「何で、おめぇはそんなに強くなる必要があったんだ?」
それは、リボーンの何気ない質問から始まった。
別に、自分の事を強いとは思っていない。
だけど、こいつに言わせれば、オレは強い部類に入ると言う事だ。
もっとも、並盛最強だと言われている雲雀恭弥と遣り合っても対等以上の力も持っている事が分かったのは、中学校に上がって直ぐの事。
それまでは、自分の力がどれ位のモノかさえも分かっていなかった。
ただ、を護る事が出来れば、それだけで十分だったのだから
「おめぇの力は、もう一般のそれを超えてやがるからな」
最強のヒットマンに言われたのだから、それだけの力を誇っていいのかもしれない。
だけど、オレはまだ力が完全だとは思っていないのだ。
こんな力じゃ、を守ることは出来ない。
「全ては、を護る為だって何度も言っただろう」
だから、その質問に返す言葉は何時もと変わらない。
これだけが、力を必要とする理由。
だって、昔からは、本当に危なかっしい子供だったから……
聞こえてくる悲鳴に、その場に居た者達の視線が一斉に声のした方へと向けられる。
そこには、一人の女性を抱え込んだ男が、その女性へと持っていたナイフを突き付けた姿があった。
「大人しくしてろ!妙な真似しやがったら、この女の命はねぇからな!」
女性を人質にして、後ろから追って来たのだろう警官達に女の喉元に突き付けたナイフを見せる。
そんな男の行動に、女性がまた悲鳴を上げた。
「バカな事はやめて、その人を放せ!」
「煩い!オレが逃げ切るまで、こいつは大事な人質だ!!」
人質をとられた事で焦っている警官達を前に、男が笑う。
ああ、何でそんな下らない事を人の目の前でしてくれるんだろうね。
こんなのには見せたくなかったのに……
「母さん、早くここから離れよう」
「えっ、ええ……ちゃんも…あら?ちゃん?」
下らないその遣り取りをこれ以上見ていられなくて、母親に声を掛ければオロオロとしていた母も流石に危険を察したのか、可愛い弟へと声を掛けた。
だけど、その声が疑問へと変わる。
どうやらその弟の姿が見当たらないらしい。
「母さん、の手を離しちゃったの?」
周りは野次馬だろう人だかりが出来ていて、小さな子供を捜すのは難しい状況になってしまっていた。
「さっきまでは、ちゃんと繋いでいたのよ」
それに焦って母親へと質問すれば、言い訳するように言葉が返される。
でも、今は繋がれていないって事で、子供の姿は近くには見当たらない。
「言い訳はいいから、早く探さないと!」
「そ、そうね。ちゃん!」
子供に言われて慌ててもう一人の子供を探し始める母親に、その男の子も同じように周りを探し始めた。
その時、また幾人かの悲鳴が聞こえる。
それは、『子供が!』とか、『危ない』とか、そんな声だ。
「まさか!」
「ちゃん!」
その声に、信じられないと言うように子供が先に反応し、その後慌てたように母親が居なくなった子供の名前を呼ぶ。
「!」
しっかりした子供も、その声に人だかりの道を何とか進んで前に出る。
そして、漸く見えたその先には、信じられない光景が……
「!」
「あっ、ちゅなだ」
一人の女性を人質にしている男の目の前に捜している人物を見つけて、その名前を呼べば状況が全く分かっていないと言う様に暢気な声が返される。
「な、何だこのガキは!邪魔だ!!」
キャッキャと楽しそうに自分に手を振っている子供の姿に、邪魔だと言うように声を上げ人質をとっている男が足を動かす。
「!!」
このままではどう見ても蹴られてしまうと、焦ってその名前を呼ぶ。
周りからも、これから起こるだろう悲惨な状況が予想されて悲鳴が上がった。
「ちゃん!」
そして聞こえてきたのは母親の悲痛な声。
「よせ!!」
警官達も慌てたように目の前の子供を助けようと声を上げるが、それは届かず男が足を子供へと振り上げる。
「……おねちゃんがね、泣いてるの。こんなことしちゃメッって!」
振り上げられた足が子供の目の前に迫った瞬間、見上げるように顔を上げて小さいのにハッキリした声が回りへと響いた。
言われた内容は理解できるのだが、何でこんな状況の時に、人質にされている人の事を心配するんだとかそんな考えが過ぎる。
小さな体が蹴られてしまった後の衝撃を防ごうと動いたとたんの言葉だっただけに、思わずその足が止まってしまう。
「悪い事したら、メッて怒られるの」
そして、視線を大切な弟へと向けた。
ジッと人質をとっている男の事を見上げるように見詰めてる子供へと寸前まで迫っていた足は、動かない。
一体何が起こっているのか分からないけど、ただ蹴られそうになっているにも関わらず子供はジッと男を見上げているだけだ。
「うわ〜っ!!!」
何かの攻撃を仕掛けた訳じゃない。
ただ、子供は真っ直ぐに相手の瞳を見詰めていただけだ。
暫くその状態が続いていた後、突然男がその場に崩れ落ちた。
勿論、持っていたナイフは力なく地面に落ちる。
「……おい!」
突然の行動に何が起こったのか分からなかった警官達も人質が解放された事に気付き慌てて犯人と人質を引き離し、落ちたナイフを拾い上げた。
「坊や怪我はないかい?」
犯人を取り押さえ安心した状況になって漸く、子供へと声を掛ける。
その質問に、子供はニッコリと笑顔を見せてコクリと頷く。
「!」
「ああ、この子のお兄ちゃんかな?」
「ちゅな!あのね、あの人の事をね、しかってあげてって、お願いされたの。だからね、ぼくちゃんとしかってあげたんだよ」
状況が落ち着いたのを確認した瞬間、急いでその子供の傍へと動けばニコニコと嬉しそうに訳の分からない事が説明される。
「どう言う事かな?」
「う〜んと、ぼくも良くわかんない。でも、必死でお願いするから、止めたの」
意味の分からないその言葉に、警官の一人が質問してくるのに、必死で説明で返すが、やっぱり意味は分からない。
ただ、この子供の行動が誰かにお願いされてのモノだという事だけは理解できた。
「一体誰が、こんな子供に……」
「ちゃん!」
「おかあさん!ぼくちゃんと人のお願いを聞けるいい子になれたんだよ」
そして漸く母親が子供の元へと駆け付けギュッとその体を抱き締める。
だけど、母親の心配は全く分かっていないのだろう子供が、何処か誇らしげに母親に報告した内容はそんな言葉だった。
「何があったんだ?」
大人しく話を聞いていたリボーンが、分からないというように問い掛けてくる。
「さぁ、オレにも分からない。ただ、にはオレ達には見えない何かが見えているのかもしれない。その後も似たような事があったからね」
問い掛けられた事に、盛大なため息をついて言葉を返す。
「どう言うことだ?」
返されたその言葉に、リボーンが再度先を急かすように問い掛けてくる。
「分からない。だけど、に見詰められた相手は完全に戦意喪失。誰もがその場で大人しく捕まって終わり」
「……あいつには、特別な力でもあるのか?」
「そんな事、オレの方が聞きたいぐらいだ」
それに対して、簡潔に説明すれば疑問に思ったように呟かれた内容に再度ため息をつく。
本当にその通りだ。
オレの方が知りたい。
何でが自分から危ない事をするのか?
そして、誰がに願っているのか、それを知りたいのは、誰でもない自分自身。
「だからオレは強くなるしかなかったんだよ。が自分から危険に飛び込んでしまうからこそ、それを未然に防ぐ為に、ね」
最後に最初の質問へと戻って言葉を返す。
そう、これが全ての理由。
でも、一度だけオレは逆にに助けられてしまった。
オレが、を助けるとそう心に決めていたのに……
その一度だけが、から動く事を大幅に奪う事になったのだ。
「これからも、オレは強くならなきゃいけないんだ。もう、二度とを傷付けない為に……」
「ふん、ならオレの特訓にしっかりついてくるんだな」
「言われなくっても、ちゃんとやってるだろう!」
ポツリと呟いた言葉に返されたそれに文句を言う。
だからこそ、これからも強くあり続ける。
それが、オレの唯一出来ることだと、そう思うから……そして、何よりも、大切な君を守る事へと繋がっているのだと、分かっているから……
「……バカの能力か、調べてみねぇとな…」
考えに浸っていたオレは、ポツリと呟かれたリボーンの言葉を聞き逃してしまった。
もしも、本当に特別な力があると言うのなら、もうこれ以上が傷付かない事だけを、それだけを願う。