。
「早く、荷物取ってきてくれる?」
恐々と、俺は雲雀恭弥の後に続いて階段を下りていれば、辿り着いたのは俺の所属している写真部の部室となっている理科室。
ここなら水道もあるし、暗幕カーテンあるから現像も出来るんだよな。時々科学部とかち合うのだけが難点だけど………
んで、さっさと荷物を取って来いって言われたから、素直に頷いて理科室に入った。
って、こんな暗闇で理科室に一人で入るのは、結構勇気いるんだけど………
チラリと思わず雲雀恭弥を見てしまって、慌てて首を振る。
こいつに付き合ってもらうのも、一種の恐怖だよな。一人で行くのと、付き合ってもらうのを選ぶとすれば、一人で行く方が安全そうだ。
「何?怖いの?」
チラリと視線を向けた俺に、雲雀恭弥が質問してくる。
いや、普通に考えれば怖いだろうが!だって、真っ暗な中で理科室だぞ!!標本とか人体模型が普通に置いてあるんだからな!普通の人間なら怖がるだろう!!
「一緒に行ってあげてもいいけど」
「………一人で行く」
「遠慮する事はないよ、」
って、人の名前フルネームで呼んでんじゃねぇぞ、雲雀恭弥!って、俺もずっとフルネームで呼んでたっけ……xx
「……んじゃ、一緒に行ってくれんのか?」
ここで、意地を張っても良かったんだけど、真剣な目で見られて思わず信じられない言葉が自分の口から漏れてしまった。
いや、だから、俺は一人で行く方が安全だと………
「いいよ」
俺のその言葉に、クスリと雲雀恭弥が笑う。
くそ、満月の光に照らされて、すげー綺麗だなんて思ったのは、きっと全部月が見せた幻だ。
「ほら、行くよ」
余りにも綺麗な雲雀恭弥を見ていられなくって、顔を逸らした瞬間うでを掴まれて、そのまま理科室に連れて行かれる。
「ちょ、ちょと待って!」
突然の行動に、俺の方が驚いた。
なんで、そんなに平然としてられるんだ、こいつ?
「待てない。で、荷物は何処?」
ツカツカと教室に入って、雲雀恭弥が中を見回す。
月明かりがあっても、やっぱり教室の中は暗くって、何だか怖い。
一人で居る事には、慣れた筈なのに、その恐怖に思わず雲雀恭弥の腕を掴んでしまう。
「?」
思わず縋るように雲雀恭弥の腕を掴んでしまった俺に、聞えて来たのは俺の名前を不思議そうに呼ぶ雲雀恭弥の声。
「……でいい……」
「そう、なら、僕の事も恭弥って呼びなよ。君には特別許してあげる」
何だろう、名前呼ばれたら、ちょっとだけ安心した。
でも、高飛車な態度で名前呼ぶことを許してもらっても嬉しくないんですけど………
「君、暗闇が苦手なのかい?」
それでも、震えるのは止められなかった。
月明かりが届かない部屋の暗さは、俺にとっては恐怖でしかない。
親父を亡くした時の事を思い出すから…………
誰も居ない部屋。明かりを点ける人もなく、俺はただずっと膝を抱えていた。
「好きじゃないだけ………思い出したくない事、思い出すから…………」
親父が亡くなったのは、そんなに昔じゃない。
もう直ぐ一年。
全ての手続きなんかは、親父の友人だと言う人がしてくれた。
俺の事も引き取ってくれるって言ってくれたけど、全く知らない人に世話になる事も出来ず、俺は一人で親父と一緒に暮らした家に居る。
そんなに大きくない一軒屋。近所の人達もいい人ばっかりで、良く俺の面倒を見てくれる。
だけど、夜はあの家に、俺一人で……。
「そう、いいよ、掴まってて……鞄は、僕が持って行くから」
って、鞄もう見付けてたんだ……俺、自分で置いた場所さえ記憶になかったのに………
それに、優しく俺の事を抱き寄せた雲雀恭弥は、今まで俺が持っていたイメージを全て覆してくれた。
何で、こんなに俺に優しくするんだろう?
さっき、学校の前で不良達を咬み殺していたなんて、信じられないんだけど……
「ねぇ、このメッセージって、君宛みたいなんだけど?」
ギュッと与えられる温もりに縋った瞬間、言われたその言葉に、顔を上げる。
「何?」
「『先に帰る!以上』だそうだよ」
俺の鞄は、机の上に置かれてて、その上には、ご丁寧にメモが置かれていた。
って、人の事を放って置いて、先に帰ったんだな、皆!薄情者!!
メモを読んでくれた雲雀恭弥に、俺が複雑な表情をしたのは仕方ないだろう。
それにしても、この暗闇で良く文字が読めるよな、こいつ。
「おまえって、猫みたい……」
「何、それ?」
思わずポツリと呟いたそれに、不機嫌な声が返されて、思わず笑ってしまった。
何でだろう、こいつとは初めて話すのに、こんなに落ち着いていられる。
この学校では、恐れられている風紀委員長のはずなのに………
「下らない事言ってないで、さっさと帰るよ」
こんなにも落ち着いていられるなんて、ほんの数分前には想像もしてなかった。
だって、こいつは親父を殺したあいつ等と同じ……………違う、同じなんかじゃない、こいつは、あいつ等みたいに集団で一人を襲う何て事はしない。
寧ろ逆。
「ねぇ、確か一人暮らしだったよね?」
それを思い出した瞬間、声を掛けられてハッとする。
何で、同じだ何て思ったんだろう。
こいつは、誰とも群れたりしない。理不尽とも言える暴力だけど、こいつにはちゃんと理由がある。
「えっ、ああ……それが?」
「だったら、このまま僕の家に連れて行っても問題はないよね?」
「はい?」
そう言えば、まだしがみ付いたままだった。
でも、なんて言うか離したくない………温もりが、気持ちいいから
そして言われたのは、信じられない言葉。
えっと、どうして俺が雲雀恭弥の家に連れて行かれるんだ??
「文句は聞かない、決定事項だよ」
「いや、文句はないんだけど、俺、おまえと話するのって今日が初めてだよな?」
別段、誰かの家に泊まるのは問題ない。
だけど、初めてまともなに話した相手を突然家に連れて行けるものなのか?
それが、あの雲雀恭弥なんだから、信じられない。
「………君は忘れてるようだけど、初めてじゃないよ」
俺の質問に、信じられない言葉が雲雀恭弥の口から零れる。
初めてじゃない?
「何時、話なんて………」
「君の父親が亡くなった時」
信じられない言葉に口を開けば、ポツリと返される。
親父が亡くなった時?
俺、正直言って、あんまり記憶にないんだけど………
あの時って、かなり錯乱してたし、これからの事をグルグル考えてたから………
「ねぇ、そろそろあの時の約束を実行してもいい?」
「へぇ?約束?」
俺、錯乱してる状態で、どんな約束したんだ?
しかも、親父が亡くなってから、約一年近く経ってるんですけど………何で、何も言って来なかったんだ、こいつ。
「覚えてないとは言わせないよ」
「いや、実際に覚えてないんだけど……」
聞き返した俺に、雲雀恭弥が俺の事を抱き締めた。
って、ちょっと待て!何でそこで抱き締める。いや、引っ付いていた俺が言うのもなんですが、俺は男ですから!!
「ちょっ、雲雀恭弥!!」
「恭弥って、呼べと言ったはずだよ」
いや、言われませんから!許可は貰ったけど、呼べとは言われてません!!
「言った筈だよ、次に会った時は、君を貰うと」
いや、何度も貴方とは会ってますから、学校で!!
何で、今更そんな事を言う。可笑しいだろう、明らかに!!!
「次に会うって、何度も会ってんだろうが!!大体、何で俺をおまえにやらなきゃいけねぇんだよ!!」
「そう言う約束だって言ったはずだよ。この腕にもう一度君を抱き締めれば、約束は成就される」
って、どんな約束してるんだ!昔の俺!!
混乱してたからって、なんつー約束だよ。
でも、今、俺は雲雀恭弥の腕の中で、それが安心出来るなんて、普通じゃありえない。
「いや、だから俺はそんな約束………」
「言った筈だよ、覚えてないとは言わせない。君はもう僕のものだ」
言いかけた言葉が、雲雀恭弥の言葉によって遮られる。
言われたさ、確かに!だからって、それで納得出来るか!!
「ふざけんな!そんなんで、はいそうですかって納得出来るかよ!!」
「それじゃ、君は約束を破るのかい?」
バッと雲雀恭弥の腕から抜け出した俺は、ギッと相手を睨みつけたけど、続けて言われた言葉に一瞬言葉を失った。
約束を破る………一度した約束を破るなんて、そんな事出来ない。
親父に言われた言葉。
出来ない約束は口にするな!そして、一度した約束は何があっても、破ってはいけない。
自分は、その約束を破っておいて、酷い親だよな………。
「覚えてない約束まで、面倒みきれるかよ!」
「君は、言ったよね?『出来ない約束は口にするな!そして、一度した約束は何があっても、破ってはいけない』って………それなのに、約束を破るんだ」
何で、おまえが親父の口癖を知ってるんだよ!
それは、死ぬ間際まで、親父が言っていた言葉。
なぁ、親父だって、俺に約束したじゃねぇかよ、俺が成人するまでは、見守ってくれるって……なのに、その約束を破ったの誰だよ!
「父親の代わりに、僕が君の事を見守ってあげるよ」
「何、言って………」
親父との約束を思い出していた中言われた言葉に、信じられないと言うように雲雀恭弥を見る。
それは、親父と俺の間で交わされた約束。
もう二度と守られる事のない、約束事。
「そう言ったはずだよ。僕が、君に」
折角その腕から逃げ出したのに、またその腕の中に抱き締められる。
やっぱり、この腕に抱き締められると安心出来るのは、どうしてだろう。
どんなに否定しても、それは拭えない事実。
「そんな約束、俺は覚えてない」
「覚えてなくっても、約束したから………君が、僕の前でまた泣くような事があったら、迷わず僕のモノにするってね」
それって、先の内容と変わってないか??
そう言うからには、俺は雲雀恭弥の前で泣いたって事になる。
俺は、泣いたのか?親父が亡くなった時、泣けなくって、俺って薄情な奴だって自分で思ってたのに………
「俺、泣いたのか?」
信じられなくって、思わず聞いてしまう。
だって、薄情だと思っていたんだ。たった一人の肉親が亡くなったのに、俺は泣けなかったから……
「それさえ覚えてないのかい?君は泣いていたよ。今日のような満月の夜に……」
ああ、確かにそれは親父が亡くなった日の事。
確かに、今日のような満月の日だった。それだけは覚えている。
それだけは、忘れられない………。
だから、満月の夜に暗闇に居る事を恐れるようになった。
それは、俺が一人になった日だから
「僕の腕の中で、ね」
いやいや、そんな意味深な台詞は聞いてませんから!!
言われた瞬間、自分の顔が赤くなるのが分かった。
何でそんなに色っぽい顔で人の事見るんだよ!怪しいフェロモン駄々漏れしてます、雲雀恭弥さん!!
しかも、こいつの顔って、整っててマジで綺麗。
思わず見惚れるほどのその顔に、慌てて頭を振る。
いやいや、だから、こいつは男!んでもって、俺も男だから!!
「だから、君は僕が貰うよ。僕の前で、また涙を見せたんだからね」
何がだからなのか分かりません!
俺が泣いたら、何で雲雀恭弥のモノになるんだよ、それ可笑しいだろう!!
「俺は、誰のモノでもねーぞ」
「違うよ、君は僕のモノ……あの時の約束通りに、ね」
楽しそうに笑う雲雀恭弥の顔が目の前にあって、何も言えない。
俺には、あの時の約束が分からないけど、今分かるのは、この暗闇の中に居ても、全く怖くないって事だけ……
それは、雲雀恭弥が俺の傍に居てくれるから?
「ねぇ、、君は約束を守る義務がある。だから、今日から僕のモノだよ」
自分勝手な雲雀恭弥の言葉にも、反論せずに聞き入れる事が出来る。
それは、どうして………
きっと、俺が無意識に覚えているのかもしれない。
覚えてないけど、間違いなくこいつは俺と約束をしたのだろう。
それを、俺の体が覚えている?
「………なら、雲雀恭弥、約束しろ!俺を置いて先に逝くんじゃねぇぞ!!」
「勿論、当然の事だね……ねぇ、いい加減、僕の名前呼んでくれる?」
自棄になって言った俺のことばに、当然のように返される言葉と問い掛けるように言われたそれに、思わず笑ってしまう。
「………雲雀、恭弥………恭弥………」
雲雀恭弥の名前を、そっと口にすれば、目の前の相手がフワリと笑った。
いや、その綺麗な顔で笑われると、心臓が!!!
「これで、君は僕のモノだね………約束通り」
ええと、だからな、俺にはその約束がなんなのか分からないんですけど……えらく約束に拘るよな?一体、俺はどんな約束をしたんだろう??
「それじゃ、帰るよ、」
「えっ、おい!」
考えこんだ俺に、恭弥が促すように歩き出す。しっかりと俺を抱え込んだ格好で……
この日、俺は雲雀恭弥のモノになったらしい。
何でかよく分からないけど、それが約束だからだと……
本当に、どんな約束したんだろう、俺。
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