今年も、リボーン先生と綱吉の誕生日が近付いてきた。
初めて二人に贈ったのは、笑顔でお祝いの言葉を言う事だった。
去年は、頬にキスしてお祝いすればいいって、恭弥に教えてもらってお祝いできたと思う。
綱吉が、ちょっと怒っていたけど、でも、ちゃんと嬉しいって言ってくれたから、大丈夫なのかなぁ?
でも、それじゃ今年は何を贈ればいいんだろう?
何を贈れば、喜んでくれる?
もう、昔みたいに何も知らない自分じゃない。
今年は、誰にも頼らず、二人が喜んでくれるプレゼントを渡せるように頑張ろう!
って、思ったのに、もう既に挫折している自分が居る。
お屋敷から出るのは、綱吉が許してくれないから無理。
理由を言えば、許してくれるかもしれないけど、そうすれば、内緒には出来なくなってしまう。
それに、買って渡す物って言うのは、お金持ちな綱吉やリボーン先生が喜んでくれるとはどうしても思わない。
なら、何を贈れば喜んでくれるんだろう。
去年も一昨年も、ボクは二人に物は贈っていない。
気持ちを贈ったって、言うんだろうか?
なら、今年も同じように、気持ちを贈れば、喜んでくれるのかなぁ
でも、どんな気持ちを贈れば喜んでくれるんだろう?
リボーン先生には、生まれてきてくれた感謝の気持ちだって分かる。
でも、綱吉には?
綱吉がボクを引き取ってくれて、育ててくれた。
ボクがここに居られるのは、綱吉のお陰。
なら、綱吉にも、感謝の気持ちを贈ればいいのかなぁ?
間違いじゃないと思うんだけど、それだけじゃ足りないような気がする。
どうしてそう思うのか、分からないけど
でも、綱吉には感謝の気持ちだけじゃ足りない、そう思うんだ。
だけど、だったら、他にどんな気持ちを贈ればいいんだろう?
あれ?振り出しに戻っちゃった。
可笑しいなぁ?
「雪」
考えていた事に思わずため息を付いた瞬間、名前を呼ばれて意識を引き戻される。
驚いて振り返ると、そこに居たのは仕事中であるはずの綱吉。
「綱吉?!」
まだこの時間ならお仕事している時間の筈なのに、どうしたんだろう。
驚いて、思わずその名前を呼んでしまった。
「驚かしたみたいだね。ちょっと部屋に忘れ物しちゃったんだ」
「そう、なんだ。言ってくれたら、届けたのに」
「でも、オレのミスだからね。雪に迷惑掛ける訳にはいかないよ」
忘れ物をしたと言う綱吉にそう言えば、苦笑を零しながら綱吉らしい言葉が返って来る。
そう言いながら、テーブルの上に置いてあった書類を手に取った。
でも、ボクは迷惑だ何て思わない。
今日のリボーン先生の授業は終わっているのだから、今は自由な時間を過ごしている。
それに何よりも、忙しい綱吉の手伝いが出来るのは、凄く嬉しい。
綱吉が言ったその言葉に、ボクはフルフルと首を振って返した。
「迷惑じゃないよ。綱吉の役に立てるの、ボクは嬉しい」
どんな小さな事でも、役に立てるのなら嬉しい。
役に立ない自分だからこそ、何でも言って欲しいと思う。
そうじゃなければ、自分はただの厄介者でしかないのだ。
綱吉に引き取られて、3年。
なのに、ボクは何の役にも立っていない。
それが、ボクにとっては、心苦しいのだ。
「雪が居てくれるだけで、十分に助けられてるんだけど」
俯いて考えていたボクの耳に、少し困ったような表情をしながら綱吉が言ってくれたその言葉に、驚いて顔を上げる。
まるで、ボクの心を読んだようなタイミング。
ああ、多分綱吉はボクの心を読んだんだろう。
だからこそ、ボクの考えを否定する言葉をくれたんだ。
でも、言われたその言葉に、ボクはフルフルと首を振って返す。
だって、居てもボクは何も出来てなんていない。
ただ、綱吉に迷惑しか掛けられないのだ。
「オレは、雪がそんな風に思っている事の方が悲しいよ。どうして役に立つとか、役に立たないなんて考えるのかが分からない」
首を振って返したボクに、綱吉が悲しそうな表情をする。
ボクは、そんな顔を綱吉にさせたかったんじゃないのに
「……ごめんなさい」
間違いなく、綱吉に悲しい顔をさせてしまったのはボク。
だからこそ、今のボクに出来るのは、そんな綱吉に謝罪する事。
「謝る事じゃないよ。でもね、雪。役に立つとか、役に立たないとか、本当にそんな事を考えて欲しくは無いんだ。オレは、雪が居てくれて良かったと思ってるんだから」
真剣に言われる綱吉のその言葉に、ボクは何も言えなかった。
綱吉が、ボクが居てくれて、良かったと言ってくれたのに、心がポッと温かくなって何も返す事が出来なかったんだ。
ただ、ポロリと何かが頬を流れたのが分かる。
「雪!?」
そんなボクに、綱吉が驚いたように名前を呼ぶ。
でもボクは、どうして綱吉がそんなに驚いているのかが分からない。
キョトンとしたボクに、綱吉が少しだけ困ったようにゆっくりと近付いて来てそっと抱き寄せられた。
「つ、綱吉?!」
突然の綱吉の行動に驚いて、ボクは驚いて綱吉の名前を呼ぶ。
「悲しい涙じゃないのは分かるんだけど、雪が泣いているのは見たくないんだよ」
「泣く?」
言われて初めて、頬を流れたものがなんだったのか分かった。
涙って、悲しい時じゃなくても流れるって聞いた事があったけど、あれは本当だったんだ。
「ボク、泣いてたんだ……」
綱吉に言われるまで、気付けなかった。
でも、悲しい涙じゃない。
綱吉はボクがどうして泣いているのか、分かっているみたいで、でも少しだけ困った表情で抱き締めてくれた。
こんなに涙を流したのは、生まれて初めてだ。
だからこそ、分からなかった。
自分が泣いている事に……
「そう言えば、雪が泣いてるのを見たのは、初めてだったっけ?だから余計に焦っちゃったんだよ」
そんな事を考えているボクの傍で、綱吉が少しだけ困ったような表情で言われた言葉。
だって、ここに居れば、泣く事なんてない。
みんな優しくて、温かい。
だからこそ、今流した涙だって、悲しい涙なんかじゃなくて、嬉しかったから
こんなボクでも、綱吉が居てくれて嬉しいって言ってくれた事が、幸せだった。
本当に、そう思ってくれている事が、嬉しかったから
ああ、そうだ。
綱吉にも、この気持ちをプレゼントしたい。
感謝の気持ちと、ボクが嬉しいって感じるこの思いをプレゼント出来ればいいのになぁ。
「雪?」
そんな事を考えていたボクの名前を、綱吉が心配そうに呼ぶ。
「ボクは、綱吉に会えて本当に良かったと思うよ。何も出来ないけど、ずっと綱吉の傍に居たい」
それが、ボクの心かの気持ち。
綱吉に会えたからこそ、ボクは笑えるようになった。
そして、嬉しいと泣けるようになったんだ。
だからこそ、そんなボクでも居てくれて良かったと言ってくれる綱吉の傍に、ずっと居たい。
この気持ちがどういうものなのか、今のボクにはまだ分からないけど
でも、ただ言える事は、綱吉の傍に居たいってことだけ
「……ちょっと早いけど、最高のプレゼントを貰えた」
ギュッと綱吉に抱き着いて言ったその言葉に、綱吉は本当に嬉しそうな笑顔で、そう返してくれた。
ちょっと、早いけど、プレゼントを貰ったって……
ボク、何も綱吉にプレゼントしてないんだけど……
何が、綱吉に喜んでもらえたのか分からない。
だけど、本当に嬉しそうな顔をしている綱吉に、ボクも嬉しくなって笑顔を返した。
「うん、その笑顔が、オレにとってはそれが一番のプレゼントになるんだけどね」
あれ?もしかして、ボクが綱吉にプレゼント考えていたのって、しっかりバレてる?
悩んでいた事を言い当てられたって事は、やっぱりしっかりバレていたんだろう。
綱吉には、隠し事出来ないよね。
「リボーンへのプレゼントも、その笑顔で十分だからね!去年みたいに、キスは必要ないから!!キスするならオレだけだからね!!!」
あ、あれ?なんで、そんなに力説……
そんなに、去年のプレゼントって、ダメだったのかなぁ?
でも、綱吉にはキスしていいって……良く分からない。
「えっと、キスは、綱吉だけ?リボーン先生には、笑顔だけ??」
「うん!それでお願いします」
あれ?お願いされた。
えっと、それじゃ、今年のプレゼントは、リボーン先生に感謝の気持ちととびっきりの笑顔。
綱吉には、感謝の気持ちととびっきりの笑顔とキスで、いいのかな?
お願いされたから、それで確定??
気が付いたら、綱吉に今年のプレゼントを決められていた。
でも、それで綱吉が喜んでくれるのならそれでもいいかなぁと思う。
二人の誕生日まであと少し、少しでも喜んでもらえるように頑張って笑顔の練習しなきゃだよね!