バレンタイまで、後2日。
でも、どうやってチョコレートを準備したらいいのか、まだ分からない。

「雪、勉強中だぞ、意識を戻せ」

どうしたらいいのか分からなくて、小さくため息をついた瞬間、リボーン先生に怒られる。
いけない、今はリボーン先生とのお勉強の時間だった。

「ごめんなさい」
「集中しなかった罰だぞ。今日は、ここまでを課題にする」

素直に謝罪したぼくに、リボーン先生が初めに予定した課題よりも5ページ多く追加する。
確かに、お勉強に集中してなかったぼくが悪いから、素直に頷いて返す。

「ちゃんと出来たら、雪が考えていた内容のヒントをやるぞ」

頷いたぼくに、リボーン先生が満足そうに笑ってくれる。
そして、ちょっと意地の悪い笑みを浮かべながら言われた内容に、きょとんとしてしまった。

えっと、ぼくが考えていた内容って……
バレンタインに、チョコレートをどうするかってことだよね?
……しっかりと、リボーン先生に心の中を読まれちゃったんだ。

やっぱり、リボーン先生に隠し事は出来ない。
でも、ヒントをくれるってことは、ぼくでも何とかなるって事なのかなぁ?

「ああ、そのヒントをやるから、今はこの問題に集中するんだ」
「はい」

またまた読まれた考え、だけど、続けて言われた内容に、ぼくは素直に頷いて返した。
リボーン先生がヒントをくれるのなら、なんとかなるような気がする。
だから、今はお勉強を頑張ろう!

その後は、言われたようにお勉強に集中して、課題に出されたページまでを終了させる事が出来た。
問題を解いたノートをリボーン先生に渡して答え合わせをしているのを、ぼくは、じっと見詰める。
何時も、この時はドキドキするから、思わずリボーン先生を見てしまうのだ。

「よし、全問正解だ。良くやったな、雪」

全ての問題を確認し終わったリボーン先生が、満足気に笑ってぼくの頭を撫でてくれる。
それが嬉しくて、顔が自然と笑顔になった。

うん、これが笑顔だよね。

嬉しいと、自然と出るようになった事に、つなよしはとても喜んでくれた。
ぼくが笑ったら、つなよしも笑ってくれるから、とっても嬉しい。

それは、リボーン先生も同じで、少しマメのあるゴツゴツとした大きな手がぼくの頭を撫でてくれるのが、とっても嬉しい。

「それじゃ、頑張った雪にご褒美だ。お前が欲しいものは、料理長に言ってみろ、何とかしてくれるぞ」
「料理長?でも、ぼくが行ったら、迷惑にならない?」

ご褒美にと言って教えてくれた内容に、ぼくは首を傾げて返す。
料理長って、何時もみんなに美味しい料理を作ってくれる人たちの中で、一番偉い人だよね?
料理を作っている人たちは、みんなのご飯を毎日3食も作っているのだから、とっても忙しいと思う。
なのに、ぼくなんかがお願いしに行ったりしたら、迷惑になるんじゃないのかなぁ?

「あいつは監督だけで実際は、暇してるから、大丈夫だ。話はしといてやるから、頑張って美味しいの作れ」

ぼくの心配に、意地悪く笑ったリボーン先生が言った最後の言葉にもう一度首を傾げる。

作る?
チョコレートって、作れるものなの??
それって、ぼくにも作れるのかなぁ???


半ばリボーン先生に無理やり部屋から追い出されて、向かった先はキッチン。
このボンゴレを裏で支えている、場所。

でもぼくは、一度もキッチンに入った事はない。
だから、場所は知っていても、ほんとうに入っていいのかが分からない。

キッチンの前で、ウロウロとどうするべきか思案していると、突然後ろから声を掛けられて、飛び上がるぐらい驚いた。

「雪!お前、こんなところで何やってるんだよ!!」

怒鳴るように言われるその声は、良く知っている相手で、つなよしの右腕?だと言うはやと。
怒鳴っているけど、本当にぼくの事を怒っている訳じゃないのは、分かっている。
だけど、急に大きな声を出されると、しんぞうがびっくりするんだ。

「は、はやと……ぼく、リボーン先生に、ここに行けって言われて……」
「ああ、リボーンさんに言われたのか、社会勉強か何かか?」
「えっと……」

どきどきするしんぞうを抑えて、振り返ったぼくは、ここにいる理由をはやとに話す。
それに、納得したのかはやとがうなずいて聞き返してきた。
でもぼくには、それにどう返したらいいのか分からない。
だって、勉強のためにここに来ている訳じゃないから

「まぁ、いい。オレもちょうど料理長に話があるからな、一緒に中に入るか?」
「うん!」

返答に困っていたぼくに、それ以上の追求をする事をやめたはやとが、更に問い掛けてくれた内容に、ぼくは大きく頷いて返す。
だって、一人ではとても中に入りにくかったから、嬉しい申し出だった。

でも、はやとは料理長に用事があるって言ってた。
それって、お仕事の話だよね?
ぼく、本当に邪魔にならないのかなぁ?

「料理長居るか?」

本当にこのままお邪魔してもいいのか、分からなくて、でも、そんなぼくには気付かずにはやとはキッチンへと入って行ってしまう。
しかも、入って直ぐに料理長を呼んでしまった。
だから、ぼくもその後に続く事しか出来ない。

「これは獄寺様、どうかされましたか?」
「ああ、10代目からの伝言だ。夜会メニューについて……」

はやとは、ぼくが後ろにいるのも忘れて、お仕事の話を料理長としている。
夜会って、確か明日開かれるぱーてぃーのことだよね?
つなよしが、明日は一緒に夕飯食べられないって、言ってた。
本当は、そんなの開きたくないって言って、リボーン先生に怒られていたのは、記憶に新しい。

「了解いたしました。では、そのように手配いたします。ところで、後ろにいらっしゃるのは?」
「ああ、忘れてた。雪、料理長に用事があるんだろ?」
「えっ、あの・・・・・・」

真剣に話をしているはやとと料理長の話をぼんやりと聞いていたぼくは、突然話を振られてビクリと大きく震える。

ど、どうしよう、ぼく、なんて言ったらいいんだろう。

「雪様、気付かず申し訳ございません。リボーン様からお話は伺っておりますから、ご安心ください」

オロオロとしているぼくに、料理長が頭を下げながら声を掛けてくれる。
本当に、リボーン先生が話をしていてくれたみたいだと分かって、ホッとした。

「ああ、なら話は早い。オレは先程の事を10代目に報告しねぇといけないから、雪の事頼むぞ」
「了解いたしました。綱吉様に宜しくお伝えください」

はやとは、料理長の言葉に安心したような顔をして、ぼくの頭を叩くように撫でてからキッチンを出て行ってしまう。
そんなはやとに、料理長は頭を下げながら見送っていた。
ぼくは、そんな二人をただオロオロしながら見ている事しか出来ない。

「お待たせいたしました、雪様。それでは、早速始めましょうか?」
「えっ、あの……ぼく……」
「大丈夫ですよ、先程言いましたように、お話はリボーン様から伺っております。皆様にチョコレートをプレゼントされたいのですよね?」

はやとの姿が完全に見えなくなってから、料理長がぼくの方に向いて優しい笑顔で問い掛けてくる。
だけど、ぼくはそれにどう答えたらいいのか分からなくて、困惑していたら、料理長がもう一度問い掛けてきてくれた。
その言葉に、パッと顔を上げて料理長に頷いて返す。
ぼくが頷いたら、料理長はとっても優しい笑顔で返してくれた。

だけど、どうして料理長はぼくのことを様付けで呼ぶんだろう。
ぼくは、つなよしに引き取られただけの子供なのに

「あ、あの」
「はい、なんでしょうか?」
「ぼくに、様付けは必要ない、です」

優しく笑ってくれる料理長に、ぼくはなんとか言葉を伝えた。
ぼくなんかに、様付けはして欲しくない。

「いいえ、雪様は綱吉様の大切なお方です、呼び捨てになど出来ませんよ」

ぼくが、つなよしの、大切な方?
ぼくの言葉に返されたのは、優しい笑みと、不思議な言葉。

「ですから、雪様とお呼びする事をお許しくださいませ」

そして、尋ねられたその言葉にぼくはただ頷いて返す事しかできなかった。
でも、ぼくが、つなよしの大切な方って、どう言う意味なんだろう?

その後、初めから終わりまで、料理長はずっと優しく笑ってくれて、ぼくと一緒にチョコレートを作ってくれた。
そのお陰で、ぼくはみんなにチョコレートを渡す事が出来た。
皆が喜んでくれたから、ぼくも嬉しかったけど、つなよしだけは何でか、ちょっと不機嫌だったけど
ぼくには、笑顔を見せてくれたから、良かったのかなぁ?

料理長は、そんなつなよしにただ笑っているだけだった。
でもその笑顔は、ぼくと一緒にチョコレートを作ってくれた時とは違って明らかに楽しんでいるような笑顔だったのはどうしてだろう。

その笑顔を見て、何となくリボーン先生が意地悪している時の笑顔と重なったのは、みんなにひみつにした方がいいのかなぁ?
どうしようか考えていたぼくに、リボーン先生がその意地悪な笑みを浮かべて黙って置くようにと言うように唇に人差し指を当てる。
うん、料理長とリボーン先生同じ顔してるんだけど、皆、気付いてないのは何でだろう。

でも、ぼくにも何でリボーン先生と料理長が楽しそうにしているのかまでは、分からない。

「その内、分かるさ」

そう言って、リボーン先生は笑っていたけど、本当にその内ぼくにも分かるようになるのかなぁ?
でも今は、ぼくと料理長とで作ったチョコレートを食べて少しでも皆が喜んでくれたのを喜ぼう。

「雪、来月のホワイトデーを楽しみにしててね」

チョコレートを食べていたつなよしが突然言ったその言葉に、首を傾げる。

えっと、ホワイトデーって、なに?

にこやかな笑顔で言われた言葉の意味が分からなくて首を傾げるぼくに、つなよしだけじゃなくたけしやはやとも同じように笑って頷いていた。

そして、ぼくがホワイトデーを知ったのは言葉どおり一ヶ月経った日だった。