「だから、理由を教えてよ!」

 ここ3日、ずっとこんな会話を続けている。
 だって、何も教えてくれないから……

「分からないけど、オレの傍に居て欲しいんだ」

 俺の言葉に返されるのは、何時も同じ言葉。
 ねぇ、どうしてそんなに不安そうにオレを見詰めてくるの?
 俺には、何も話してくれないのは、俺が頼りないから??

「それじゃ、理由になってない!!」

 傍に居るだけで、書類を手伝わさせてくれる訳でもない。
 手伝うと言えば、『これはオレの仕事だから、はそこに座ってていいよ』って、返される。
 ずっとここに居させるのかが分からなくって、質問しても返されるのは同じ言葉だけ

 居るだけなんて、何の役にも立ってない。
 ツナは一人忙しそうに書類を片付けているのに、俺はただソファに座ってそれを見ているしか出来ないなんて、ただの拷問だ。

 だから、かなりストレスが溜まってたんだと思う。何時も以上に激しくツナに文句を言ったのは
 そんな俺に、ツナは何処か困ったような複雑な表情をするだけで、やっぱり明確な説明はしてくれない。
 ねぇ、それならせめて、俺にも仕事を手伝わせてくれればいいのに、何で何もさせてくれないの?

「ごめん、もう少しだけ、ここに居てくれる?」

 そして言われるのは、申し訳なさそうな表情での謝罪の言葉と、お伺い。
 それで、ずっと俺はがんばって大人しくしていたけど、もう限界!

「なら、せめて仕事を手伝わさせてよ!!」
「それはダメ!だって、は幹部じゃないから、書類を見せる訳にはいかないんだよ」

 バンッと派手な音をさせて机を叩いてまで訴えた俺に、きっぱりと返されたその言葉にうっと言葉に詰まった。
 そう、俺に書類の仕事をさせてくれない理由は、それ。
 俺を幹部の人間に認めてくれなかった、ツナの所為だ。

 俺だって、守護者の一人の筈なのに……どうして、幹部の一員として認めてくれないの?
 戦えないから?
 でも、昔と違って、俺だって少しは動けるようになったのに……

「だったら、俺を幹部として認めてって何時も言ってるじゃんか!俺だって、守護者の一人なんだから、資格は十分にある筈だよ」
「何度も言ってる。それは絶対に認められない」
「ツナ!!」

 真剣な表情で返された何時もと同じ言葉に俺は非難するように、ツナの名前を呼ぶ。

 どうして、俺を遠避けようとするの?
 その癖、俺が離れて行こうとすると引き止めてくれるのに……
 そんなに邪魔なら、追い出してしまえばいいのに、何で俺はここに居るんだろう。

「もう、知らない!俺は、勝手にするからな!!俺はツナの部下じゃないんだから、命令を聞く必要もないんだよね?」
!」

 もうこれ以上この場に居る事が出来なくって、踵を返しツナのオフィスから飛び出そうとした瞬間、ボフンと白い煙が俺の周りに現れた。

!!」

 その瞬間聞こえてきたのは切羽詰ったツナの声。


 あれ?これって、前にも経験した事があるような……えっと、確か……

「思い出した!10年バズーカだ!!」
「えっ、あの、もしかして、?」

 思い出した事にすっきりとして口を開いた瞬間、恐る恐るといった様子で声を掛けてきた人物に気付き顔を向ければ、懐かしい姿のツナが目の前に立っていた。
 そして、俺の下からうめき声が……

「ご、ごめん!」

 その声に気付いて慌てて退けば、俺の下から黒髪のアフロヘアーと白黒の牛柄の服を着た男の子が居た。
 えっと、確か昔、この男の子を助けて10年バズーカに撃たれたような気がする……あれって、今日だったんだ。

「大丈夫?」

 潰してしまった男の子を心配して声を掛ければ、俺の顔を見て泣き出してしまう。

 えっ、俺、そんなに怖い顔してたのか?!
 でもそのわりには、俺に引っ付いて泣いてるし……怖かったんなら、こんなに抱き付いてくる事はしないよね、普通??

「おい、ランボ!その人から離れろよ!!」

 多分中学生だろうツナが俺に引っ付いている子を引き離そうとするけど、その子は俺に引っ付いて嫌々と首を横に振るだけだ。

「いいよ、ツナ。ほら、ランボももう泣かない!潰しちゃった事は謝るけど、不可抗力だし、本当にごめんね……どっか痛い所とかある?」
「ラ、ランボさん、びっくりしただけだもんね、痛いから泣いてるんじゃないんだからな!!」

 必死で俺からランボを引き離そうとしているツナを止めてから、優しく声を掛ければ、泣きながらも俺の質問に答えてくれる。

「そっか、びっくりさせちゃってごめんね。ちょうど良かった!確か……」

 えっと、確かポケットに入れてたはずなんだけど……
 ゴソゴソと自分のポケットの中を探す俺に、漸く泣き止んだランボが不思議そうな顔で俺の事を見上げてくる。

「あった!ほら、ランボの好きなブドウの飴」
「アメ玉だもんね!!……そう言えば、お前ってば誰だってば?」
「ああ、そうだったね。俺はだよ。ランボの10年バズーカで撃たれて10年後の世界から来た、沢田

 ポケットから目当てのモノを見付けてランボに渡せば、嬉しそうにそれを食べ始めるランボが、俺の存在に気付いて質問してくるその内容に思わず苦笑をこぼしながら答えてあげれば、少し驚いたようにランボが俺を見上げてきた。

?」
「そうだよ」
「やっぱり、なの?!」

 不思議そうに見上げてくるランボに返事を返せば、ツナの驚いたような声が聞こえてくる。
 そう言えば、直ぐ傍に中学生のツナが居たんだったよ……忘れてた、すっかり……

「うん、間違いなくだよ。って、言っても、10年後のだけどね……」

 くるりと振り返って俺達の様子を見詰めているツナに、ニッコリと笑顔で答えれば、ツナが少しだけ俺を見上げるように見詰めてくる。
 あれ?この目線って、もしかして……

「もしかして、俺の方が背が高い?」
「えっ、あの……」
「ツナの嘘吐き!俺は、中学生のツナよりも身長低いなんて言いやがって!!俺の方が、ちゃんと高いじゃんか!!!」

 くそ、ツナに騙された。

 ちゃんと俺だって成長してるじゃん!そりゃ、確かにツナに比べたら、身長低いのは認めるけど……大体、双子なのに数年でこんなにも身長差がでなくってもいいじゃんか!!
 俺も、父さんのDNAが欲しかったです。

、どうしたの?」
「あっ、ごめん!ちょっと理不尽だなぁと考えてた」
「はぁ?」

 自分の身長の低さを呪っていた俺に、ツナが心配そうに質問してくる。
 それに、苦笑をこぼしながら答えれば、当然意味が分からないツナが聞き返してきた。

「深く考えなくてもいいよ……うん、なんていうか、中学生のツナと10cmも身長の差がない事にちょっとだけ悲しくなっていただけだから……」

 確かに中学生のツナと比べれば俺の方が高いけど、それも数センチだけの違いなのが本気で悲しくなる。
 母さんのDNAの所為だよな絶対。

 これからでも、ちょっとは高くなってくれないかなぁ……流石に、二十歳を過ぎると無理だろうか……

「おい、ダメ!」
「……この姿でも、そう言われるのは慣れてるんだけど、10年前のリボーンにまでダメ呼ばわりされるなんて……」

 何処か遠くを見ていた俺に、懐かしい声で名前を呼ばれて盛大なため息をついてしまう。
 やっぱり俺って成長してないって事なんだろうか?

「お前はダメで十分だぞ。そんな事よりも、お前の目……」
「俺の目?」

 ちょっとだけ打ちひしがれていた俺に、リボーンが酷い事をサラリと口にしてから、少しだけ驚いたように言われた内容に首を傾げる。

 俺の目がどうしたんだろう。
 高校を卒業してから眼鏡は外したけど、それ以外におかしな所はないと思うんだけど……

「そう言えば、瞳の色が……」

 リボーンに続いてツナまでもがじっと俺の瞳を見詰めながら言われた言葉に、納得。

「うん、瞳の色はね、子供の頃の色に戻っちゃった……」

 中学生のある事件をきっかけに、俺の瞳は片目が金色に戻ってしまった。
 もう片目はちゃんと茶色のままなのに、今では瞳の色が違うのが一瞬で分かってしまうだろう。
 だから、一時期はカラコンでごまかしていたぐらいだ。

「その色が、お前の元々の色なのか?」
「う〜ん、元々の色かどうかは分からないけど、小さい子供の頃は間違いなくこの色だったよね、ツナ」
「確かに、そうだけど……色が元に戻るなんて……」

 質問してくるリボーンに返事を返して、ツナに同意を求める。
 俺の質問に、ツナが頷いて不思議そうに俺の瞳を覗き込んできた。


 ああ、まだこのツナは、俺の瞳の色が戻った理由を知らないんだ……もう少し、先の事件で俺の瞳の色はこの色になる。
 その事に後悔はないけど、ツナが更に過保護になったのって、あの事件が原因のような気がするんだけど……

「ツナ、俺は大丈夫だから、あんまり俺ばっかりに構っていたらダメだよ。俺はね、ツナに幸せになってもらいたいんだ……ツナの好きな人と……応援するから、だから遠慮しなくってもいいんだからね」
?」
「そろそろ時間みたいだ。さっきの事、絶対に忘れないで」

 それが、俺の本心だから……

 俺の事ばっかり気にしてないで、ツナには好きな人と幸せになって欲しい。
 そりゃ、俺だってツナの事好きだけど、それは望んではいけない好きだから……

 ねぇ、もしも兄弟じゃなかったら、俺はこの気持ちを素直にツナに伝える事が出来たんだろうか?
 でもね、ツナと兄弟として生まれてきた事を恨んだ事はないんだよ。
 だって、兄弟ならずっと傍に居られる。
 どんな事があっても、繋がりを持っていられるから


 ボフンと音がして、また俺の視界を煙が遮った。

 ああ、そうだ。10年後に戻ったら、ツナに謝らないと
 だって、俺を外に出さなかったのは、きっとこの所為だったんだろう。
 ツナの直感が働いたって事。
 だから、理由が言えなかったんだ……だって、直感力はあくまでも勘。何が起こるのかまでは分からないんだから

!」

 そこまで考えた瞬間、名前を呼ばれてゆっくりと瞳を開く。

「ツナ」

 自分の目の前に居たのは、見慣れたツナの姿。
 ああ、戻ってきたんだとそう思った瞬間、ぎゅっと抱き締められた。

「お帰り、
「うん、ただいま……それから、ごめん、ツナ」

 抱き締めてくれる温かな腕を感じて、その温もりを逃がさないように俺もぎゅっと抱き締め返す。
 そして、ツナに挨拶を返してから、素直に謝罪の言葉を口にした。
 どうしてツナが俺を外に出したがらなかったのか、それが分かったから

「ううん、オレの方こそ、ごめん」

 俺の謝罪に、ツナが小さく首を振って謝罪する。
 それが何に対しての謝罪なのか分からないけど、きっと俺を幹部として認めない事にあるのだと分かって口を閉ざした。

には、この世界に染まって欲しくないから……これは、オレの我侭だって、分かってるけど……」

 本当は分かってる。

 だって、俺を幹部に入れない事でかなり回りから攻められている事だって本当は知っているのだ。
 だけど、ツナ一人をこの世界に居させたくはない。

「ツナ、俺はね、どんな場所だとしても、ツナと一緒に居たいからここに居るんだよ。その覚悟だってちゃんと持ってる……でも、ツナに辛い顔させてまで、それ以上を望むつもりなんてないから……」

 けどね、ツナがそんなに悲しそうな顔をするなら、全てを諦めてもいいと思ってるんだ。
 俺が、ここにいる事でツナを苦しめているのなら、俺は……

「ダメだよ!がオレの傍から居なくなるのは、絶対に許さない!!」

 心の中でそっと考えた事に、真剣な声が返される。
 そして、離さないと言うように俺を抱き締めている腕に力が込められた。

「ツナ」

 痛いほど抱き締めるツナに、嬉しいと思っている自分を自覚する。

 ねぇ、ツナは俺を好きだって言ってくれるけど、それはきっと俺とは違う好きなんだよね。
 肉親として、兄弟としての好き。

 でもね、俺は違うんだよ。自覚してしまった俺の気持ちは、兄弟としての好きなんかじゃなく、世界で一番大切な存在で愛しいと思える相手。
 そんな事、ツナに言える訳がないから、だから君に好きだと言われても、同じように好きと返すだけで精一杯。

 本当は、この想いを伝えたい。
 だけど、ツナにずっと好きな人が居る事を知っているから、俺はこの想いに蓋をする。
 そうする事で、兄弟と言うその場所を確保していられるから……

「ツナが、俺を必要としてくれるなら、俺はここに居るよ」

 だから、今は必要としてくれるこの腕の温もりに縋っていたい。
 例え、何時かツナが本当に想っている相手と一緒になるその時までは……